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投稿日:2020年10月07日

投稿日:2020年10月07日

CPA――顧客を集めるコストは安いほうがいい?

嶋田 毅
グロービス電子出版発行人 兼 編集長、出版局 編集長

今年8月発売の『KPI大全–重要経営指標100の読み方&使い方』から「021 CPA(Cost per Acquisition)」を紹介します。

顧客(特に新規顧客)は勝手に集まっては来ませんので、プロモーション費用が必要になります。その効率を見るのがCPAです。CPAは昔からあった概念ですが、特に近年のウェブマーケティングでは、どの媒体に出した広告から来た顧客かが容易に捕捉できるため、きめ細かくCPAを測定することができます。それを活用することで、媒体の選択や、クリエイティブの改善などのアクションがとりやすくなるのです。なお、CPAをあまり低く設定すると、顧客の質が下がることもあるので、実際に来た顧客の質やLTV(顧客生涯価値)も勘案しながらこのKPIを活用することが必要です。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

CPA(Cost per Acquisition)

1人の顧客を獲得するのに要した費用。特にウェブマーケティングにおいて多用される概念

KPIの設定例

前四半期のCPAは1500円だった。まだまだ工夫の余地はありそうだから、今四半期中に1000円にまでは下げたい。

数値の取り方/計算式

KPIの見方参照

主な対象者

事業責任者、プロダクト責任者、マーケティング担当者

概要

CPAは通常、サービスの単価やARPU(Average Revenue Per User:ユーザー当たり収益)、ARPPU(Average Revenue Per Paid User:課金ユーザー当たり収益)、LTV(顧客生涯価値)との比較でその高低を判断します。LTVに比べてCPAが低い場合、非常に効率的に顧客を獲得できているといえます。

KPIの見方

CPAはウェブマーケティング以外にも活用できますが、ここでは主にウェブマーケティングを前提に議論します。

例えばあるアプリのダウンロードを考えてみましょう。フェイスブックに1000万円、インスタグラムに500万円の広告を投下して、それぞれアプリをダウンロードしたユーザーが4000人と2500人だった場合、フェイスブックの広告のCPAは1000万円÷4000人=2500円、インスタグラムの広告のCPAは500万円÷2500人=2000円となり、わずかにインスタグラムの方が効果的ということがわかります。この2つの媒体にしか広告を行わなかったとしたら、トータルのCPAはおよそ2300円になります。単位は厳密には「金額/人」ですが、金額のみで示すのが一般的です。

なお、この事例からもわかるように、通常CPAはダイレクトに投下した直接費で見ます。実際にはそれ以外にも広告担当者の人件費といった間接費(共有している費用)が生じているはずなのですが、通常それはCPAには含めません。また、オーガニックな検索からの顧客は分母に含める場合と含めない場合があるので、議論をする際には注意が必要です。

なお、事業や企業全体としての顧客獲得コストはCAC(Customer Acquisition Cost)と呼ばれ、そこにはさまざまな販売管理費が盛り込まれます。より正確な採算性分析を行うためには ABC(活動基準原価計算)などを用いてその妥当性を検証する必要性があります。

KPIの使い方

CPAはマーケティング担当者が意識する数字です。人事考課面で用いられることもありますが、より効果の高いマーケティング手法を探るための意思決定に用いられます。また、経年比較などをしてCPAが上がっていないかといったこともチェックします。

例えば4つの媒体に広告を打ったとします。仮にその時点でのLTVが10万円と見積もられている中で、媒体AのCPAが5万円、媒体Bが2万円、媒体Cが15万円、媒体Dが3万円だとしたら、明らかに媒体Cに広告を出すのは得策ではありません。もちろん、媒体ごとにクリエイティブ(広告表現)が異なる可能性もあるのでその精査は必要ですが、そこに大きな差がないのにこの結果だとしたら、媒体Cの予算を削って媒体Bや媒体Dに振り向けることが有効ということがすぐにわかります。CPAはライフサイクルやその時々の経営環境に応じても変わってきますので、通常は短い時間軸できめ緇かくPDCAを回し、それを低減することを目指します。

トータルとしての目標設定は、社内の類似事例や目標とする利益(初期フェーズではマイナスとすることも多い)などを勘案して設定するのが一般的です。

補足・注意点

CPAはもちろん低い方がいいのですが、LTVを増大させる(例:内容を充実させることで離脱率を減らす)ことでCPAの許容度を増やすことができるという点も忘れてはいけません。

関連KPI

LTV、ARPU、ARPPU、媒体当たり広告費、CAC

グロービス出版
グロービス電子出版

嶋田 毅

グロービス電子出版発行人 兼 編集長、出版局 編集長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。