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投稿日:2019年02月19日

投稿日:2019年02月19日

「ズレ」を認める働き方とは?manabyとNEET株式会社の場合

岡﨑 衛
株式会社manaby 代表取締役
若新 雄純
株式会社NewYouth 代表取締役、慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 特任准教授
山中 礼二
グロービス経営大学院 教員

インクルーシブな雇用(働く機会がない、あるいは失った人の雇用)を実現している企業に、その背景や効果を問う本コラム。今回は、障害者が「自分らしい働き方」ができるよう支援しているmanabyの岡﨑衛氏と、manabyの顧問をしながらニートを集めた会社の運営など様々な事業を手掛ける若新雄純氏に話を伺いました。

manabyの障害者支援

山中:manabyは障害を持った人でも「自分らしい働き方」ができるように支援しています。実際、どういう支援をしているのでしょう。

岡崎:manabyのビジョンは、「一人ひとりが自分らしく働ける社会」です。それが企業の目指すべき方向で、自分らしく働けてない人たちが誰かってなったときに、障害者であると。ならば、障害がある方に対して自分らしく働けるようにサービスを提供しようっていう順番で事業をやっています。

今は、なるべく在宅でも働けるように、選択肢を増やすことにちょっとでも近づけるよう、サービスを提供しています。実際にmanabyを卒業して就職した方のうち4割が在宅勤務、テレワークを実現しています。

一方、6割は今まで通り会社に通って働いています。なので、僕らは「テレワークできること=自分らしい」とは特段思っていません。ただ選択肢が増えるということが多少なりとも自分らしさに繋がるんじゃないかと思っています。

山中:どんなスキルを身につければ、在宅でも働けるようになるのでしょう。

岡崎:結構バラバラで、僕らは自社開発したeラーニングシステムでプログラミングやデザイン、Word、Excelなどを教えています。ただ、実際にそれが直接企業の就職にマッチしているとは、まだ感じてないんですよね。

若新:それこそが、僕が顧問としてお手伝いしている理由です。結局、障害者だけじゃなくて、人のズレがどこまで許容されるかってことが多様性の本質だと思うので。

健常者か障害者かの線引きを社会がするとしたら、「ここまでに収まるとズレていません」っていうゾーンに、努力なり習慣によって行ける人たちが健常である、と。一方、そこから溢れ出てしまう人もいる。

スキルトレーニングだけでは、そのズレはカバーできないと思っていて。むしろ、ズレてることを理解してもらったうえで、「これだけズレてるからこの仕事がいいんじゃない?」って提案する方が、マッチングとして早いんじゃないかなって。それをmanabyでつくれたらいいねっていう話をしています。

ただ、国の就労支援の考え方って、ズレを認め合いましょうということよりは、この能力をみんな身につければ標準ゾーンに収まるだろうっていう考えなんですよね。これでは限界があると思う。

山中:標準に入らない人たちが自分らしい働き方をできるためのカギは、周りの人の認知を変えることにある?

若新:本人が標準に対してどれぐらいズレてるかを客観的に理解し、それをちゃんと説明できることも重要だと思います。もちろん健常者にもいろんなズレがある。その人が思わず考えてしまう、行動してしまう癖みたいなのがいっぱいある。その癖を生かすには、「癖がある」ってことを会社も本人も認めるしかないですよね。

岡崎:なので、manabyはダイアログ(対話)を大事にしています。eラーニングで学べるものがたくさんあったとしても、その学びと出口の間で本人の理解を僕らがしっかりできてないとミスマッチが起こります。そこで、ダイアログすることによって支援員がクルーさん(利用者)の理解を深めれば、自分らしい働き方を提供できるんじゃないか、と。

実例ですが、あるクルーさんから「単純作業でいいからなるべく自分に無理がない仕事がいい」と言われたことがあります。そのクルーさんにとっては、収入を得て使える時間があればよくて、そういう働き方が自分らしいと。ずっと対話してようやくそこに行きつきました。自分たちが掲げているきれいなところだけを見るのではなく、ちゃんとクルーさん一人ひとり見るべきだと気づいた事例です。

NEET株式会社の取り組みは?

山中:一般的には、「ニートの人たちがスキルを身につけて就職したら、社会のためになる」と考えがちです。でも若新さんはNEET株式会社を設立して全然違うアプローチでニートの人たちと向き合っています。

若新:「ニート」っていう言葉を日本に持ってきた東大の玄田有史先生は、ニートとは今までの分け方ではどこにも当てはまらない人たちである、というようなことを著書でおっしゃってます。就労機会に恵まれなかった、家庭が貧しかったみたいな明確な原因があると捉えやすいけど、それだけではない。いわば、円グラフの最後にある「その他」です。

「その他」ってまとまらないものの集まりです。だから、ニートが抱える問題を一括りにすることは不可能で、実態を知るには直接関わって確かめてみるしかないと思った。

それで分かったのが、彼らは1つの方向に向かうことがほぼできないということ。会社に入ると、ある程度一定の方向にまとまらないといけないけど、彼らの多くはそこが難しかったんです。ならば、バラバラのままでいい場所をつくれるといいんじゃないかと。実はバラバラのままだと、家から出て所属できる場所がほとんど世のなかにはないんですよね。

山中:創業前、ニートの人たちをたくさん集めてワークショップをやったんですよね?

若新:ただ、だらだらしゃべっただけです。会議も、みんな納得するまでしゃべりたいんで、1回5時間くらい用意してました。「決まりましたね」って言っても「勝手に決めただけでしょ」。「じゃぁ多数決で決める?」って言ったら、「多数決からはみだしてきた俺たちが集められた意味はないんじゃないか?」と。永遠にそんな話になってまとまらない。

でもやっぱり拠りどころとか答えがほしいっていう人間の側面も見えてきた。だから、「自分らしい働き方をしたい」っていうことは、もしかしたら「自分らしくないほうが楽」っていうことの裏返しでもあるのかなと。

山中:皆さん、どういう働き方をしているんですか。

若新:最初はまとまるかなって思っていたんですけど、まとまろうとすると派閥ができて、お互い足を引っ張り合うようになって。だから、まとまらないことにしたんです。すると喧嘩は減るんですけど、個人で意思を持てる人はぼちぼち活動できるようになるんです。

それでうまくやったやつの例としては、「俺は納期を守らなくてもいい仕事だけする」と。高難度なプラモデルを買ったけど、忙しくて組み立てる時間がない人が結構世の中にいて。そういう人たちって納期は求めてないから、そういうのを引き取って「そのうちできます」と。それで月収2、3万は稼げる。

山中:今は何人ぐらい所属しているんですか?

若新:合計で160人ぐらいいます。社員にすると給料を払う義務が生まれて維持することが大変になるんで、全員経営者である取締役にしています。でもそれは障害者の就職支援の文脈にも、重要な本質が繋がってると思うんです。障害者の月収がみんな2、3万でもいいじゃんって言うわけじゃないんです。ただ、一般的な基準に到達してないままの働き方も1つのモデルとして認めていかないと、そこに行けない人は永遠に「救うべき人」ゾーンに滞留するわけじゃないですか。

週5勤務して月給18万以上まで行けると、「障害者も健常者と同じように働けましたね」と。別に障害者を無理やり健常者と同じって言う必要はないんじゃないかと。本当のダイバーシティは違いが共存することなので。

でも今の日本では障害者だって健常者と同じなんだみたいな流れがありませんか。当事者の人たちって、みんな本当に、健常者と一緒にされたいって思ってるのかな、と。障害があることを触れないようにするのは、違いがないことにしようとする社会の風潮で、それでは本当のインクルージョンは起きないですよね。

都市と地方における働き方の差は?

山中:都市部と地方では、働き方の選択肢の多さに差がありますか?

岡崎:都市のほうが働く場所は多いですし、多様な働き方はしやすいと思います。地方に関しては大きな問題があり、4月に障害者の「就労移行支援」に関して一事業者あたりの就職させる人数が全国統一で決められました。

若新:障害者雇用2.2%以上を課される会社は障害者を雇わなきゃいけないけど、それはある程度規模がある会社だから、地方は少ないですよね。

岡崎:あとは障害者を戦力として見てないからで、それは都市部も地方も一緒だと思います。大手は法定雇用率を満たすために雇っているという感覚がまだある。

山中:逆にダイバーシティパラダイスみたいな地方が1カ所どこかで生まれたら、すごい多様なタレントを惹きつけることができるような気がしますけどね。

若新:障害者が就職するときに、標準ぐらいの月収を求めているの?

岡崎:いや、求めてないです。

若新:そこに、支援制度とのズレがあるんですよ。うちのニートに関しても、誰も「成功している」って認めてくれないのは、月収3万で本人たちが喜んでいるからなんです。年金も払ってないし、保険料も払ってないし、貯蓄もできないし、将来生きていけないじゃん、みたいな。本人の納得感が強ければいいと思うんですけど、今の支援所の仕組みだと支援が成功したってことにならないんですよ。

会社からすると、「月3万でいい」「週5日は無理なんで週2日がいい」っていう人を無数に採っていけば、社会保険を負担しなくていいし、本音ではありですよね。でも世の中が、「経済的に自立させてない」「非正規で使いまわしている」とか言うわけですよ。別に非正規でいい人もいるじゃないですか。

山中:個人個人の希望を本当に生かしたワークシェアリングを、社会全体でやっていくことがいいことですね。

若新:基準に達さないとゴールではないというふうに世の中がし過ぎていて。でも月5万でもいいっていう人がいたら、社会的には支援成功じゃなくても、働き始めたほうがよくないですか。

山中:若新さんは都市の仕事も地方行政の仕事も受けています。都市と地方、両者の多様性に対する許容度はどうなっていますか?

若新:東京で働くには、すごく貪欲でなければいけないと思っています。まず、生活にかかる費用が高い。家賃とかにしたってなんにしたって。だけど、それ以上に仕事が大好きな人にとってみれば、より高い収入を得られる場所だから選ぶ意味があると思うんですね。人間としての野心を満たすのには向いてると思う。

山中:固定費が高いからガツガツ売上をあげるような存在じゃないと。

若新:あとは障害者に限らず、みんな果たして野心的に働くことをそこまで追求できるかっていうことだと思うんですよ。野心を趣味に燃やしてもいいし、家族に燃やしてもいいし。仕事にそこまで野心を向けられなかったら、都会は向いてないと思いますね。

山中:逆に地方のほうがアドバンテージがあるというか。

若新:競争に追われなくてもいいですよね。それだけみんな野心的じゃないから、良くも悪くも「席」の移動があまりない。1度この分野ってあの人強いよねって席を獲得した人は、追い抜かれにくい。◯◯会議所とかなんとか協会って田舎のほうが盛んじゃないですか。それは既得権コミュニティなんで。それは悪いことばかりじゃなくて、余裕を持てるってことでもある。逆に東京では、新しい人が参入して競争で負けたら早いスピードで席が変わっていく。

経営者に求められるものは?

山中:経営者としては、利益を出すためにKPIやKGIを追いかけなきゃいけない。でもインクルーシブな組織をつくった方が社会のためにいい。そのジレンマの中でどういう組織をつくっていけばよいでしょうか。

岡﨑:組織のあり方としては、なるべくみんなが同じほうを向くほうがいいとは思います。僕らは自分らしく働ける社会をつくることをゴールにしています。そのために3つバリューがあって、それを基準にしながらみんながやってくほど能力が上がって、能力上がると多分報酬も上がって、報酬が上がると求める再教育のレベルも上がる…。それを会社として提供しないといけないと思っています。

個人的には社員の7割以上は新卒から入ってきた人たちで固めたいなと考えています。新卒で最初からこの考えに共感してくれてる人たちに対して、ちゃんと手厚い教育をしていく文化になるといいなと。新卒の教育と採用というのはほとんど投資なので、それができるだけの利益を出せたらと思います。

山中:企業が従業員に与える価値を意味する「エンプロイー・バリュー・プロポジション(EVP)」という言葉があります。manabyの場合、利益をどんどん出すことによってEVPをもっと強めていきたいという方向性なんですね。

岡﨑:そうですね。「福祉」と「東北」ってあんまり明るいイメージがない。それをちゃんと言葉だけじゃなく数字としても変えられるようにしていきたいなと。それには、やっぱり優秀な社員が必要です。

山中:若新さんが会社をゼロからつくるとしたら、どういう会社をつくりますか。

若新:僕の仕事はプロジェクトごとにチームを組む業務委託形式がほとんどです。コンサル的に見られることもありますが、実は打ち合わせの資料はお客さんに印刷してもらうし、進捗管理もお客さんにやってもらう。そういうのは苦手だから受けないようにしたんです。チームつくるときに苦手を明確にして役割分担することってすごくいいと思っていて、そうなると組織をあまりでかくする意味がない。

会社を大きくするのは全部を自社でやれるから。その代わり、全方位的にできる組織をつくらないといけない。上場に求められる基準がそこですから。例えば、技術系ベンチャー企業が監査法人からコーポレート部門を強くしろと言われて文化の違う外部の人を採ると、そこからおかしくなる。本当は丁寧に自分たちなりのやり方で積み上げていかないといけなくて、バランスよく人を配置すれば組織がよくなるわけではないと思う。

山中:お話を伺って私は、日本のあらゆる組織のリーダーが果たすべき役割が変わったと感じました。過去にはリーダーの主目的は、業績という結果を出すこと。副次的目的は、組織内部のメンバーのWell-being(厚生)を高めること。この2つでした。しかし様々な組織体が多様な人材を受け入れていかなければ、日本社会は多くのマイノリティにとってますます生きづらい場所になってしまう。地方でも、都市部でも、組織体を率いるリーダーは自組織が社会の中で果たすべき役割に向き合い、自組織なりの「やわらかさ」、つまり多様性許容度を設計する時代が来たと感じました。今日はありがとうございました。

岡﨑 衛

株式会社manaby 代表取締役

1987年宮城県仙台市生まれ。2006年宮城大学在籍中に起業し、障害者向けの就労支援事業を複数手がける。2015年には「ダイムラー・日本財団ソーシャルイノベーティブリーダー」で、グランプリを受賞。東北から創り発信するイノベイティブなソーシャル事業家として現在注目を浴びている。東北大学大学院中退。

若新 雄純

株式会社NewYouth 代表取締役、慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 特任准教授

専門はコミュニケーション論。人・組織・社会における創造的な活動を促すコミュニケーションのあり方や可能性について研究。

人材育成・組織開発、就職・キャリア、生涯学習、地域・コミュニティなどの変化や多様化、文化の成長・発展などについて模索し、さまざまな企業・団体・自治体において実験的な政策やプロジェクトを多数企画・実施中。

慶應義塾大学大学院修了、修士(政策・メディア)

山中 礼二

グロービス経営大学院 教員

一橋大学経済学部卒業。ハーバード・ビジネス・スクール修士課程修了(MBA)

キヤノン株式会社、グロービス・キャピタル・パートナーズ、ヘルスケア分野のベンチャー2社を経て、グロービス経営大学院(専任教員)。特に震災後、多くの社会起業家の育成と支援に携わる。