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投稿日:2019年11月08日

投稿日:2019年11月08日

会社と自分の関係はタテ?ヨコ?個人としての職業人意識を考える

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

私は企業内研修の場でキャリア研修を実施しています。その中で、受講者にこんな質問を投げかけています――「あなたは、会社と自分の関係をタテ/ヨコどちらのイメージでとらえますか?」。そのとき示すのが下の図です。

左側は、会社と自分は「主従関係」ととらえるイメージ。主人である会社は雇用する力を持ち、人事権を持ち、さまざまな業務を内部に抱えていてそれを個人に与えることができる。個人はその力の下で安定的に雇用され、生活を立てていく。そんなタテの関係性です。

他方、右側は、会社と自分が「協働者(パートナー)関係」ととらえるイメージです。会社も自分も独立した存在である。自分はしっかりと自身の職業を携える――すなわち、社内外で通用するスキルを醸成し、どこからも雇われる実力を有する――存在であり、会社はそうした人材を生かす機会を提供する存在である。双方が協働することで事業が回っていく。そんなヨコの関係性です。

端的に、左側は「会社人の意識」、右側は「職業人の意識」と言えるでしょう。さて、あなたはこの両者をどんな比率で意識に持つでしょうか。人によっては「タテ関係(会社人)意識:ヨコ関係(職業人)意識=8:2」かもしれませんし、逆に、「3:7くらいかなあ」という人もいるでしょう。

会社と個人の関係性をタテとみるかヨコとみるか、その意識の持ち方についてはどちらも一長一短があり、いろいろな議論ができると思います。その中で本稿では、私が企業研修の場で感じることを1点書きます。

あるキャリア研修での事例

ときおり企業から50代後半の社員に向けたキャリア研修の依頼を受けます。ひところ昔であれば、こうしたシニア層向けキャリア研修は、定年後のセカンドライフについて計画(どんな内容の生活を送るか、どう経済的なやりくりをつけるかなど)を立てるのが主流でした。

ところが企業側に定年延長や雇用延長の圧力が高まる中、この研修は50代後半の社員に対して「そろそろ“上がり”の気持ちではなく、さらにひと踏ん張りも、ふた踏ん張りもしてもらいたい」というメッセージを伝えるための場に変わりつつあります。

私はこの研修の中で、キャリアを駆動・発展させる要素を外的ファクターと内的ファクターの2つに分けて説明します。

外的ファクターは、「知識・能力」「人脈」「就労環境(働く場)」「就労形態(働く形)」「プライベート環境」などです。また、内的ファクターは、「志向軸」「価値観」「理想像(ビジョン)」などです。

さて50代後半の受講者に対して、以降の自身のキャリアの駆動・発展要素を内省してもらうのですが、残念ながら出てくる内容は「会社・職場の環境がこうだから、~できない/~が難しい/モチベーションが上がらない」といった愚痴混じりのものが大半です。「自分の想いがこうだから、会社・組織をこう生かしたい」と発想・決意する人は少数に留まります。

そして冒頭の「あなたは、会社と自分の関係をタテ/ヨコどちらのイメージでとらえますか?」と聞いてみます。やはり多くがタテ関係でとらえています。

会社と自分をタテ関係でとらえる人は、会社は「享受の対象」であり、自分が我慢や忠誠を差し出す代わりに、会社は何を与えてくれるか、くれないかという意識になります。そのために、キャリア形成も外的ファクター、なかんずく、会社の制度・風土・待遇条件次第だ、という考え方に傾斜していきます。

一方、会社と自分をヨコ関係でとらえる人は、キャリア形成の基点を自身の内に持つ想い、すなわち内的ファクターに置きます。すると、会社は「活用の対象」となり、会社を手段・舞台・プロセスとしてどう最大限生かせるか、という発想になります。

私も50代後半で受講者とは同世代の人間ですから、エールの意味を込めてJ.F.ケネディの有名な一節を持ち出します――「国家があなたに何をしてくれるかを問うより、あなたが国家に何をできるかを問いなさい」。ここの「国家」という単語を「会社」に置き換えてみてくださいと。すなわち内的ファクター主導の仕事人生への意識転換です。

会社というものは、いい意味で「使ってやる」くらいの気概を持つ個人がもっと増えていいと思います。会社と個人は互いに独立した存在であり、製品・サービスを通して共創し、顧客・社会に貢献していく「互恵的パートナー関係」が理想ではないでしょうか。そういう2者の緊張状態から、会社は個人から選ばれる会社になろうとし、個人は会社から選ばれる人財になろうとする切磋琢磨状態ができあがります。

少子高齢化を迎え、国民の少なからずが100歳まで生きてしまうニッポンにあって、個はもちろん、家庭や地域、事業組織、そして国の活力を考えた場合、本当に大事なことは、一人ひとりが「個」として立つ精神だと私は思います。

シニア層に限って申し上げれば、1人でも多くが「いつまでも雇われたい病」を克服し、「個」の職業人として何か独自の(私と同じく身の丈ビジネスでよいので)事業を起こし、生き生きと働いていく姿を後進世代に見せていってほしいと願います。

ちなみに、20代、30代のキャリア研修でも会社と自分の関係性のタテ/ヨコをきいていますが、やはりタテ関係ととらえるのが多数派です。これにはシニア層と異なる状況があるのですが、それについてはまた別の機会にでも。

村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。
『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)をはじめ、管理職研修、キャリア開発研修、思考技術研修などの分野で企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。
GCC(グロービス・キャリア・クラブ)主催セミナーにて登壇も多数。

1986年慶應義塾大学・経済学部卒業。プラス、日経BP社、ベネッセコーポレーション、NTTデータを経て、03年独立。94-95年イリノイ工科大学大学院「Institute of Design」(米・シカゴ)研究員、07年一橋大学大学院・商学研究科にて経営学修士(MBA)取得。

著書に、『キレの思考・コクの思考』(東洋経済新報社)、『個と組織を強くする部課長の対話力』『いい仕事ができる人の考え方』『働き方の哲学』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。