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投稿日:2019年10月29日

投稿日:2019年10月29日

会計の誕生と変遷の裏側――『会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語』

大橋 慶子
グロービス ファカルティ本部 研究員

「会計」と聞くと、地味で、無味乾燥な数字の羅列で、何一つ面白みがないと感じる人も多いのではなかろうか。

書店の会計コーナーに行くと、会計系の書籍には「よ~くわかる」とか「面白いほどわかる」といった言葉が前面に強調されている。会計とは、いかに分かりにくく、面白みのない物かと物語っているようで、皮肉である。

このように、どちらかと言えばつまらなそうなイメージが強い会計だが、会計の歴史について知れば、意外や意外、会計の面白さに気が付くのではないだろうか?

会計は、取引を可視化するという発見

本書は、500年間に渡る会計の世界史をイタリア、イギリス、アメリカを舞台にドラマ仕立ての物語として綴っている。一歩足を踏み入れれば、不思議とタイムスリップして歴史を旅する気分を味わう。

会計がどのようにして生まれ、広まり、どのような経緯を経て今日のような形に発展したのかが分かる。それと同時に、会計が社会をどのように変えてきたのかを解説している。多くの人が敬遠する会計の歴史を扱う上で、いかに楽しく、いかに分かり易く伝えるかという課題に挑んだ筆者の試みと会計への情熱が感じられる。

例えば、今日の会計の基礎となった簿記は、商売の盛んな15世紀のイタリアにおいて生まれた。

きちんと紙に記録し、稼いだ儲けを分配すれば、争いごとは避けることができる

中世イタリアの商人のごく単純な思いが会計の起源である。

今となっては帳簿をつけるのは当たり前だが、当時、紙は高価で簡単に入手できず、記録することは容易ではなかった。だが、取引が多くなるにつれ、人々の記憶に頼るには限界が出てきた。

大切な約束事は文書に残して記録し、商売の現状や儲けを可視化すること――この技術が会計なのである。その後、紙の生産増加に伴い、紙が普及し、取引を体系的に記録する技術が誕生した。

帳簿の存在は、他人に経営を任せることを可能とした。それまでは、会社は家族や親族によって構成されていたため、そもそも儲けを厳密に計算し、分配する必要性がそれ程なかった。だが、帳簿が生まれたことで、他人が介在する経営ができるようになり、事業規模の拡大を促進した。

なぜ会計の世界史を学ぶのか

お金の流れの背景には、必ず何かしらの人間の行為がある。会計は人々の思いや行動を反映しながら、人々が期待する役割に応えながら発展を遂げてきた。今現在作られている出来事の背後には常に歴史が色濃く影響を与えている。現代や未来の制度も、歴史的に作られるのである。背景を理解しないことには、物事の本質を見極めることはできない。現在や将来に起こり得る問題に対応するためには、過去のできごとを正しく理解する必要がある。本書を読むことにより、現在の常識は必ずしも普遍的ではないことが分かる。

一般のビジネスパーソンは、細かい会計制度まで知る必要はないが、会計の世界史を学ぶことで、会計の社会的存在意義や、会計制度の大枠についての理解が確実に深まる。会計制度の在り方は、時代の要請や環境の変化とともに進化するが、なぜ変化したのかを考える材料になる。

本書は、会計の歴史的発展を通じて会計とは何かを明らかにしている。簿記(会計のための記録)、財務会計、管理会計、ファイナンスについて、その仕組みが驚くほど良く分かる。そして、本書を読み終える頃には気付くが、会計は、間違いなく資本市場や世界経済、つまり人類の発展を支えてきたシステムである。会計は「生きた」システムであり、持続的に機能し続けるために、今後もさまざまに進化し続けるはずだ。

あなたも是非、会計の世界史を学ぶ旅に出てみてはいかがだろうか。本書を通じて、会計の面白さや魅力を味わって頂きたい。

会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語
:田中靖浩 発行日:2018/9/26 価格:2420円 発行元:日本経済新聞出版社

大橋 慶子

グロービス ファカルティ本部 研究員

慶應義塾大学商学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了

外資系の金融機関や製薬会社にて、コントローラー業務(財務報告、税務報告、予算策定、予算管理等)に従事した後、グロービスに入社。
現在は、カネ系領域(アカウンティング・ファイナンス)の教材やコンテンツの開発を行う。