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投稿日:2020年04月09日
投稿日:2020年04月09日
不確実性が高まる時代。“突き抜ける人材”になるために必要なこと。
- 林 龍平
- 株式会社ドーガン・ベータ代表取締役パートナー
- 藤久保 元希
- 株式会社DentaLight代表取締役社長
環境変化のスピードが、いまだに衰えない。グローバリズムの拡大やテクノロジーの進化、地球温暖化の進行などが、日々の生活から仕事、さらには生き方や死生観にまで大きな影響を与えている。とりわけ、地方では少子高齢化という変数が加わり、「地方の限界」への危機意識が人々の心に影を落としている。しかし、こうした負の空気を払拭しようとユニークな動きが生まれているのが、福岡都市圏(福岡にアクセスしやすい近辺のエリア)だ。
人口減少による経済力低下が首都圏より早く進み、社会課題が顕在化している九州。この課題をビジネスで解決しようとする挑戦者が、福岡市内を中心に全国から集まっている。多くは20~30代の若手だ。この独特の熱気について、福岡を拠点とするベンチャー・キャピタリストの林龍平氏(株式会社ドーガン・ベータ代表取締役パートナー)と、若手起業家の藤久保元希氏(株式会社DentaLight代表取締役社長)に語ってもらった。
そこから見えてきたのは、環境変化が激しく将来の見通しが立ちにくい時代に、“突き抜ける人材”になるための秘訣だった。
専門領域に強みを持つCxO(最高◯◯責任者)が、福岡では不足している。
林:福岡が面白いと思うのは、大企業の第一線で働いていてもおかしくない力を持った人材が、社会課題解決の手段として、起業を選択している点です。地方は、東京ではまだ表面化していない社会課題がすでに顕在化しています。たとえば福岡の場合、特に介護や医療、農業などに課題が多いのですが目に見えている分、切迫感が違います。
加えて、領域にもよりますが福岡都市圏内の市場は、いわば東京の箱庭のようになっていて、マーケットがどう反応するのかを実験できる点に魅力があります。ユーザーと接しながらテストを繰り返し、サービスをブラッシュアップできる。こうしたことができるのは、地方ならでは。福岡都市圏で通用すれば、事業の横展開を進めやすい。
ただ、人材に関しては問題があります。社会課題が顕在化しているので、何かしなければいけないという強い危機感を持つ起業家、経営者が育っている一方で、リーダーを支える立場で専門領域に強みを持つCxO(最高◯◯責任者)がまだ十分に育っていません。なので、CxO(最高◯◯責任者)的な存在になれば、福岡都市圏でのプレゼンスをかなり上げられると思います。
スタートアップは一点集中型で突き抜ける。
林:私たちのファンドの投資先のひとつに、歯科医療に特化した地元のスタートアップである株式会社DentaLight(以下デンタライト)があります。すでに累計で3億円を資金調達しています。スタートアップは、現場で何に一番困っているのかを徹底的に調べ上げ、その中から一点に集中して多くの時間とコストをかけて、解決策を提示するのが一般的です。
言うのは簡単ですが、当事者自身の問題意識が向いていない部分に外から目を向け、課題を見つけ出すのはそう容易ではありません。意識が向かない部分にこそ本質的な課題があることが多いのですが、藤久保さんは歯科医院の現場に寄り添い、粘り強く課題の洗い出しを行っています。こうした営みは時間がかかるため、クライアントとの強固な信頼関係がなければできないと思います。
藤久保:私たちは当初、出資をことごとく断られてきましたが、何度も粘り強く、泥臭くコミュニケーションしたことで出資につながりました。ビジネスプランのロジックをしっかり詰めていても、壁にぶつかっているうちに諦めてしまい、やり切ることができない人は多い。起業家になるなら、粘り強さが大切だと思います。
独学の限界を知り、もっと実務に近い形でビジネスを学びたい。
藤久保:デンタライトを創業する前、私は小さな会社で働いていました。能力開発の環境としては、あまり恵まれていなかった。なので、さまざまなビジネス書を読み、勉強会にもたくさん参加していました。ただ、大きな手応えを得ていたわけではなく、もっと実務に近い形でビジネスを学びたいと思っていました。加えて、今の自分の相対的な立ち位置を知りたかったこともあり、ビジネススクールで学ぶことを思いついたのです。
そうした中、グロービス経営大学院(MBAプログラム)に決めたのは、修士課程に入学する前に1科目から受講できる制度があったから。また、全国にキャンパスがあり国内最大の学生数を誇り、多様なバックグラウンドを持つ人たちが集まっていたからです。
大学院に入学してからはさまざまなイベントを通じて、東京や大阪、名古屋、仙台などのビジネスパーソンと出会うことができました。そこで感じたのは、自分は個として負けていないということでした。一方で、とても刺激的な出会いがたくさんありました。たとえば、ある卒業生の方は日本で起業してその会社を売却し、売却益の一部である5億円を元手に再びシリコンバレーで起業されました。福岡ではそうした挑戦をされている方は聞いたことがなく、新たなロールモデルとして大きな刺激を受けました。
ビジネスでの成果や優良なネットワークの出発点は、学び。
藤久保:グロービスの授業は、ケース(企業事例)に基づいてディスカッションしながら進むのですが、シラバスに記載されている課題の多くは、「あなたが経営者ならこの状況をどう捉え、どういった意思決定をするのか」。さまざまなシチュエーションのケースについて、繰り返し真剣に考えることで、「自分の頭で考え抜く力」が鍛えられ、経営の意思決定に活かすことができています。
意思決定力を鍛えるには意思決定を繰り返すしかないのですが、実際のビジネスでは、判断ミスは死を意味することもあります。グロービスの授業は実践さながらの喧々諤々の議論を行う一方で、仕事の現場で生じるリスクはありません。仮に自分の意見のピントがずれていても、利益を損なったり人が辞めたりすることはない。グロービスでやっていることは、リスクフリーのバッターボックスで、本番を想定して本気でバットを振り続けることです。
林:ベンチャーキャピタルの仕事の本質は、投資先の起業家と成功・失敗経験を共にして、その経験を他の起業家支援に活用し、成功率を上げていくことです。ケース(企業事例)を通じての意思決定もそうですが、ベンチャー・キャピタリストもどれだけ本気で打席に立ってバットを振っているかで、その人の成長が決まる。こうした場数を踏んでいる人なら、仮に環境が大きく変化しても、こういう状況ならこういう手を打てるのでは、といった感じで人を頼らずに自分の頭で考えられるので強いですね。
一方で、自分が今携わっている領域のみを深堀していくだけでは、成長は鈍化していきますし、将来の見通しが立ちにくい時代を生きる不安は拭えないと思います。環境適応力を上げるには、さまざまなビジネスの現場を経験することがベストですが、すべての現場を経験することはできません。それを補っていくのが、学びです。グロービスでやっているケース(企業事例)を使った意思決定のトレーニングのような実践的な学びの必要性はここにあります。
私たちが今生きている時代は、これまでにないほど環境変化の激しい時代です。先程も触れましたが、不確実性が高まる時代に必要な資質は環境適応力ですが、その中核を占めるのは大局的な視野だと思っています。たとえば、「赤字の会社に出資するなんて、とんでもない」といった先入観に囚われると、判断を見誤ってしまいます。「いままでこうだったから」という理由で意思決定するのは、かなり危険な時代です。昨日までの当たり前を、当たり前としない感覚や前例のとらわれず常に自分の頭で考え抜く力は、必ず養っておくべき資質だと思います。
藤久保:私は20代の頃、会社と交渉して自分の自由な時間を増やしてもらい、その分給料を下げてもらった。その時間と限られたお金をやりくりしながら、学びに投資していました。
林:すごいリスクを取ったんですね(笑)。
藤久保:生活は苦しかったのですが、「この投資は必ず自分に返ってくる」「学んだことを実践すれば必ず成果を出せる」と信じていました。今ではそれが現実になったと思っているのですが、実際に成果を出せると周囲にいる人たちからの信用が貯まります。信用が貯まると次のビジネスの信用が生まれ、最終的には優良な人脈のネットワークにもつながります。
あらためて伝えておきたいのは、ビジネスでの成果や優良なネットワークの構築の出発点は、学びへの投資だということです。
林:あと、時間とお金を費やすことに対して、「失う」というイメージを抱く人が多いですが、時間とお金を自分に投じないことによって、失っているものがあるということにこそ目を向けるべきだと思いますね
思い切って外に飛び出すことで、可能性が大きく広がる。
藤久保:自分自身の可能性や最大値を知るには、たとえば自分がホームランバッターなのかアベレージヒッターなのか、自分の特性や強みを確認するとともに足りない部分を客観視することが必要だと思っています。そのためには、相対評価が得られる場に出て行かなくてはなりません。今自分がいる場所ではなく、違う環境で自分をテストする。たとえば、中小企業やベンチャー企業の経営を手伝うとか、方法はたくさんあると思います。
林:日々の業務の中では、自分の長所や短所、能力を棚卸する機会は少ないので、自分を過小評価、もしくは過大評価してしまうことがあります。そういう意味では、多様性が担保された場に出向くのは、価値があると思います。ビジネススクールもその一つですね。今の会社の中でも、新しいセクションへの異動希望など、求めればさまざまな機会があるはずです。
特定の組織に長くいると知らず知らずのうちに、組織文化やしがらみにとらわれてしまいます。自分をアップデートしたいのであれば、積極的に外へ飛び出すことです。これまであまり付き合いのなかった人がいるコミュニティに加わったらいいと思います。 福岡都市圏のスタートアップコミュニティ立ち上げのきっかけは、フリーランスやベンチャー起業家が集まっていた飲み会でした。その後、生産的な情報交換の場になり、結果として起業する人も出てきた。外の空気に触れることで、自分の可能性が大きく広がると思います。
藤久保:残念ながら能力がない人は、バッターボックスに立たせてもらえない。運良く立てたとしても、結果がでなければそれきりです。だから日々修行をしていつその機会が来ても、結果が出せるように準備しておく。バッターボックスに立たせてもらえることも大事だけれど、やっぱり大切なのはそのときに打てるか。なので、社内で想いが近い人と、朝ちょっと早く勉強会を開くとか、簡単なことから始めてもいいと思いますが、大切なのは学びの機会を自分で用意することです。
ちなみに私は、今日1日の自分が何点だったかを自己採点していました。自分を客観的な目線でチェックし続けたことで、経営者としてどんな環境でもやっていけるという自信につながりました。少しずつの変化でも、それをコツコツと積み重ねていくことで、自信を持てるときが必ずくると思います。
林 龍平
株式会社ドーガン・ベータ代表取締役パートナー
1999年住友銀行、2001年シティバンク、エヌ・エイを経て、株式会社ドーガンに2005年より参画。2014年には福岡市がカルチュア・コンビニエンス・クラブと共同で中央区天神に開設した「スタートアップカフェ」の設立プロジェクトにも参画。
株式会社ドーガン 取締役、一般社団法人OnRAMP 代表理事、一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 地方創生委員 福岡県出身 九州大学法学部卒
藤久保 元希
株式会社DentaLight代表取締役社長
鹿児島県出身。山口大学卒業後、2008年より福岡へ。広告代理店の企画営業やスポーツマネジメントの営業を経て、グロービス経営大学院福岡校で学び独立。2013年10月30日、株式会DentaLightを創業。セルフケア・診察券アプリ『myDental』や歯科医院向けの予約・CRMサービス『ジニー』などを展開する。