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投稿日:2020年09月25日
投稿日:2020年09月25日
価格維持率(値引き率)――「麻薬」では利益率は上がらない
- 嶋田 毅
- グロービス電子出版発行人 兼 編集長、出版局 編集長
今年8月発売の『KPI大全–重要経営指標100の読み方&使い方』から「020 価格維持率(値引き率)」を紹介します。
自動車などの高額な製品やBtoBのビジネスでは、売るための手段としてある程度の値引きが必要ということは多々あります。業界によっては「半値、8掛け、2割引き」で元々の定価の3分の1程度になるのが当たり前というケースもあります。営業担当者は通常、目の前の顧客を逃したくないという誘惑や恐怖心にかられるのが一般的なので、つい値引きしたくなる心理も分かるのですが、これを野放図に放置することは企業に様々なダメージを与えます。あるサーベイによれば、売上数量を伸ばしたりコストダウンする以上に、価格維持して売ることが最も利益率を高める早道という結果もあります。値引きを全否定する必要はありませんが、どこかで歯止めをかけることは、企業としては必要な事柄なのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
価格維持率(値引き率)
定価に対して実際の売価がいくらだったかを表す数字
KPIの設定例
新製品については95%、他の製品については90%の価格維持率を目指す
数値の取り方/計算式
売上高÷売った商品の定価合計
主な対象者
事業責任者、営業責任者、プロダクト責任者、営業担当者、マーケティング担当者
概要
営業担当者にとって最も安易な販売方法は値引きです。特に売上げが芳しくない営業担当者は安易に値引きをする傾向がありますが、それはある意味麻薬のようなもので、確かに目の前の売上げはとれますが、値下げがどんどん他にも波及してしまい、全体としての収益率を下げたりブランドイメージを毀損してしまうことにもつながりかねません。そこで多くの企業では、事業部別、商品別、営業担当者別などで価格維持率をKPIとして測定し、安易な安売りが行われていないかをモニタリングするのです。この指標は製品の競争力や営業の規律を反映する数字といえます。
KPIの見方
最も高い数字は100%となります。どのくらいの数字が妥当かという絶対的な数値はありませんが、業界他社と比較して明らかに低いようであれば問題がありますし、逆に高く維持できているようであれば、製品力やコンサルティング営業力があることの証となります。
より重要なのは同じ部署内での営業担当者間の比較です。例えばAさんがほぼ定価販売しているのに、Bさんの価格維持率が80%(20%の値下げ率)だとすると、部署としての営業の方針が定まっていないことを示します。営業担当者ごとのバラつきが少なく、売り方の方針が一貫しているのが一般には好ましい状態です。筆者の経験でも、高い利益率を維持できている企業はこの部分がしっかりしています。
KPIの使い方
このKPIを部署としてどう設定するかは営業戦略次第です。数量で稼ぐよりもあくまで定価販売にこだわり差別化イメージを守ろうとするなら、100%に近い数字を設定することもあります(ちなみにグロービスの法人営業は正規のボリュームディスカウントなどを別にすれば基本的に定価販売の方針をとっています)。一方、ある程度の裁量を営業担当者に移譲しているケースでは、年間を通じて90%といった数字が設定されることもあります。
このKPIは、年度が終わってからPDCAのCAを行うのでは遅すぎます。商材や営業方法のタイプにもよりますが、月次や四半期ベースで営業担当者ごとのバラつきが少ないことを確認する必要があります。突出して値下げを行っている営業担当者がいる場合には、価格維持こそが利益率向上につながることを説明したり、値下げをしたい場合には上長の了解を事前に求めるなどの施策を打つなどが必要になります。
なお、価格維持率の多少低い営業担当者の方がむしろ利益が大きい場合(例‥部署としては価格維持率を90%に設定したが、87%と86%の営業担当者が一番利益を稼いでいる)などは、もともとのKPIの目標値を変えることも検討する必要があります。
補足・注意点
このKPIはBtoCの商材の店頭価格に援用することもできます。チャネルに対する価格拘束はできませんが、想定している希望小売価格を大きく割っているようなら、その製品に競争力がないことを示すことが多く、何かしらのテコ入れが必要という判断材料にもなります。商品力があるにもかかわらず店頭価格を低くされている場合には、チャネルに対して自社のマーケティング戦略を正しく説明する必要があります。
嶋田 毅
グロービス電子出版発行人 兼 編集長、出版局 編集長
東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。