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投稿日:2019年08月28日

投稿日:2019年08月28日

『好きなことしか本気になれない』――「正しい人生」よりも「自分の人生」を生きたい社会人へのメッセージ

松井 孝憲
グロービス ファカルティ本部 研究員/(財)KIBOW インベストメント・プロフェッショナル

もしあなたが、人生の中で大きな選択をするとしたら、それをどう行うだろうか?

情報を集め、相談相手からアドバイスを得て、シミュレーションをして、ひとつの正解を見つけようとするーーこの方法に疑問を持たないなら、ぜひ本書を手に取ることをオススメしたい。

なぜなら、どれだけ正解を探しても、そんな「『たったひとつの正解』は、世界のどこにも存在しない」からだ。

正解を追い求めるやり方では、自分の欲しかった人生は得られないのだ。

今は人生100年と言われる時代だ。そして、変化が激しく先行きの見えない世界だとも言われている。誰も未来の予測はできないし、何が正しいのかは誰にも分からない。そんな「正解なき世界」とどう向き合い、生き抜いていくか。本書では、ココナラを創業した著者が、自身の受験や結婚、就職、留学、起業といった公私に及ぶキャリアを題材としながら、著者の考え方を紹介している。そこで強調されているのは、自分自身で意思決定することの大切さだ。

自分で道を選ぶことは、リーダーシップを持つことそのものであり、自分を成長させると本書は強調する。そのプロセスを著者はセルフリーダーシップという言葉で説明する。自分で決めたことは、自分でやるしかない。自分でやった結果は、自分自身で受け止めることになる。それがたとえ成功でも失敗でも、大きな経験となる。その経験が、自分の好き・嫌い、得意・苦手といったリアルな感覚を育て、次の意思決定に活かされる。この意思決定とアクションの繰り返しから「自分の大切にしたい価値観」が見えてくるのである。

「自分で決める」ことの重要性は、筆者自身も身に染みて感じる。筆者は、30代半ばまでに4度のキャリアチェンジをしてきた(恐らく普通より多い部類に入るだろう)。その中で、「確実に上手くいく」という保証のあったキャリアチェンジは1度もなく、実際に失敗といえる経験もたくさんした。1社目に就職したコンサルティング会社の同期と比べれば稼いだ金額や昇進などでは明らかに劣っているだろう。

しかし筆者の場合、自分の「やってみたい」という思いで意思決定をしたことに全く後悔は無い。むしろ、自分で意思決定をしたからこそ、自分が何を優先したいのか、その価値観が研ぎ澄まされ、次の意思決定が上手くできるようになっている。そして、その意思決定の末にある現在のキャリアには心から納得している。

このように、自分の意思に沿って生きるからこそ、その人の人生には、人に語れる「自分のストーリー」が生まれる。それらのストーリーは、誰にも代え難いまさに自分の生きざまそのものである。そんなストーリーのある人生こそ、100年生きる時代の中で注目に値するのではないだろうか。(本書でも著者が自身のストーリーを家族に語るエピソードが紹介されている。この場面は心を打つものがある)

本書は正しい意思決定の方法を教えるハウツー本ではない。
本書は、自分の人生を自分で生きようとする人たちへ、著者から背中を後押しするメッセージである。
「僕はこんなふうに生きているよ。あなたはどんな価値観で、どんなストーリーを生きている?」と。

筆者自身、そのメッセージを受け取って自分のストーリーを生きていきたいと強く感じる一人だ。

「胸を張れる生きざまでいたい」。

「誇りを持てるような、自分の人生を生きたい」。

もしあなたが、そんな願いを持っているのなら、本書の言葉はあなたに残り続けるだろう。

『好きなことしか本気になれない。 人生100年時代のサバイバル仕事術』
著者:南 章行 発行日:2019/8/29 価格:1620円 発行元:ディスカヴァー・トゥエンティワン

松井 孝憲

グロービス ファカルティ本部 研究員/(財)KIBOW インベストメント・プロフェッショナル

一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科修了

株式会社シグマクシスにて、新規事業立案、人事・人材開発プロジェクト等に従事。並行して2011年にNPO法人二枚目の名刺に参画、2015-16年常務理事として活動。社会人とNPOが協働し、社会課題解決に取り組む「NPOサポートプロジェクト」を運営。本取り組みを企業向けの人材開発プログラムとして立ち上げる。本プログラムは2016年日本の人事部「HRアワード」(人材開発・育成部門)最優秀賞受賞。大学との共同研究を通じた副(複)業・パラレルキャリア・越境学習の実証研究も実施。グロービスでは、研究・コンテンツ開発に取り組むのと合わせて、(財)KIBOWで社会インパクト投資にも従事する。