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投稿日:2019年10月07日

投稿日:2019年10月07日

組織に頼らず30年後の自分をデザインできますか?――『プロティアン~70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』

石橋 直美
グロービス学び放題 コンテンツ開発チーム研究員

あと30年、本当に働けるだろうかという不安

「(安倍首相は)雇用制度では「70歳までの就業機会を確保する」と強調した」(日本経済新聞『首相「社会保障改革、総力で」 再改造内閣が発足 全世代型へ新会議』、2019年9月11日)―――――

新聞を読みながら、アラフィフの筆者はそっとため息をついてしまった。70歳まで働かなければならないことについて、追い詰められてきている感がものすごい。確実に包囲網が狭まってきている。

もちろん、健康寿命が伸び元気に過ごせる期間が長くなってきているとか、様々な社会情勢から働ける人は働かなければならない、など理由があることは分かっている。しかし、今の時点で仕事と家庭を回すので精一杯のアラフィフ。本当にあと20年、ヘタをしたら30年近く、生き生きと働き続けることができるのだろうか?

変幻自在なキャリアの3つのポイントと伝統的キャリアとの違い

プロティアン・キャリアとは、アメリカの心理学者ダグラス・ホール教授が1976年に提唱した概念である。プロティアンには、「変化し続ける」「変幻自在な」「一人数役を演じる」という意味がある。語源はギリシャ神話の神プロメテウスのこと。プロメテウスは、環境の変化に応じて火にも水にも、獣にさえも姿を変えることができた。そこから名づけられたという。

本書は、人生100年時代という経験したことのない時代に生きるビジネスパーソンに向けて、この「プロティアン・キャリア(変幻自在なキャリア)」を軸に、著者が考えた「生涯を通じて変身し続ける術」を分析する枠組みを提示している。

プロティアン・キャリアが注目されるようになったのは、2000年代から。それまでは、組織内での昇進や昇格など右肩上がりに上昇していく、いわゆる「伝統的キャリア」が中心であった。しかし、今日において企業も労働者も伝統的キャリアだけに頼るのは難しい。個人が自力でキャリアを何とかしなければならない。そこで、新たな考え方として可能性を見出せるようになったのが、プロティアン・キャリアなのである。

著者は、プロティアン・キャリアには3つのポイントがあるとしている。

  1. キャリアとは個人が創造するものであり、組織が管理するものではないとしたこと。
  2. キャリアに社会的な成功や失敗はなく、仕事の報酬は目標が達成された時に得る「心理的成功」の獲得だと意味付けたこと。
  3. 仕事には遊びの要素が存在するため、生活との統合が可能だと提唱したこと。

このポイントから考えると、プロティアン・キャリアは伝統的キャリアと3つの点で異なる。

  1. 個人が様々なキャリアパスを柔軟に選択して取ること(伝統的キャリアは、組織内キャリアの成功を目指して一直線だ)。
  2. 個人が様々な空間で働き、生活するようになること。個人が仕事と育児や介護などと両立しながらキャリアを築いていく。
  3. 個人を主たる対象と捉え、組織は個人が求める機会や場を提供するプラットフォームと考えること。今の組織での経験を、次の組織でもオープンに活かす事を通じて、よりやりがいを感じて働くことができる。

ダグラス・ホール教授は、組織よりも「個人の時代」の到来を示唆した。プロティアン・キャリアは、「キャリアを“仕事上の結果”と捉えず、“人生における過程”と考えることで、仕事や家庭、友人、趣味などあらゆる関係性を重視すること」であり、「関係性の集合としての変幻する自己、変幻自在なキャリア」なのだ。

プロティアン・キャリアを実践する具体的な方法

それでは、我々がプロティアン・キャリアを実現するには、具体的にどのようにしたら良いのだろうか?

実を言うと、ダグラス・ホール教授はそれを形成する日常的な実践方法、および収入との関係については述べていない。

本書を執筆した著者自身もミドル世代。大学教授という恵まれたポジションにありながら、やはりキャリアの迷いが生じた際に、プロティアン・キャリアの考え方に救われたという。

しかし、著者もダグラス・ホール教授が具体的な実践方法を述べて無いことに疑問と不満を感じたため、本書の後半では、個人が持つ資産(無形、有形)と3つの資本(ビジネス、社会関係、経済)の観点から、プロティアン・キャリアの実現に足りているもの、足りていないものを分析する著者オリジナルの方法論を提案している。

さらに巻頭には「プロティアン・キャリア診断」も掲載され、著者自身のプロティアン・キャリア度も公開されている。

著者はプロティアン・キャリア度を上げるために、1つひとつ行動を変えていったという。30年後の自分……うかうかしているとあっという間にその時がやって来るだろう。ついつい目の前の雑事に翻弄されがちだが、30年後の自分をデザインしたい、これで良かったと振り返ることができるようにしたい、と心から思わされた一冊である。

『プロティアン~70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』
著者:田中研之輔著 発売日:2019/8/8 Kindle:1650円 単行本:1650円 発行元:日経BP

石橋 直美

グロービス学び放題 コンテンツ開発チーム研究員

法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修士課程修了。

コンサートホールを運営する公益財団にて事業企画等に従事した後、グロービスに入社。法人向け人材育成・組織開発部門において、コンサルティング業務、部内の業務改革プロジェクト等に携わる。現在は、ビジネスを学べるオンライン動画サービス「グロービス学び放題」のコンテンツ企画・執筆を行っている。日本キャリアデザイン学会会員。MBTI認定ユーザー。