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投稿日:2019年04月29日

投稿日:2019年04月29日

「コンビニは24時間営業すべきか?」は正しい問いか

嶋田 毅
グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長

最近、コンビニエンスストアの24時間営業が話題になっています。発端は大阪府のあるオーナー(フランチャイジー)が人手不足などを理由に24時間営業を止めたところ、本部側の企業(フランチャイザー)から多額の違約金等を求められたことです。その後、「うちも同じ悩みがある」というオーナーがどんどん発言するようになり、社会問題として注目を浴びるようになりました。

その間、フランチャイザー側の企業の株価は、日経平均の高騰に反するように下落するという事態も起こりました。一方で、世耕弘成経済産業相自らコンビニトップを集めて会談を開き、それに対して財界から「経産省が介入すべき問題なのか」という声も出ました。今回はこの問題を題材に、「適切な問い」の立て方を考察してみましょう。

不適切な問いによる弊害とは?

さて、「コンビニは24時間営業すべきか?」という問いの良くない点はどこでしょうか。いろいろありますが、まず二者択一の聞き方をしているため、往々にして他のより望ましい選択肢を見逃しがちになるという点は挙げられるでしょう。ある程度の知識があれば「条件付きでOK。その条件とは何か」といったように議論を続けることも可能ですが、世の中、そういう人ばかりでもないのです。

また、こうした問いかけは、「自分は特に必要としないから不要」といったように人々の視野を狭める可能性もあります。さらに、特定の論に固執する人(例:地球環境に優しくないものはすべて悪だ)にとっては、議論を単純化する手法として用いられる懸念もあります。「べきか」という問いかけの仕方が、善悪二元論的な議論を誘発しやすい点も要注意です。

では、「そもそもコンビニは必要なのか?」はどうでしょう。これはさらに後退しています。もちろん、時には「そもそも論」をすべき場面もありますが、これだけコンビニが社会的インフラとして根付いている現在、その存在の是非そのものを改めて議論するのは生産的とは言えません。

「コンビニのオーナーの労働環境や待遇を改善することは可能か?」はどうでしょう。これは現時点で世間から注目されている問題を踏まえると、最初のものよりは悪くない感じです。実際、フランチャイジーからは、24時間営業のための人材確保の難しさや自らの身体的・精神的疲労を訴える声が上がっています。さらに、ドミナント出店(あるエリア内に何店舗も出すことで物流やスーパーバイザー訪問の効率を上げたり認知度アップを図る方法)による同ブランド他店との競争による利益低下や、フランチャイジー側にやや不利な契約条件(弁当などの売れ残り分を負担するなど)への不満が大きいからです。

ただ、これは議論をフランチャイザー対フランチャイジーの役割分担や取り分などの条件に矮小化してしまう可能性があります。つまり、その他のステークホルダーである顧客や地域の視点、アルバイトの視点、メーカーやPB品の下請け業者などの視点が抜けてしまいかねないのです。たとえばアルバイトの視点が抜けたまま深夜営業を規制すると、「深夜アルバイトで稼ぎたい」と考えるフリーターや外国人労働者に不利になるという見方もあるでしょう。あるいは、コンビニ全体の売上げが下がれば、下請け企業にとってもダメージになります。

「コンビニのあり方に経産省が介入するのは妥当か?」はどうでしょう。これはこれで大事な論点ですし、実際に最適な状態に至る上で、経産省がどの程度のリーダーシップを発揮するかは重要なポイントにはなりそうです。しかしこれもやや問題を矮小化してしまう可能性があります。なにより、「あるべき姿」以前にプロセス論が先走りすることは、通常、あまりいい結果につながりません。

本来問うべきことは?

そもそも、我々は何を最低限、議論すべきポイントとして意識しなくてはならないのでしょうか。多くのものが考えられますが、いくつか代表的なものを挙げると以下のとおりです。

  • そもそもコンビニは社会的にどのような価値を提供すべきか?(例:震災時のライフラインとなる、Eコマースのラストワンマイルの拠点となる、単身世帯に利便性を提供するなど)
  • ステークホルダーがWin-Winとなり、全体最適となる姿とはどのようなものか?
  • 現在のコンビニ各社の戦略はラットレースになっていないか。もっと別の競争の仕方はないか?
  • 深夜営業することのメリット、デメリットは何か?
  • テクノロジー(例:無人店舗)で解決できる問題は何か、解決できない問題は何か?
  • 法律でどこまで制約をかけることが最適か?

こうしたことをバランスよく議論できるような問いを立てないと、見落としが生じたり、議論が感情的に一方向に引っ張られて全体最適にならなかったりするのです。

今回のケースで言えば、たとえば

  • サステイナビリティ(持続可能性)のあるコンビニのビジネスモデルを作ることは可能か?
  • サステイナビリティがあり、かつ実現可能なコンビニのビジネスモデルとはどのようなものか?
  • サステイナビリティがあり、かつ実現可能なコンビニのビジネスモデルを構築する上での難所は何か?

等であれば、広い視野を持ち、より有意義かつその場しのぎにならない議論ができそうです。

解の効果は、問いの適切さに大きく依存することを再確認したいものです。

嶋田 毅

グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。