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投稿日:2019年02月05日

投稿日:2019年02月05日

そもそもを考える「Vision Making」をしよう!

長尾 景紀
グロービス経営大学院 教員

「そもそもどんな世界を創りたいですか?」

この問いに答えるのが、前回お伝えした「ビジネスデザイン・ロードマップ」の最初にある「ビジョン」です。ビジョンがないままに戦略を考えても、コンセプトやビジネスモデル、戦略を描く際に壁にぶつかり、結局はビジョンに戻ってきます。ビジネスをデザインしている途中で何か違和感を抱いたら、一旦立ち止まって「そもそも」と問い直してください。

  • そもそもこの業界にとっての課題は何なのか?
  • そもそも我々は顧客の何を解決したかったのか?
  • 結局我々はどんな世界を創りたいのか?

つまり「何(WHAT)をするか?」ではなく「そもそも、それ(WHAT)をなぜ(WHY)解決したいのか?」と問うことからスタートすることが必要なのです。

子供の教育に当てはめても同じことが言えます。GoogleのGlobal Education EvangelistのJaime Casap氏は、子供達に対して「将来どんな職業につきたい?」と問うのではなく「将来どんな社会課題を解決したい?」と問うような教育をしよう、と言っています。つまり、大事なのは、なぜその課題を解決したいのか?(WHY)という想いであって、職業(WHAT)ではないのです。

同様に、そもそも(WHY)の重要性は、『WHYから始めよ!』でSimon Sinekがゴールデンサークル理論として提唱しています。

例えば、新型のクルマを売りたいというシーンでは、通常、

  • 我々は、燃費が良く、馬力もあり、自動ブレーキ標準装備の、多機能なクルマをつくりました(WHAT)
  • グリーン減税でお財布にやさしく、いざというときにあなたの身を守ります(HOW)
  • この車に乗って、家族でキャンプやドライブいかがでしょうか?(WHY)

と考えてしまいがちです。

しかし、本来は、

  • あなたたち家族の物語に、新しい1ページを、このクルマと共に加えませんか?(WHY)
  • 例えばキャンプやドライブに相応しい、広大な荷室やいざというときの安全装備を備えています(HOW)
  • しかも燃費がよく地球にもやさしい、いかがですか?(WHAT)

と、まず人をインスパイア(感激させる/やる気にさせる)するWHY(我々は顧客にどんな価値を提供するのか?)から考え、最終的にWHAT(実装している機能や製品そのもの)を伝える、という捉え方です。顧客は製品を買うのではなく、その企業のWHYを買います。製品とはWHYを具現化したにすぎないのです。

特に昨今のテクノロジー進化は、「新しいテクノロジーそのもの」に焦点を当ててしまいがちです。例えば、「最新のビーコン(センサー)をたくさん撒いてネットワークを構築します」ではなく、「消費者にどんな価値を与えたくてビーコンを撒くのか?」と考えるのです。

戦略の階層を押さえる

「そもそも」から考えることは、クラシカルな戦略論でも言われていることです。戦略にも階層があり、まず理念・ミッションという、そもそも企業が社会に存在する意義があり、その範囲において、将来のあるべき姿(世界観)としてビジョンが掲げられます。戦略とは、ビジョンを達成するための手段ということになります。

スタートアップの場合は、創りたい世界観や解決された世界を描き、その衝動に駆られてゼロからビジネスを立ち上げます。分析からビジョンを確認するよりも、創りたい世界のイメージが先行し強いビジョンを持っていることが特徴です。

一方、既存事業のある大企業の場合は、「そもそもなんて考えるよりも、経営陣からWHATが降りてきてしまうんです」という方もいるでしょう。そのような場合は、WHATをじっくり眺めた上で、後付けでもいいので、なぜそれをやるべきなのかを考えてください。

例えば、「今後の環境の中で自社はどのような姿になっているべきか?」「その実現のためには現状とどのような差分があるのか?」。経営環境を分析しながら、これらの問いをクリアにすることで、目指すべき方向性(ビジョン)が見え、やるべきことが明確になります。

皆さんの提案を聞く経営陣は、意思決定をするために、頭の中に「WHY?(なぜそれをやる必要があるのか)」という疑問を持っています。WHYに応え、提案の納得度を上げるためには徹底的な分析によるファクト収集と、それらを論理的に収束させることが必要です。提案者自身が確固たる「やるべき理由」を持ち、分析によって得られたファクトを元に論理的に語れたら、説得力が増すに決まっています。

分析の際に利用するのが各種の分析フレームです。マクロ環境を分析するためのSTEEPや、業界環境を俯瞰するための5Forces、市場や競合の状況を分析する3C、 顧客のニーズや決め手となるKBF、 要はこの業界で勝つため(あるいは生き残るため)には何がキモなのかというKSFの導出、など既に存在するフレームを効果的に使いながら理論武装していくことが必要です。ちなみに、皆さんが分析を行った上で、万が一経営陣から降りてきた「WHAT」が誤っていた場合はしっかりと理由を伝え、修正を促していくことも必要です。

このようにビジネスデザインは、ビジョンをデザインすることからスタートします。スタート地点でのビジョンのアリ/ナシによって2つの思考パターンに分かれるでしょう。

【A:ビジョン先行・環境分析確認パターン】

そのビジョンの「確からしさ」を立証しましょう。未来のマクロ・業界環境の予測・分析し、現在の環境と比較した上で、我々のビジョンとしていることが現状では満たされていないことを確認してください。そうすることで、「社会をどうしたいのか?」という大義が持て、我々はどうあるべきか(=ビジョン)という、もともと思い描いていたビジョンへの自信を確固たるものにしていきます。

【B:環境分析からビジョンを描くパターン】

未来のマクロ・業界環境の予測・分析を行い、自分達の居場所(未来の理想像)を見つけてください。その上で、現在の環境・自社の現状との差分を埋めるために、我々はどうあるべきか(=ビジョン)を描いてください。

ビジネスとデザインの共通する本質は、両方とも「Simple is Best」ということです。環境の予測・分析を行う際には、前回「ビジネスデザイン・ロードマップで新たな事業を創造する」でも述べたとおり、できるだけ情報量を増やすことが必要です。その上で、「余分なことを切り捨てられるか?」が大事です。そのシンプルさを経営の文脈で表現するとビジョンや戦略となり、製品デザインだとシンプルなdesign(機能と装飾のバランスが取れたデザイン)となり、プロモーションにおいてはキャッチコピーとなります。

さあ、創りたい世界が描けたら、次はどんな風にやるか、アイデアを広げにいきましょう。

長尾 景紀

グロービス経営大学院 教員

早稲田大学大学院商学研究科修了(Technology Management)

大手広告会社にて、流通・食品業界のマーケティングを経験後、新規事業のビジネスモデル構築を行う。その後、研究開発型ベンチャーに参画(COO)し、食品保存技術の研究開発、特許戦略、チャネル構築、資本政策、など企業経営に携わる。同時にグループ企業において飲食店、ワインスクールの経営も行う。その後はグロービスに参画し、企業の人材育成支援、大学院の教材開発、講師の育成に従事し、経営大学院においては、経営戦略・マーケティング・デザインシンキング・ベンチャー戦略領域の講座を担当。

現在は、株式会社Naked Bulbの代表取締役として、新規事業・スタートアップのコンサルティング、エンジェル投資家としてスタートアップのインキュベーション事業を展開する。