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投稿日:2018年11月07日

投稿日:2018年11月07日

GEが異例のCEO交代、生え抜きトップは時代遅れか?

竹内 秀太郎
グロービス経営大学院ファカルティ本部主席研究員

10月1日、米ゼネラル・エレクトリック(GE)は最高経営責任者(CEO)の交代を発表した。2017年8月からCEOの任にあったジョン・フラナリー氏は、わずか1年で解任されることになった。ジャック・ウェルチ氏が20年、ジェフ・イメルト氏が16年と10年以上長期続投するトップが続いていたGEにおいては異例の短さである。

GEはサクセッションプラン(後継者育成計画)を入念に検討する企業として知られており、イメルト氏の後任としてフラナリー氏がCEOに選出されるまでに6年以上を費やしたという。それだけ慎重な検討プロセスを経て就任したトップを更迭せざるを得ないほど同社が危機的な状況にあることを今回の人事は物語っている。祖業の電気照明事業からの撤退やヘルスケア事業の分離など経営のスリム化を図ったが、主力の電力事業の不振が続き、金融事業でも巨額の評価損が発生、フラナリー氏のCEO在任期間にGEの株価は半分以下に下落した。

後任のCEOに指名されたローレンス・カルプ氏は、米医療機器大手ダナハーのトップとして同社の時価総額を5倍にした実績を持つ経営再建のエキスパートだ。GEのCEOに外部人材が登用されるのは、140年の歴史上初めてのこととして注目を集めている。想定外が常態化し先が読めない環境下では、生え抜きトップによる長期政権はもはや望むべくもないのだろうか。

外様トップに期待されることは?

生え抜きには難しい大胆な変革を期待し、社外からトップを招聘することは珍しいことではない。たとえば1993年にナビスコ出身のルイス・ガースナー氏がIBMのCEOに就いた時も、同社の歴史上初の外様トップだった。最初の経営会議に臨んだ時、ガースナー氏だけがブルーシャツで他の経営メンバーは全員白シャツだったという話は、社内の常識に染まっていない外様だからこその新鮮な視点があることを物語る有名なエピソードだ。

今でこそすっかり日産の顔となっているカルロス・ゴーン氏も1999年、当時倒産の危機に直面していた日産に資本参加したルノーから送り込まれてきた人物だ。しがらみのない外様だったからこそ、調達先の協力会社との関係など歴代社長が手をつけられなかった聖域にメスを入れ、大幅なコスト削減を実現できたといわれている。

老舗日本企業のトップに外部人材が就く例も増えている。資生堂の魚谷雅彦社長も2014年に同社140年の歴史で初めて社外からトップに登用された。ローソン出身の新浪剛史氏も、同じ年に初の非創業家のトップとしてサントリーに迎えられた。共に国内市場が成熟する中、グローバル企業への脱皮を目指した改革を期待されての登用と見られている。今年6月にRIZAPグループのCOOに就任し話題となった松本晃氏も外様として企業再建に手腕を発揮してきたプロ経営者だ。ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人トップから老舗菓子メーカーのカルビーのCEOに就任したのが2009年。同族経営の色彩が残っていた同社を東証一部上場の会社に改革し、在任期間に売上高を1.8倍に営業利益率を1.5%から11.4%に改善した。

もちろん外様であれば改革の成功が約束されるわけではない。むしろドラスティックな変革には弊害もあるだけに、望ましい成果をもたらすとは限らない。2005-08年に米スターバックスのCEOを務めたジム・ドナルド氏の例も外様トップの難しさを物語る。ウォルマートなど小売業界で要職を歴任したドナルド氏は、前任CEOの後継者含みで2002年からスターバックスの北米部門の統括者に登用された。当時理想的なサクセッションプランと評価されたドナルド氏はCEO就任後、積極的な店舗展開を進め、ある時期まで業績を伸ばすことに成功した。しかし急速な拡大路線が仇となり、既存店の収益低下と財務体質の悪化を招き株価は低迷、2008年にCEOを解任された。後任CEOには同社の中興の祖であるハワード・シュルツ氏が復帰した。

筆者は以前、ある経営者がこんな言い方をしているのを聞いたことがある。

「所詮、外様はワンポイントリリーフなんですよ」

その方は、外部から招聘されてトップとして変革の大鉈を振るった後、2年でその座を生え抜きの後継者に譲った経験の持ち主だ。自社や業界の既成概念に囚われない大胆な変革は、1つ間違えば大きな副作用を伴う劇薬でもある。それでも、それを断行することが外様トップへの期待でもある。

10月30日、GEは第3四半期の最終損益が228億ドルの赤字だったと発表した。株価は大きく下落し2009年4月以来の安値となった。就任後初の決算発表となったカルプ新CEOはタービン・サービス事業を電力事業から分離することを明らかにし「私の就任後100日の優先課題は電力部門と財務の改善だ」とコメントした。生え抜きトップの長期政権の下、比較的成熟した産業分野で勝てる事業を選び成長してきたGEモデルが通用しなくなる中、自分に何が期待されているのかは、外様のトップ自身が一番よくわかっているのかもしれない。

竹内 秀太郎

グロービス経営大学院ファカルティ本部主席研究員

一橋大学社会学部卒業。London Business School ADP修了。外資系石油会社にて、人事部、財務部、経営企画部等で、経営管理業務を幅広く経験。社団法人日本経済研究センターにて、アジアの成長展望にフォーカスした世界経済長期予測プロジェクトに参画。グロービスでは、法人向け人材開発・組織変革プログラムの企画、コーディネーション、部門経営管理全般および対外発信業務に従事した後、現在グロービス経営大学院ファカルティ本部主席研究員。リーダーシップ領域の講師として、Globis Executive Schoolおよび企業研修を中心に年間約1,000名のビジネスリーダーとのセッションに関与している。Center for Creative Leadership認定360 Feedback Facilitator。共著書に『MBA人材マネジメント』(ダイヤモンド社)がある。