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投稿日:2019年01月23日
投稿日:2019年01月23日
堀義人のダボス会議2019速報(2)「イノベーションへの恐れ」を克服する社会システムとは
- 堀 義人
- グロービス経営大学院 学長 グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
リチャード・エデルマン氏の基調講演が始まった。いつも示唆に富み、面白い。
「トラスト(信頼度)は、垂直、水平からLocalへ。以前は政府、大企業CEO、NGOが垂直的に信頼されていたが、周りの同類の人(P2P)と水平に移った。今年は、さらにローカル(近くのコミュニティ)へと移った」
「グーグルの2万人の従業員が立ち上がって中国政府との協力を拒否した。フェイスブックの従業員も兵器の開発を拒絶した。従業員が企業、そして社会を変えられると感じ始めている。CEOよりも従業員の方が信頼されている。従業員が満足すると、ロイヤリティが上がり、会社の良いことを社会に発言するようになる」
「企業がやるべきことは、ローカル(社員や地域コミュニティ)に強く働きかけることだ。そのためには、次に掲げる4原則が必要だ」
「1)大きなアイディア・ミッションを掲げる
ビジョンやミッションに共鳴して、社員が集う。明確な目的意識を持つことが重要である
2)社員に最初に情報を伝える
社員が社会的に信頼されているので、彼らが発信をすることによって、良いインパクトを社会に与えられる
3)企業は、身近な地域コミュニティに還元すべきだ、例えば教育・住宅など
マイクロソフトは500億円超も投資をしてシアトルに住宅を建てている
4)CEOは、もっと政治的に関与し、社会問題を解決するために発言すべきだ
CEOは社外からよりも社内からの方が信頼されている場合が多い。そのCEOが社会問題に関与して解決する方向に動くことは、社員の満足度を高め、結果的に企業の社会的信頼度が上がる」
海洋環境のセッションの2人目のスピーカーは、不法漁業問題を説明している。この図は、グーグルが衛星写真のデータを使って開発した漁船の操業地域だ。このデータをAIで解析をすると誰がどこでどの魚を取っているかがわかり、不法漁獲問題を解決できるという。テクノロジーが解決できる問題も多い。
G1では、プラごみの問題と不法漁業の問題に関してとても重要視している。シンクタンクを立ち上げ、昨年11月にG1海洋環境・水産フォーラムを開催したほどだ。70年ぶりに漁業法が改正され、社会的意識も高まった。不法漁業問題の解決方法は、1)捕まえ多額のペナルティをかけて、2)流通経路から締め出すことだ。ダボス会議でも大々的に取り上げてくれて嬉しい気持ちとなった。
僕は、ダボス会議では可能な限りフロアから発言することにしている。今日は、3回発言できた。G1でモデレータをやる機会が多いからか、議論されていないポイントがあると、どうしても聞きたくなってしまう。疑問が湧き上がるともう止められない。質問を簡潔に頭の中でまとめて、手を挙げて堂々と発言することにしている。トラストのセッションでは「解決策は?」。セーフティネットのセッションでは「ベーシックインカムは?」、CEOのセッションでは「脅威と戦略は?」である。
本日一番疑問に思った点は、リチャード・エデルマン氏の以下の発言に対する解決策だ。「人々の恐れは、以前は国際化(移民)だったが、今は自動化(ロボット)に向かっている。20%のみがシステムがうまくいっていると考え、33%のみが5年後の年収が今より良いと信じている。将来自らの職をAIやロボットに奪われていくことが一番の恐れとして認識しているようだ」。
この問題に対して解決策を聞いてみた。「この恐れの源泉となっているイノベーションをどうすべきなのか。どういう社会システムが妥当なのか?」と。ユヴァル・ノア・ハラリ氏が、著書『ホモ・デウス』で「AI・ロボットによって無用階級が生まれる」と言っていたので、今後の社会システムのあり方を理解したいと考えていたからだ。
僕なりにわかったことは、イノベーションは止めるべきではない。しかしながら、人類共通の倫理観やルールを設けてイノベーションを促進する必要がある(原爆への規制と同じ原理だ)。そして、社会全体にセーフティネットを張り、インクルーシブにする必要性がある。社会から誰も疎外されない(疎外感を持たない)ようにしなければならないのだ。
特に興味深かったのは、僕が質問をしたベーシックインカムに関する議論だ。「誰がそのコストを払うのか?」という質問に対しては、「ロボットに税金をかけるべきだ」と「富裕層にかけるべきだ」という議論に分かれた。「フランスは富裕層に税金をかけた結果、隣国のスイスや英国に多くが逃避して、社会や経済の活力が奪われ失敗した」と言う反論には説得力があった。だが、そういう社会主義的な意見も根強くあることに多少びっくりした。
いずれにせよ、この「イノベーションへの恐れ」は社会全体が考えるべき大きな問題となっていくであろう。企業は、イノベーションによって職を失った社員を再教育して、配置転換をする。政府や地方行政は、それらの人々へのセーフティネットを二重にも三重にも手厚くする。社会全体が、NPO等を通して自らの問題として考え、接し、解決に向かう必要があろう。
つまり、行政の制度面でも、ビジネスやNPOのシステムの上でも、また気持ちの上でも徹底的にインクルーシブにしていく必要があるのである。
さて、先ほど安倍総理、世耕経産大臣、河野外務大臣のご一行もチューリッヒ空港に着いたようだ。明日は、ダボス会議で日本が中心となる1日となろう。僕なりにも民間の立場で精いっぱい支えていきたい。
2019年1月22日
ダボスにて
堀義人
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堀 義人
グロービス経営大学院 学長 グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。