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投稿日:2020年02月03日

投稿日:2020年02月03日

「苦しみ」から生き方を考える変革の世紀――『21Lessons-21世紀の人類のための21の思考』

北澤 一哉
北澤 一哉
グロービス・コーポレート・エデュケーション シニア・コンサルタント

世界的な注目を集めた『サピエンス全史』の著書であるハラリ氏が満を持して「今に」焦点を当てた本書。私たちが直面する21の重要テーマを取り上げ、長期的な視点も交えながらどのように思考し、行動すべきかをまとめている。

本書では様々な論点が挙げられているが、とりわけ今後私たちが直面しうる最大の脅威であるITとバイオテクノロジーの双子の革命に焦点を当てたい。また、その大きな変革期を迎える私たちがどう生きるべきかについても併せて考えたい。

ITとバイオテクノロジーの双子の革命の脅威とは?

今後の社会を考えるうえで、ITとバイオテクノロジーの双子の革命がカギとなる。IT革命により、データが収集され、機械学習が進んだ暁には、アルゴリズムが私たち以上に私たちを理解し、結婚相手さえも決める社会が生まれるかもしれない。

その時に、私たちは個人の自由意志とは何かを突き付けられる。また、そのような社会では、アルゴリズムを創り出す少数の富めるものと、職を失う大多数の失うものに二分されうる。

加えて、バイオテクノロジー革命により、富めるものは寿命や知能指数を始めとして身体の内部を組み替えることで優位な立場になる可能性を秘めている。

この双子の革命に伴い想定される課題をどう乗り越えるべきか、新たな枠組みを考える必要性をハラリ氏は指摘する。

私が仕事を通じて感じるのは、多くの人がAI、IoTなどIT革命には脅威を抱いているが、バイオテクノロジー革命に脅威を抱いている人はほぼいないということだ。しかし、本当に怖いのはバイオテクノジー革命ではないか。

人の感情がいまだ解明されていないという前提に立つと、当面の間、AIは感情を持たないだろう。だが、バイオテクノロジーによって生物学的に優位になった人間は違う。感情を持つ。そのとき、果たしてバイオテクノロジーの力を利用できない普通の人間、劣る人間をどう扱うのか。戦争を繰り返してきた人間の歴史を考えると、感情を持つ人間の方がアルゴリズムよりも厄介であることは言うまでもない。

しかも、そのバイオテクノロジー革命は、悪意によって始められるわけではない。例えば、バイオテクノロジーによって障害を克服できる社会を実現したいという科学者の無垢な想いから進めた結果だとしたら、それを止めることが出来るだろうか。

今まさに人は岐路に立っていると言えるだろう。

私たちはどう生きるべきか?

そのような変革期を迎える私たちはどのように生きるべきか。私たちはついつい生きる意味を求めがちだが、私たちが現実として直面している課題は、「人生の意味」ではなく「苦しみから逃れること」だとハラリ氏は喝破する。

そして、心を観察することを通じて、苦しみが自分の心の作用から発していることに気付くことができ、その原因を知ることが、次の苦しみを生み出さない最初のステップになると説く。

ハラリ氏は瞑想を通じてこれに気づいたと述べている。私も毎日10分の瞑想をしているが、生き方に結び付けてはこなかった。ただ、瞑想をして痛感するのは、いかに今その瞬間に起こることをありのままに観察することが困難であるかということだ。そのため、瞑想を通じて、心の動きを観察する力を養うことができれば、現実の苦しみを生み出す心の作用に気づきやすくなるのは確かだ。

ハラリ氏の真意は難解であるが、例えば、私は東日本大震災が発生した際、被災した方々の苦しみに触れ、本当に胸が締め付けられるような苦しみを味わった。そのような苦しみが起こる心のパターンに気づき、現実として起こる苦しみをなくすためにはどう行動すべきかを考えていくことが肝要であると理解した。

まずは瞑想を通じてありのままの自分の心を理解することが行動に移すための出発点と言えそうだ。

北澤 一哉

北澤 一哉
グロービス・コーポレート・エデュケーション シニア・コンサルタント

一橋大学経済学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了 。 

大学卒業後、電力会社にて営業推進及び電力購買にあたっての入札制度企画や契約交渉等に従事した後、大学院を経て、グロービスに入社。現在は、人材・組織開発コンサルタントとして、大手企業の経営人材育成を中心としたプロジェクトの企画・実行支援などに従事している。