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投稿日:2020年01月30日

投稿日:2020年01月30日

ご祝儀相場は広告宣伝費として会計処理するの?

溝口 聖規
グロービス経営大学院 教員

東京都の豊洲市場の初競りで、すしざんまいを運営するつきじ喜代村が、昨年に引き続き「一番マグロ」を競り落としました。青森県大間産の本マグロ276キロで、その額1億9千万円超とのことです。史上最高額となった昨年の3億3千万円には及びませんでしたが、1キロ当たりでは70万円という高値での落札でした。水産庁等のデータでは、通常価格は1万円/キロ程度とのことですので、すしざんまいの落札額がいかに高額だったかが分かります。

ご祝儀相場の目的は広告宣伝

すしざんまいの社長によれば、初競りにおける祝儀相場での落札は、メディア等でも広く取り上げられるなど広告宣伝効果が期待できる、とのことです。

すしざんまいは関東圏を中心とするすしチェーン店です。全国店舗数約60店舗のうち、40店舗強が東京都に集中しています。全国展開をしているスシロー、くら寿司、かっぱ寿司等と比べると全国的な知名度は高いとは言えません。

すしざんまいの19年9月期の売上高は、296億円でした。外食関連サービス業の売上高に占める広告宣伝費は平均で約5%とされます。すしざんまいでは、約15億円が広告宣伝費に相当すると考えられます。テレビCMも、著名なタレントを使わなくても制作費を含めれば1本数百万円要すると言われますし、約2億円の広告宣伝費で全国的な知名度が高まり、未出店地域からのお客さんの集客力が高まるのであれば、決して無駄な買い物ではないでしょう。

ご祝儀相場の会計処理

このように、すしざんまいにとってご祝儀相場による一番マグロの落札は、単にすしネタを仕入れるという目的だけではなく、広告宣伝効果も期待したビジネス行動です。

では、その会計処理はどうなるでしょうか。現在の会計ルールでは、ご祝儀相場、つまり、通常価格を大きく上回る場合の購入価額の会計処理について特にルールは設定されていません。一般的には通常価格を上回る部分も含め仕入(この場合は原材料仕入)として会計処理されると考えられます。

今年の場合、原価では1貫当たり約2万円となりますが、販売価格は通常どおりの大トロ398円/貫、中トロ298円/貫、赤身198円/貫(いずれも税抜)で提供されたとのことですので、差額はP/Lでは売上総利益(この場合は赤字)として計上されることになります。

ところで、企業活動を適切に数字に反映するという会計の目的からすれば、企業活動の目的に応じた会計処理がより適当とも言えます。ご祝儀相場のように通常価格を上回る要因が広告宣伝等原材料等の仕入とは異なる目的が明確である場合などは、目的に応じて会計処理を通常仕入部分と広告宣伝費部分に区分される時代が到来するかもしれません。

溝口 聖規

グロービス経営大学院 教員

京都大学経済学部経済学科卒業後、公認会計士試験2次試験に合格し、青山監査法人(当時)入所。主として監査部門において公開企業の法定監査をはじめ、株式公開(IPO)支援業務、業務基幹システム導入コンサルティング業務、内部統制構築支援業務(国内/外)等のコンサルティング業務に従事。みすず監査法人(中央青山監査法人(当時))、有限責任監査法人トーマツを経て、溝口公認会計士事務所を開設。現在は、管理会計(月次決算体制、原価計算制度等)、株式公開、内部統制、企業評価等に関するコンサルティング業務を中心に活動している。

(資格)
公認会計士(CPA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、公認内部監査人(CIA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA)