GLOBIS Articles

  • 卒業生の活躍

投稿日:2020年03月04日

投稿日:2020年03月04日

どうすれば企業のDXは進むのか?
KADOKAWA Connected各務氏に聞く

田久保 善彦
グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

どうすれば企業のDXは進むのか?KADOKAWA Connected各務氏に聞く

テクノロジーの活用により事業を改革する。――いわゆる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」がますます注目を集めている。テクノロジーの発達スピードは加速し、魅力的なツールが次々に登場する。だからこそ今、あらためてDXの本質を問うタイミングに来ているのではないだろうか。どうすれば企業のDXは進むのか、グロービス経営大学院卒業生であり、KADOKAWA Connectedの社長として企業のDXを推進する各務茂雄氏にインタビューした。(全2回)

トップを目指せば「やるべきこと」が見えてくる

田久保:まずは、これまでのキャリアを聞かせてください。

各務:NTTグループの、今でいうとドコモ・システムズという会社に新卒で入りました。その後が、タンデムコンピューターズ(現・日本HP)、次がEMC(現・Dell EMC)。最初は日本法人に入ったのですが、すぐ本社に転籍してR&Dチームでソリューション開発をやっていました。その後がVMwareでクラウドビジネスの標準化を進め、次は楽天でグローバルクラウドの立ち上げなどをやっていました。その後にマイクロソフト、AWS、そしてドワンゴ。ドワンゴの中から、KADOKAWAまで風呂敷が広がったところです。

田久保:これまでのキャリアで「貫いてきたことは?」と聞かれたら、どう答えますか?

各務:おそらく……「自分じゃないとできないことをやる」ですね。振り返ってみると、何でも「日本一」とか「世界一」を目指しているんですよね。

最先端の技術に真っ先に着手するのですが、その道を進む中で「こういう課題が世間に起こってくるだろう」ということが見えてくると、そのソリューションを作りたいという気持ちが強くなる。これはすべて、技術の最先端のところに注力するから起こることなんです。

田久保:1位を目指すからこそ見えてくる課題があるし、その先の未来もイメージできる。

各務:そして、自分の持っている経験や力と、将来起こるであろう課題に“アンド”を取れば、「こういうソリューションを作ろう」が見えてくるんです。

田久保:転職や異動は、それをやるのに一番適した場所に行きたい、という考えですか?

各務:まさにそうです。ドワンゴの改革に参画した後、今はKADOKAWAにも関わっていますが、それもその文脈です。非常に大きいフィールドなので手応えを感じ、世の中へのインパクトを考えれば、まだまだやれることがありますね。

デジタルを使ってビジネスをする=DXではない

田久保:今回のインタビューテーマは「企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進」なんですが、お聞きすると各務さんはずっとデジタル系の仕事をしていますよね。そこから見えてくる、日本企業におけるDXの現在地とは?

各務:まず問題だなと思うのが、よく聞く「情報システム部門が『攻め』ない」という話。でも、それは当たり前だと思うんです。日本の文化なのか、いわゆる「失敗はダメ」という雰囲気がある。すると、失敗を避けようとしますよね。

情報システム部門のお客様は「社内」なんです。ゆえに、何か失敗をすると社内での立場が弱くなってしまう。となると、彼らが何を選択するかといえば、失敗しないように安全圏にいるか、外注に丸投げして失敗をそちらに押し付けるかの2択。これは間違いなく、日本のコーポレートガバナンスの問題だと感じています。

田久保:アメリカではどうでした?

各務:失敗も成功も両方見ているので、リスクを取って成功したらちゃんと褒められるし、失敗をしたらダメで、まあ、首を切られたら仕方がない。日本でもそういう面をもう少しハッキリすると良くなるはずだ、とずっと感じていますね。

田久保:中でも「こういう会社はうまく乗り越えた」という事例はありますか?

各務:たとえばベンチャー企業は過去の組織負債がないので、最初からDXっぽく行けるんです。一方、大きな会社は過去の組織負債があるので、DXを本格的に成功した会社って、日本だとほとんどないと思います。

そもそも、単純にデジタルを使ってビジネスをするのがDXではないんです。デジタルを使って何か新しいサービスができて盛り上がっている、あれはDXじゃない。「デジタルビジネスが成功した」なんです。

田久保:ではあらためて、「DXとは」。

各務:風通しの良いコミュニケーションができて、組織としての仕事ができているというのが、DXの本質。つまり「DX」とは、「デジタルビジネスが成功している」状況と「それらが統合的に連携されプラットフォームとして機能する」という2つが同時にできるようになることなんです。

ひとつのデジタルビジネスを成功させるのであれば、どの会社でも本気になれば絶対できます。一方で、それを横串にして自分たちのデジタルプラットフォームサービスにするところが難しく、そこまでできて初めて、DXなんです。大体どこの会社も横串にしようとすると、そこで社内の駆け引きやらで難しくなってくる。結果、デジタルプラットフォームまでにはいかないんです。

田久保:「デジタルプラットフォーム」とは、どんなイメージですか?

各務:突き詰めたイメージは、「スマートシティ」みたいなものです。データドリブンの経営と言ってもいい。

たとえば、売上や利益、人の行動をデータで可視化して、それをベースに仕事をしていくことです。データドリブンの経営をどの範囲まで広くやるか、の判断もありますよね。横串でプラットフォームを広げようとすればするほど多様な個別問題が出てくる。それを解決するのが困難で、結局多くの企業は道半ばで諦めてしまうのだと思います。

田久保:そうすると、当たり前ですけど、今この時代に立ち上がるベンチャーであれば、もともとDX状態で物事が進みますよね。

各務:まさにその通りです。

田久保:でも、大きい会社が複数のサービスを持っている場合、各事業部間のやりとり、外部とのやりとりなどを考えていくと、プラットフォームは複雑になってしまう。各事業部がそれぞれのやり方を貫き、そもそも個別がDX化しないという問題、さらに事業部なり何かを繋いだときの横串が通らないという問題の2段階パターンもあるのではないでしょうか。となると、やっぱり人間の問題に行き着くのかもしれませんね。

キーワードは「標準化」

各務:組織と文化の話かな、とも思います。トップダウン文化なら「右にならえ」で動けると思いますよね。でもやっぱり日本って、実際には現場が強いんです。上から言っても動いてくれない。ではどうすればそういう方向に動いてくれるのか?いわゆる変革をどうやるかが肝になります。

田久保:トップダウンでうまくいった会社はありますか?

各務:僕がいいなと思うのは、古くは京セラ。京セラはもともとDXができている会社だと思うんです。完全に仕組み化されているので。あと、日本電産の永守さんの話を聞いていると、この方は完全に仕組み化、DXの人だと思います。

田久保:お聞きしていると、各務さんの中におけるDXというのは、デジタル化うんぬんというよりも、「仕組み化されている」ということがポイントなのでしょうか。

各務:仕組み化されていないと、デジタル化ができないんです。標準化→自動化→AI化、という風に考えます。標準化されていないのに、いきなりAI化は無理です。

僕らは「エンタープライズアーキテクチャー」と言いますが、標準化をどのように統合的に考えていくかがまず重要。その上で、どこを自動化するか、どこにAIを入れるかをやらないと、全体最適ができないんです。グローバル企業でうまくやっているところは、大体が裏側にすごいエンタープライズアーキテクトがいる。全体最適化をやる人がいるんです。

田久保:DXって、仕組みが全部デジタルになって、みんなが操作して……というイメージですが、本質は標準化。だから、場合によっては紙の運用を選んでもいい、とも言えますね。

各務:極論すればそういうことです。もちろん標準化されたものを紙からデジタルに置き換えると良くなるところが相当ありますが、紙である方がいいものもあるじゃないですか。そこをどう判断するかがDXの肝です。標準化できていないと無理ですよね。

DXを実現する企業の裏側とは

田久保:エンジニアのマネジメントはどうしていますか?エンジニアのモチベーションを保つには自由さが大事だし、一方で標準化を守るにはガバナンスも大事だし。バランスが難しいですよね。

各務:まず、「発散思考」なのか、「おまとめ思考」なのか。どちらの人間かを見極めています。加えて、「受動的」「能動的」の軸も加えて、全メンバーがどこに位置するかをマッピングしています。ここではシンプルなマトリックスでお見せしますが、実際はこの中身が16くらいに細かく分割されています。

このフレームで各事業部長にメンバーをマッピングしてもらってから、それを正社員でキャリブレーションして、全体を見直す。その上で、どのポジショニングの人はどういうルールが向いている、ということまで検討。マネジメントはすべてこのように仕組み化しています。

田久保:この仕組み、各務さんが入れたんですか。

各務:私が考えて私が入れました。メンバーの強みや価値観などを踏まえたピープルマネジメントとそのガイドラインをベースに、「各人にあったスタンスを取ろう」という基本的な考えが我々の中にあるんです。

田久保:区分してマッピングして、というのは、外資系のマネジメントに近い気もします。

各務:外資ではなくて、実はある日本企業の研修がベースになっています。それを自分なりに違う形にしてから、グロービスの互援ネット(卒業生がお互いの課題や目標を共有して高めあうクローズドのコミュニティ)とか、あすか会議(年に一度在校生と卒業生が一堂に会する合宿型カンファレンス)のリーダーズディスカッションなどの場を活用して、まずは仲間に試させてもらったんです。だから、グロービスの皆さんにもお世話になって完成したフレームワークなんですよ。

田久保:どこにマッピングされたかを本人には伝えるんですか?

各務:一応、マッピングを知っているのは部長までとなっていますが、「自分が全体の中でどんな位置づけにいるのか」「なぜこの役割なのか」「ほかの人と担当する仕事が違うのはなぜか」を知る材料になるので、本人にも役立つ観点ではありますね。

<後編はこちら

田久保 善彦

グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修了。スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所にて、エネルギー産業、中央省庁(経済産業省、文部科学省他)、自治体などを中心に調査、研究、コンサルティング業務に従事。現在グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールにて企画・運営業務・研究等を行なう傍ら、グロービス経営大学院及び企業研修におけるリーダーシップ開発系・思考科目の教鞭を執る。経済同友会幹事、経済同友会教育問題委員会副委員長(2012年)、経済同友会教育改革委員会副委員長(2013年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問、NPO法人の理事等も務める。著書に『ビジネス数字力を鍛える』『社内を動かす力』(ダイヤモンド社)、共著に『志を育てる』、『グロービス流 キャリアをつくる技術と戦略』、『27歳からのMBA グロービス流ビジネス基礎力10』、『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』(東洋経済新報社)、『日本型「無私」の経営力』(光文社)、『21世紀日本のデザイン』(日本経済新聞社)、『MBAクリティカル・シンキングコミュニケーション編』、『日本の営業2010』『全予測環境&ビジネス』(以上ダイヤモンド社)、『東北発10人の新リーダー 復興にかける志』(河北新報出版センター)、訳書に「信念に生きる~ネルソン・マンデラの行動哲学」(英治出版)等がある。