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投稿日:2019年04月11日

投稿日:2019年04月11日

減資ってどういう場合にするの?

溝口 聖規
グロービス経営大学院 教員

今回は減資について説明します。減資とは、会社の資本金を減少させることです。資本金は事業活動の元手であり、会社にとって重要なおカネです。資本金を減少させるとはどういう場合なのでしょうか。

減資には、有償減資と無償減資があります。有償減資は、分かりやすく言うと、資本金を出資者である株主へ払い戻すことです。実質上の減資とも言われます。無償減資は、名義上の減資とも言われ、B/S上の資本金の金額は減少しますが実際に会社からおカネが流出することはありません。おカネの動きの有無が両者の違いの1つです。

また、有償減資と無償減資は通常、実施される状況も異なります。有償減資は、会社の事業規模などと比べて資本金が大き過ぎると判断される場合等に行われます。

通常、有償減資は過剰資本の是正を目的として行われますので、資本金が減少するからと言って即座に会社の財務面からの信用力が損なわれることは無いと思われます。なお、資本金の金額は減少しませんが、自己株式の取得も部分的な出資の払い戻しという点では有償減資と同様の効果があります。

無償減資は、繰越欠損金(累積赤字)を抱えた会社が繰越欠損金を資本金で穴埋めする場合に行います。

無償原資は、会社の財政状態の改善を目的として行います。会社の正味の財産である純資産は変わりませんが、B/Sから繰越欠損金が消滅することで決算書の見栄えが変わります。

次に、減資のメリットとデメリットです。減資のメリットとして一般的に以下が挙げられます。

  • 株主への実質的な配当(有償減資)
  • 繰越欠損金の解消
  • 税務メリット

株主への配当は利益剰余金から支払うのが原則であり、通常は資本金から支払うことはできません。しかし、株主総会での特別決議や債権者保護手続きを経ることで、資本金から配当をすることが可能になります。

繰越欠損金の解消は、会社の正味の財産という点では実質的に変化はないですが、繰越欠損金を有する会社はやはり業績不振という印象を持たれ、銀行からの融資条件が不利になる、取引先からの信用を悪化させる等の影響が出るでしょう。また、繰越欠損金を放置すること自体、会社の信用を低下させることにもなります。

繰越欠損金を解消することで、決算書上の見栄えも良くなりますし、財政体質改善に向けた経営者の意思を示すこともなります。また、繰越欠損金を解消するとその後の配当の可能性が高まるため、株式公開準備段階などで資金調達の準備として行うこともあります。

税務メリットは、税務上の負担を減らすことです。税法では、資本金が大きいほど税金が高くなります。例えば、資本金が1億円以下であれば軽減税率の適用、交際費の損金参入可能額、少額固定資産の損金算入などの優遇税制が受けられます。2015年にシャープが経営再建をする際に、税務メリットを目的として資本金を1億円まで減資すると発表したのが記憶に新しいところです(実際には5億円に留めました)。

一方で、以下のようなデメリットもあるでしょう。

  • 会社の信用低下
  • 時間とコスト

無償減資では名目上の資本金が減少はしますが、会社の実質的な財務状態には変化はありません。しかし、非公開会社では資本金程度が情報開示されることが多く、会社の業績や財政状態について詳細な情報は開示されることは稀です。つまり、外部者にとって資本金は会社の信用を判断する数少ない情報となります。したがって、資本金の減少は会社の信用力が低下したと判断されるおそれがあります。

また、減資は会社の株主、債権者に対して重大な影響を与えます。したがって、原則として株主総会の特別決議(過半数の株主が出席の上、2/3以上の賛成)、また、債権者に対して減資の旨等の広告、異議申立期間(1ヵ月以上)等の債権者保護手続き、更には減資確定後の法務局への登記等、時間とコストが掛かります。

溝口 聖規

グロービス経営大学院 教員

京都大学経済学部経済学科卒業後、公認会計士試験2次試験に合格し、青山監査法人(当時)入所。主として監査部門において公開企業の法定監査をはじめ、株式公開(IPO)支援業務、業務基幹システム導入コンサルティング業務、内部統制構築支援業務(国内/外)等のコンサルティング業務に従事。みすず監査法人(中央青山監査法人(当時))、有限責任監査法人トーマツを経て、溝口公認会計士事務所を開設。現在は、管理会計(月次決算体制、原価計算制度等)、株式公開、内部統制、企業評価等に関するコンサルティング業務を中心に活動している。

(資格)
公認会計士(CPA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、公認内部監査人(CIA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA)