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- 会計・財務
投稿日:2020年08月28日
投稿日:2020年08月28日
貸倒引当金はなぜ必要なの?
- 溝口 聖規
- グロービス経営大学院 教員
貸倒引当金は、決算期末時点における売掛金や貸付金などの金銭債権の内、将来に回収不能と見込まれる金額です。貸借対照表(B/S)では、資産の部に資産の金額から控除する形式(△)で表示されます。今回は、貸倒引当金に関してよく質問される点について解説します。
なぜ、貸倒引当金は必要なの?
以前、引当金については、「引当金とは?賞与を例に解説」で説明しましたが、貸倒引当金も引当金の一例です。会計ルールでは、将来の特定の費用又は損失であっても、以下の一定の条件を満たす場合は、引当金を計上する必要があります。
引当金の要件:
1) 将来の費用(損失)の理由が既に発生している
2) 将来の費用(損失)の発生の可能性が高い
3) 将来の費用(損失)の金額の合理的見積りが可能
相手先の倒産などにより実際に売上債権の回収不能が発生する場合、回収不能となった金額は損益計算書(P/L)に貸倒損失として費用計上されます。これに対して、貸倒引当金は未だ回収不能という事実が発生していなくても、上記条件を満たす場合は回収不能の原因が既に発生しているため、決算期末において回収不能と見込まれる金額を費用計上し、同時に売上債権の金額を減少させます。
貸倒引当金の対象となる債権は?
貸倒引当金の対象となる債権は回収を前提とした金銭債権です。具体的には、売掛金や受取手形のような売上債権、未収入金、貸付金、立替金などが該当します。なお、B/S上、金銭債権は流動資産だけでなく固定資産に区分されることがあります。そのため、貸倒引当金は、流動資産だけでなく固定資産にも計上されます。
貸倒引当金の会計処理は?
貸倒引当金の会計処理は次の通りです。決算期末時点の売掛金10,000千円に対して1%の100千円を貸倒引当金として計上するとします。
貸倒引当金設定の会計処理:
借)貸倒引当金繰入額(P/L) 100 貸)貸倒引当金(B/S) 100
■P/L
貸倒引当金繰入額は、対象となる金銭債権の性質に応じて、販売費及び一般管理費あるいは営業外費用に計上されます。例えば、通常の営業活動から生じた売上債権に対する貸倒引当金であれば販売費及び一般管理費、通常の営業活動に該当しない貸付金などの金銭債権に対する貸倒引当金であれば営業外費用で処理します。しかし、金銭債権が回収不能となる原因が、臨時的な事象によるものであり、回収不能と見込まれる金額が会社にとって巨額である場合には、特別損失に計上される場合もあります。
■B/S
貸倒引当金を計上することにより、実質的に金銭債権の評価額を低下させることになります。例えば、10,000千円の売上債権に対して△100千円の貸倒引当金を計上することにより、会社にとって回収可能と見込まれる債権の金額は9,900であるという評価を表すことになります。
貸倒引当金は一度計上したら据え置いても良いの?
貸倒引当金は、対象となる金銭債権が存在する限り、決算期ごとに回収可能性を見積もって計上します。上場会社であれば、四半期決算ごとに貸倒引当金の見直しをすることになります。
なぜ、直接債権の金額を減少させないの?
貸倒引当金は、決算期末ごとに見積もります。例えば、同一の金銭債権に対して前期末に100千円の貸倒引当金を計上した後に回収可能性が高まったとすると、次の決算期では50千円となることもあり得ます。つまり、貸倒引当金は決算期末時点における暫定的な金銭債権に対する評価であるため、金銭債権額を直接減少させるのではなく金銭債権額から間接的に控除する形式をとります。
なぜ、資産の部に「△」表示するの?
資産の部に「△」(控除)の形式で表示される勘定科目は貸倒引当金など極少数です。それだけに違和感を持たれることも少なくありません。資産の部に「△」(控除)ということは、B/Sの貸借のバランスを保つためには負債の部に貸倒引当金を計上することも考えられます。しかし、売上債権の回収不能が実際に発生しても会社が第三者に対して債務を負うことにはなりません。つまり、貸倒引当金は負債には該当しないため負債に計上することはできません。したがって、資産の部に「△」(控除)する形式で計上されます。
なお、貸倒引当金のように、資産の評価勘定としての性格を有する引当金を評価性引当金と言います。
全額回収したら貸倒引当金はどうなるの?
先の例で、売上債権10,000千円が全額回収された場合、結果として貸倒引当金100千円は不要となります。その場合、貸倒引当金は売上債権が全額回収された会計期間において戻入れられます。
貸倒引当金の戻入れの会計処理:
借)貸倒引当金(B/S) 100 貸)貸倒引当金繰入額(P/L) 100
貸倒引当金の戻入れは、当初、貸倒引当金を計上した費用区分と同一の区分で行います。例えば、貸倒引当金繰入額を販売費及び一般管理費で処理していた場合は、販売費及び一般管理費から控除します。
なお、貸倒引当金の戻入れが生じた原因が、当初の貸倒引当金の見積りが誤っていたと考えられる場合には、過去の決算書を遡って修正します。
溝口 聖規
グロービス経営大学院 教員
京都大学経済学部経済学科卒業後、公認会計士試験2次試験に合格し、青山監査法人(当時)入所。主として監査部門において公開企業の法定監査をはじめ、株式公開(IPO)支援業務、業務基幹システム導入コンサルティング業務、内部統制構築支援業務(国内/外)等のコンサルティング業務に従事。みすず監査法人(中央青山監査法人(当時))、有限責任監査法人トーマツを経て、溝口公認会計士事務所を開設。現在は、管理会計(月次決算体制、原価計算制度等)、株式公開、内部統制、企業評価等に関するコンサルティング業務を中心に活動している。
(資格)
公認会計士(CPA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、公認内部監査人(CIA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA)