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投稿日:2019年03月27日

投稿日:2019年03月27日

電気グルーヴの音楽販売停止で改めて知る、シェアリング・エコノミーの浸透

大島 一樹
書籍・GLOBIS知見録編集部 研究員

先日、著作権法の改正案がいったんまとまりながらも、自民党内で異論が起こり、国会提出が見送られるという出来事が話題となりました。元々の改正案は、ネット上に違法にアップされている著作物を違法なものだと知りながらダウンロードする行為の規制について、従来は音楽や映像のみを対象としていたところ、画像や文書など全ての著作物へ拡大するというものです。マンガの海賊版対策として何らかの規制が必要だろうという点はおおむね一致をみるものの、それを法律の形にどう落とし込むか、なかなか難しいのです。

今回批判が生じた論点としては、個人が私的に利用するような著作権者への被害が軽微なケースまでも処罰の対象になりかねない、「違法にアップされたものと知りながら」という形で処罰対象を限定してはいるもののいったん嫌疑をかけられたら「知らなかった」ことの立証は難しい、ただ閲覧するだけ(ストリーミング)は規制対象にならないのでそもそも海賊版流通の抑止効果があまり期待できない、などがあります。

それぞれの詳細は本稿では立ち入りませんが、ネットの普及やデジタル化の進展によって、著作物の複製が簡単に入手でき、あるいは複製物そのものを入手できなくても欲しいときに見たり聞いたりして楽しめるようになったことの表れと言えるでしょう。それが、これまでの出版や音楽・映像ソフトの販売ビジネスと、衝突するようになったのです。

また先日は、ピエール瀧氏の薬物使用容疑による逮捕によって、電気グルーヴのこれまでの音楽/映像商品が販売停止になるという事態がありました。これまでもアーティストの犯罪容疑をきっかけとしてその作品がしばらく販売停止になることはありましたが、今回は、ストリーミングサービスを利用しているファンが自分のプレイリストに楽曲があるのに聴けない状態に陥ったため、波紋がより大きくなった面があります。以前のケースでは、当該アーティストファンのほとんどはCDなど既に購入していたメディアを通じて普段聴いていたため、販売停止となっても即座に自分へは影響しなかったのです。

シェアリング・エコノミー型事業が競合になる時代へ

これら2つの事件は、最近の消費者がますます「所有」ではなくて「利用」で需要を満たすようになったことを示しています。欲しいモノやサービスがあったとき、それそのものを買わなくても、必要なときに必要な分だけ使えればよいという意識が日常的に定着しているとも言えるでしょう。「所有ではなく利用」というニーズを満たすビジネスは、マンガや音楽といったコンテンツの世界ではマンガ喫茶や貸しレコード(CD)屋など昔からありましたが、上記のようなテクノロジーの進化によって、さまざまなモノ・サービスを対象として爆発的に広がってきています。

こうした新たなビジネスモデルを指す用語として、「シェアリング・エコノミー」があります。シェアリング・エコノミーとは、UberやAirbnbに代表されるように、特に消費者同士が所有する資産やスキルを他人にも使えるようにする行為を仲介するビジネスを指します。

メルカリのようなフリマアプリも、いったん誰かに買われたモノを別の人に気軽に売って有効活用すると捉えれば、これに含まれます。また、ランサーズやクラウドワークスのようなクラウドソーシングも、人の労働時間やスキルをシェアしていると捉えればシェアリング・エコノミーの一種と言えます。こうして見ると、近年シェアリング・エコノミーが急速に世の中に浸透しているのが分かることでしょう。

起業家精神旺盛な人にとって有望な新規ビジネスの一形態というだけでなく、既存のビジネスに属する人にとっても、いつ何時シェアリング・エコノミー型のビジネスモデルが競合として出現するか、注目を要する時代になっているのです。

大島 一樹

書籍・GLOBIS知見録編集部 研究員

東京大学法学部卒業後、金融機関を経てグロービスへ入社し、思考系科目の教材開発、講師などに従事。現在は書籍・GLOBIS知見録編集部にて企画、執筆、編集を担当するとともに、「グロービス学び放題」のコンテンツ開発を行う。共著書に『MBA定量分析と意思決定』、『改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング』(以上ダイヤモンド社)など。