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投稿日:2018年10月18日
投稿日:2018年10月18日
環境変化の激しい時代に求められる理念経営とは?
- 芹沢 宗一郎
- グロービス経営大学院 教員
VUCA時代においても、未だに大企業のミドル層によく見られる「理念経営の常識の呪縛」として、以下の3つについてこれまで論じてきた。
- 「理念は“浸透”させなければならない」という理念経営の主体に関する幻想
- 「理念は守るべきもので変えてはいけない」という思考停止状態
- 「理念で飯が食えるのか?」という働くエネルギーになるはずの理念への無理解
本シリーズの最終回は、今の時代の潮流を踏まえての日本企業の理念経営の方向性の仮説を考えてみたい。
会社のWhy?やWhat?を考える場にもっと若い人たちを
VUCAで先が予想できないからこそ、自らの意志が大切になる時代。自らの意志を持てば行動も主体的になるし、他責意識や不満も減り、変化への対応力とともに組織のパワーが増大する。そのためには、自社の理念そのものを考えるプロセスに多くの人々を巻き込み、一人ひとりの意志に昇華させることが従来以上に求められる。
昨年、某大手金融機関ではなんと全社員を巻き込み、1年をかけてミッション、ビジョン、価値観(シェアドバリュー)、行動規範の新理念体系を策定した。たいへん時間のかかる作業ではあったが、この大規模な策定活動自体がすでに共有活動をも代替する意味を持ち、結果的に社員の納得感は非常に高いものとなった。トップダウンによってやらされ感を感じないよう慎重にプロセス設計しながら、今のミドルクラスから役員層が輩出される頃までに自立的な組織文化を醸成しようという長期視野でこの活動に取り組んでいる。
21世紀に入って流行ったいわゆるウェイマネジメントは、価値観(シェアドバリュー)や行動規範について組織の多くのメンバーを巻き込みながら策定、共有していく取り組みが多かった。これはどちらかというとHowにフォーカスする取り組みであったが、最後は行動に落とし込まなければ理念経営を実現できないという観点からは理にかなってはいる。
しかし、企業の社会的価値に関心をもつ若者が増えている時代、かつ会社の存在意義を根底からかえるような今のテクノロジーの進化をより理解しているのは若い世代であるという時代変化を踏まえると、Howだけではなく、WhyやWhatにあたるミッション、ビジョン自体も若い人に参画してもらって議論していくことがより必要になっているように思う。
これまでも若手にビジョンを考えさせる取り組みを行う企業もあったが、それは若手の教育的意味合いが強く、せっかくこれからの理想郷を提案させても、経営はよりリアリティを求めるがためにネガティブなフィードバックをして終わってしまうことが多かった。これからは経営が本気で若手から学ぶという姿勢が求められてくる。歳を重ねた人間よりは若手のほうが、わからない未来を脅威よりもチャンスととらえ、発想やアイデアを広げて考える柔軟性を持っている。
社外のステークホルダーが共感できる理念発信を
理念は会社のフェアウェイのなかで社員にフルスィングさせるためのものだけではない(いわゆるインナーブランディング)。企業のプラットフォームに集まる顧客が、その体験を通じて会社のブランド価値を発信したり、自社だけではできないことを他のパートナー企業とオープンイノベーションで実現していく時代。こうしたテクノロジーの進化により経営のパラダイムがかわってきている中で、理念は外部の多くのステークホルダーをも巻き込む源になるものでなければならなくなっている。
ヤフーのCSOの安宅氏はサイエンスアゴラのトークセッションで「『未来を変えている感じ』がしないと大きな富にはつながらない。妄想してカタチにする力が重要」と述べているが、今は、ワクワクする未来を妄想できるような理念やビジョンを発信できる経営者や企業の周りに顧客も協業パートナーも集まってくる時代だ。
2015年の「TOYOTA investors Meeting」で多くの共感者を得た豊田章男社長の「みなさん、一緒にやりましょうよ!」という言霊スピーチのように、今こそ社会が共感できる理念を経営者は発信できるか、その発信力もより強く求められている。
芹沢 宗一郎
グロービス経営大学院 教員
一橋大学商学部経営学科卒。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修士課程終了(MBA)。外資系石油会社勤務後、グロービスでは、企業の経営者育成を手がけるコーポレート・エデュケーション部門代表などを歴任。現在は、エグゼクティブ教育や企業の理念策定/浸透などのプロセスコンサルティングに従事。共著・訳書に「変革人事入門」(労務行政)、『個を活かす企業』(ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール戦略論』(東洋経済新報社)など。 『[新版]グロービスMBAリーダーシップ』では、第II部実践編などを担当。