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投稿日:2019年09月02日

投稿日:2019年09月02日

『世界最先端のマーケティング』-ネットとリアルの融合、チャネルシフト戦略をフレームワークで学ぶ-

三井 敬二
グロービス経営大学院 スチューデント・オフィス/研究員

「リアル店舗vsオンライン店舗」という単純な対抗軸では、チャネルを捉えられなくなっている。本書を読み、このパラダイムシフトを改めて強く突き付けられた。

ネットとリアルが融合したチャネルの分析眼を学ぶ

本書のタイトルである『世界最先端のマーケティング』とは「チャネルシフト戦略」を意味している。チャネルシフト戦略とは、オンラインとリアルを組み合わせたチャネルを介して、顧客の購買行動(選択→購入→使用)のデータを継続的に収集し、そのデータを使って販促・価格・商品のすべてを個々の顧客に合わせて最適化する戦略である。

なぜチャネルシフト戦略が必要かというと、スマートフォンの普及に伴う顧客の購買行動の複雑化がトレンドだからだ。例えば、家電製品の購入時には、リアル店舗で商品を購入する前にネット上で商品レビューを参考にする顧客も多い。アパレルや家具なら、店舗で実際に商品を試してからオンラインで購入することも多々ある。つまり、顧客にとって、購入する店舗がオンラインなのか、リアルなのかということは重要ではない。両者を行ったり来たりしながら買い物をするのである。

本書の前半では、上述のトレンドに合わせたチャネル戦略の捉え方についてAmazon、ZOZOTOWNやニトリに加え、国内外の多様な業界の事例を題材に、シンプルなフレームワークで丁寧に解説している。具体的には、選択フェーズと購入フェーズそれぞれのチャネル(オンライン/リアル)を掛け合わせた四象限のフレームワークにより、事業ポートフォリオがいずれの象限をカバーできているか、事業間でいかにシナジーを効かせているかを俯瞰して整理している。事例として出てくる企業の一部は、他の書籍でもよく取り上げられ、成功のメカニズムが研究されているが、本書のフレームワークで改めて分析すると、より一層納得度が高まる。この点が本フレームワークの有用性を示している。

チャネル起点のマーケティング戦略全体の変革手法を学ぶ

チャネルシフト戦略で重要なことは、オンラインとリアルのチャネルを融合して終わりではないということだ。それぞれを組み合わせて顧客とのつながりを設け、そこから購買行動データを収集し、これによりマーケティング・ミックスの他の要素(販促・価格・商品)を変革することがゴールである。

本書の後半では、顧客の購買行動プロセス、チャネルの種類および両者の連携を踏まえたチャネル設計により「顧客とのつながり」を創るためのフレームワークや、顧客の購買行動データを基にチャネル以外のマーケティング要素の整合を図るフレームワークも紹介されている。いずれもシンプルで、すぐに実務に活かしやすいものである。

シンプルで実践的なフレームワークによりチャネルシフト戦略を導く

本書で提案されるフレームワークは、マーケティングの最前線で戦う実務家としての著者の知見と学術的な知見を組み合わせ、同じ実務家が自社に引き寄せて実践しやすいように開発したものである。マーケティングの書籍を手に取る多くの方が抱くであろう「結局どのように考えて実行すればいいの?」という問いにダイレクトに答えてくれる。この点が、本書の価値を高めている。

マーケティングを志す方・すでに実践している方(特にリアル店舗に主軸を据える方)には、ぜひ一読いただきたい。

『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』
著者:奥谷 孝司、岩井 琢磨 発行日:2018/2/22 価格:1944円 発行元:日経BP

三井 敬二

グロービス経営大学院 スチューデント・オフィス/研究員

京都大学 薬学部卒業 同大学院 薬学研究科修士課程修了、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。

国内製薬メーカーで医薬品の製品化研究に従事し、グローバル開発や複数製品で上市を経験。グロービス入社後は、経営大学院/グロービス・マネジメント・スクールのマーケティング・学生募集企画、名古屋校の成長戦略の立案・実行や組織マネジメントに従事。その傍ら、マーケティング・経営戦略領域の教材・コンテンツ開発にも携わる。