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投稿日:2019年03月30日

投稿日:2019年03月30日

法人営業こそITで生産性向上を図れ 

嶋田 毅
グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長

先日改訂・発売になった『改訂4版グロービスMBAマーケティング』から「リード創出のハードルとマーケティングオートメーション」を紹介します。

営業、特に法人顧客に対する営業というと、非常に泥臭い場面を想像される方も多いはずです。電話でのコールドコール、適切な顧客窓口を探し出す苦労、本命かあて馬かもわからないのに見積書や提案書を要求される等々。特にリードと呼ばれる見込み顧客の開拓は精神的にも体力的にもきついものです。そうしたこともあってか、法人営業は往々にして属人化しやすく、また精神論がはびこる分野でもありました。しかしこれはもう時代遅れです。いまやSFA(セールスフォースオートメーション)やMA(マーケティングオートメーション)を活用できない企業は、いたずらに経営資源や時間を浪費し、競争力を維持できない時代です。対応できている企業はまだ少ないですが、だからこそそこに乗り遅れず、法人営業とマーケティングをつなぐべく科学的にマネジメントしていくことが必要なのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

リード創出のハードルとマーケティングオートメーション

BtoBの取引では、購買の検討に顧客企業の複数の関係者がそれぞれの役割を持って関与する。このため、リード創出の確度を高める上では、以下のようなハードルが生じがちだ。これらがネックになると、顧客への営業活動に十分な時間を割けなくなり、結果的に限られた人員での営業活動の効率が下がってしまう。

  • リードのコンタクト先(メールアドレスなどの連絡先)を獲得し管理すること
  • 自社の製品・サービスに対するリードの興味・関心を醸成すること
  • 本当にリードと言えるのかどうか、案件化の見込み度合いを見極めること

MAではこれらのハードルを、営業担当者の手を煩わせることなく乗り越えることを目指す。それぞれ、(1)リード・ジェネレーション(見込み顧客の獲得・管理)、(2)リード・ナーチャリング(見込み顧客の育成)、(3)リード・クオリフィケーション(見込み顧客の絞り込み)として、各段階でリードの状態をマネジメントする。マーケターの役割としては、それぞれのマネジメントにおいてどのような状態を目指すのか、ゴールと流れのシナリオを設計することが重要になる。

(1)リード・ジェネレーション(見込み顧客の獲得・管理)

新規営業を拡大していくには、前提として相手先の情報獲得が必要になる。既に取引のある顧客の情報は社内データベースに蓄積されているだろうが、持続的なビジネスの成長のためには、新規で獲得する仕組みも不可欠だ。営業部隊の手を煩わせずに、リードとのコミュニケーション・ルートをいかに多く獲得し、データベースに追加できるかが、マーケティングに期待されることだ。

例えば、ウェブサイト経由の問い合わせが増えるようにサイトのデザインに工夫をしたり、ホワイトペーパーのダウンロードやメールマガジンへの登録、資料請求等の機会を捉えて、相手のメールアドレスなど連絡先情報を入手したりする。ほかにも、関連セミナー開催による集客時の名刺獲得など、まずは相手に“名乗ってもらう”ための様々な施策を打ち、そこで得たデータをリード情報として管理していくのである。村田のmy MurataⓇが会員登録制であることも、自社製品や関連する製品群に興味・関心のある顧客情報を得て、顧客行動の見える化とデータベース化を目指しているからである。

なお、企業が発行する白書、または報告書であるホワイトペーパーは、企業が、ある領域の技術動向や市場動向などに関して調査の上独自にまとめ、製品仕様を説明するカタログなどに載せきれない情報として発信するものである。マーケティングにおいては、ダウンロードする際に利用者の個人情報の開示を求めるなどして、興味・関心の高いリードにアプローチするための情報を得る目的で活用されるほか、リードに継続的に情報提供して、自社製品・サービスへの興味・関心を高めてもらうツールとしても位置付けられている。

(2)リード・ナーチャリング(見込み顧客の育成)

見込み顧客のコンタクト先が明らかになったところで、全員に営業担当者が直接アプローチするのは効率が良くない。営業担当者にリードとして引き継ぐためには、顧客の興味・関心を喚起し、より大きく育てることが重要となる。ただし、DMUにおける関係者の役割は個々に異なり、役割に応じて興味・関心も異なるため、それぞれに最適な情報を提供することが望ましい。このため、顧客の興味・関心を把握しながら双方向にコミュニケーションをとることのできる施策が有効となる。

例えば、メルマガの記事の中で顧客がクリックした内容について把握し、より興味・関心を高められるよう、送付内容に工夫することなどである。村田のウェブサイトで、顧客が関心を持った製品について、双方向での情報交換を行えるようにしたり、設計関連の各種資料・情報を得られるようにして良質なコンテンツを充実させているのは、最終的には購買につながるリードを育成したい、と考えているからである。

(3)リード・クオリフィケーション(見込み顧客の絞り込み)

「ターゲットの興味・関心は高まっているか?」「それはどのような領域についてか?」「どんな情報を、いつ提供すれば効果的か?」「自社にとってのリードと言えそうか?」など、単にリードを多く集めることだけでなく、ターゲットが案件を検討するタイミングや求める情報を把握し、次の段階に進めるかどうかを見極めることが重要だ。例えば、資料をダウンロードしただけでまだ興味・関心が薄い時期に突然、営業担当者から面談を打診されれば、日々の業務に忙しい相手は負担に感じるかもしれない。それが、自社から距離を置くきっかけにもなりかねない上に先方にコンタクトする営業担当者の時間も無駄になってしまう。

このため、顧客はどのテーマに興味・関心がありそうか、フォローするならばいつ頃が適切か、そもそもリードとしてフォローを続けるべきなのかなど、リードの見込み度合いを常に把握しながら、情報提供の内容やアプローチ方法をマーケターが考え、営業担当に提案することが肝要となる。

それには、メルマガが開封された、記事がクリックされた、ホワイトペーパーがダウンロードされたなど、顧客の行動についてそれぞれスコア化して管理・把握すると効果的だ。顧客の行動があるスコアに達する、あるいは特定のコンテンツがダウンロードされるなど、あらかじめマーケターが設定した状態に達したところで営業担当者に引き継ぐのである。ケースの村田では、MAツールの活用においてもデジタルな行動・属性スコアだけで機械的に判断するのではなく、人の経験的知見を踏まえて判断するなど、マーケターの設計意図が反映されている。

(本項担当執筆者:小島和也 グロービス・ファカルティ本部研究員)

嶋田 毅

グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。