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投稿日:2020年01月23日

投稿日:2020年01月23日

グロービスで考え抜いた「ファミリービジネス」への想い

グロービスで出会った3人は、今、実際のビジネスの場で共に歩みを進めていく同志となっています。そこには、グロービスで切磋琢磨する中で、自分自身を見つめなおし、自分の為すべきことに気づいたからこそ生まれた絆がありました。(全2回、前編)

石川彰吾 株式会社ソミックマネージメントホールディングス 取締役 経営推進部部長
大倉正幸 株式会社ソミック石川 執行役員 事業企画部部長
蒲地正英 税理士法人カマチ 代表(公認会計士・税理士)/グロービス経営大学院 教員

「危機感」からグロービスへ

田久保:大倉さんは、グロービスで石川さんと出会った縁で、石川さんの会社(自動車部品の製造販売を手掛けるソミック石川)に転職され、執行役員としてマネジメントに携わっています。蒲地さんは、グロービスで石川さんが受講した講座の講師で、ソミック石川のコンサルティングをなさっています。まずは、大倉さんと石川さんのお2人がなぜグロービスに行こうと思ったのか、お聞かせください。

大倉:一言でいうと「危機感」です。初めてグロービスの授業を受けたのは、2015年の1月期。当時、私はデンソーで海外業務に携わっていました。現地で一緒に仕事をしているローカルの方々が、清華大学出身とか、ハーバード大出身とか、私よりはるかに優秀だったのです。にもかかわらず、お給料は私よりも低い。これは「確実に淘汰されるな」と感じました。

その時、リンダ・グラットンの『ライフ・シフト』と『ワーク・シフト』を原書で読みまして「これだ」と思いました。もともと専門性に欠けていることを感じていたので「礎」となるものが欲しいと思い通うことにしました。

田久保:なるほど。石川さんは、ソミック石川の創業一族でいらっしゃいます。なぜグロービスに?

石川:私がソミック石川に入ったのが2008年の1月。それまでは、(自動車メーカーの)スズキに勤めていました。インドでの駐在も経験し、「さあ、ファミリービジネスの中に入っていろんなことをやっていくぞ」と勢いよく入ったわけですが、いざ入ってみると、なかなか自分が思っているようなことができない。「会社の人たちに自分の話が通じない」と。

そうした時に、恩師、その方はアメリカのMBAをとっているのですが、恩師と話している時に、自分にはビジネススキルが足りないんだと気づいたんです。グロービスに通うことになったのも、その方が堀学長のセミナーに誘ってくれたのがきっかけです。

“Why Me?”の答えを見つけた

田久保:お2人の出会いはどういった感じだったんですか。

大倉:2人ともオンラインのマーケティング経営戦略基礎コースの一期生だったので、最初の出会いはオンラインです。第一印象は最悪でした(笑)。

石川:ホントに!?(笑)

大倉:ホントに。初回のクラスは私は上海にいて、「さぞかしハイグレードな人たちばかりなんだろうな」とドキドキしながらつないだら、一番最初にオンラインの画面に出てきた彼は、ハイエースの中から、「今からママチャリのレース出るんです」と言っていたんですよ。

石川:1月に富士スピードウェイでママチャリの7時間耐久レースがあったんです。ちょうど出場していたところだったので、車の中からつないでいたんです。

大倉:衝撃でした。こちらはスーツを着て、ネクタイ締めて臨んでいるのに、ジャージ姿でハイエースですから……(笑)。

田久保:大倉さんは、なぜデンソーを辞めてソミック石川に入ることになったのですか。

大倉:グロービスに通い始めたばかりの頃は、「自分が何をすべきか」というところが、ぼんやりとしていました。田久保先生の企業家リーダーシップの講義を受け、自分は明らかに“黒子人材”だと悟りました。自分の適性も、目指すものも「黒子でいること」。社長になることは求めていないし、周りからも求められてはいない。ポジティブな意味でそう感じたのです。

では、“黒子人材”である自分はどう生きるのか。一番大切なのは「どこで誰とやるか」だと感じました。しかし、デンソーでは“Why Me”に対する答えがありませんでした。

田久保:デンソーでは規模が大きすぎる?

大倉:はい。重要な仕事を任されていましたし、仕事はとても面白かったのですが、デンソーには私の代わりをできる優秀な社員がいくらでもいます。そうした中で、自分が今の仕事を引き受ける理由が見いだせなくなりました。

では、黒子として誰のもとに仕えるかと考えた時に、彼の置かれた境遇を知り、「彼」だと。私は彼だから今の会社に移ったというのが大きいです。

いつでもバトンを受け取れる準備をするだけ

田久保:石川さんが、グロービスの授業で一番印象に残った講義は何でしたか?

石川:やはり蒲地先生の「ファミリービジネス・マネジメント」です。ファミリービジネスを分解するような講義があったのですが、実際に自分に当てはめて考えてみたら、自社の状態やファミリービジネスの強みなど、全体像がスーッと見えてきた。あれは私にとって大きな気づきでした。

田久保:石川さんは、ソミック石川をホールディングス化するという「経営改革」をされました。その際のコンサルタントを講師である蒲地さんに依頼なさったのは、どういう経緯ですか。

蒲地:石川さんの会社での課題が、株主構成やグループ会社再編だということは、授業の最後にプレゼンで発表されていたので、少し存じておりました。当時、社内では別のコンサルタントの方が候補でいらしたそうなのですが、他の人の話も聞いてみたいということで、私が浜松へ伺ったのがきっかけです。元々悩みも知っていたので、いくつかご提案をさせていただいたところ、「お手伝いいただきたい」という話になりました。

石川:蒲地さんは、「社長や従業員のみんながこの会社で働いていて、“いいな”と思えるようにしたい」という、それだけで動いていらっしゃる方なので、一緒にお仕事ができればベストだと感じました。

田久保:実際にお仕事を一緒にするようになって、いかがでしたか?

石川:めちゃくちゃ厳しかったです(笑)。

蒲地:割と厳しいかもしれません(笑)。私がお引き受けさせていただいたのには理由があります。ファミリービジネスというと、「経営者がご自身の会社をご自身の好きなようにする」イメージがあるかもしれませんが、私はそういう経営者をお手伝いすることはあまりないんです。どちらかというと個人のためではなく、会社としてうまくいくためにどうしたらいいかという観点を持っている方のお手伝いをさせていただいています。

ですので、「石川彰吾という人が将来社長になってうまくいくように」という感覚は全くありません。彰吾さんもそれを分かってくださっている。だからこそ深くお手伝いをしているというというのはありますね。そういう意味でのフィーリングっていうのは非常にありました。

石川:それは私も同感です。

蒲地:グロービスにはそういう方が多い気がします。一個人としての成長、成功だけでなく、会社全体や社員のことなど、いろんな観点から考えられる方が多いのはグロービスの特徴ではないかと思います。

田久保:そうかもしれないですね。セミナーなどでご登壇いただく講演者の方から「ビジネススクールなのに、なぜ出てくる質問が、社会善みたいなものばかりなんですか?」と言われることがあります。

蒲地:やはり「志」を醸成するための科目や、その科目に深く関連する講師陣がいるからだと思います。これはすごく強く感じますね。変な話、汚い気持ちでグロービスにいられなくなる(笑)。グロービスにいると、周囲の人がそういうことを真剣にディスカッションしますよね。

一同:しますね。

蒲地:その中にいると、自然に社会全体のことを考えるようになり、それが新たな価値観を生んでいるというのはあると思います。特にファミリービジネスでいうと、市場に対してお金をリターンすることだけを求められているわけではないからこそ、「志」や「思い」といったものが重要です。

石川:私もまさに、そうした部分で悩み、徹底的に自分と向き合って考え抜いた結果、今ここにいますので、すごく楽なんです。ブレないので心に余裕がありますし、心からシンプルに「会社のため」と思えるので、「将来、自分が得するように」みたいなことは全然なくなりました。

むしろ、私欲を主張する人を見ると、「我々はそんなことをしなくても強くあり続けられるのに、なぜ?」と思ってしまいます。

蒲地:彰吾さんの今の社内での立ち位置は、本当にバランスがとれています。なんというか「会社を良くするためだったら、自分はいなくなってもいい」という風に動いている。

石川:グロービスに入るまでは「次は俺だ。早くバトンをよこせ」という位に思っていました。ですが、グロービスで考え抜いた結果、バトンはバトンを持っている人が渡すか渡さないか決める話であって、もらう側があれこれ言うのはおかしな話だと思ったんです。だとしたら、いつもらっても困らないようにしておくことが、バトンを持ってない人間がやるべきことではないかと。そして、結果的にもらえなかったとしても、私が心のあり方として正しく生きていれば、その後、生き続ける方法は無数にあるはずと思えています。

なので、今はシンプルに、石川家がつくってきた会社を引き続き、もっともっと良くしたい。そのためなら、自分が必ずトップになることだけがあり方ではない、と思います。(後編に続く)

(文=井上佐保子)