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投稿日:2018年10月11日
投稿日:2018年10月11日
のれん償却のメリットとデメリット
- 溝口 聖規
- グロービス経営大学院 教員
日本の会計ルールでは、企業買収(M&A)の際に発生するのれんは20年以内の一定期間で償却します(※)。一方、米国会計基準、国際財務報告基準(IFRS)では、のれんは毎期償却するのではなく、のれんの価値が毀損した場合のみ減損処理が求められます。最近では、日本企業の大型M&Aも増え、会計ルールを日本基準からIFRSへ移行する会社も増えています。現在、IFRSでものれんの償却の検討が進められているなど、のれんの会計処理を巡っては今後も変化がありそうです。
今回は一般に指摘されるのれんの償却のメリットとデメリットについて説明します。
のれん償却のデメリット
のれん償却のデメリットは何といっても、毎期に発生する償却費負担でしょう。例えば、B/Sの純資産100の会社を200で買収するとします。単純化のために発生するのれんを100(=200-100)とし、これを20年間で定額償却すると、向こう20年間は毎年5(=100/20年)の償却費が発生することになります。のれんの償却費は「販売費及び一般管理費」に計上されます。つまり、買収した会社の営業利益が5を下回る場合、M&Aにより売上高は増加しますが、営業利益はかえって減少し利益率も悪化することになります。
大型M&Aを進める日本企業がIFRSへ移行する要因の1つに、この点が挙げられます。これは、のれんの償却と言うよりは、買収金額が相対的に高すぎる、あるいは買収時に計画したシナジー効果が計画通りに発揮できない等が原因と考えられるのですが、のれんの償却によって決算数値の面からもその事実が明らかになります。
のれん償却のメリット
のれんを償却しない場合、買収時に発生したのれんがそのままの金額でB/Sに維持されることになります。のれんを償却しないIFRS等では定期的(少なくとも1回/年)にのれんの価値が毀損していないかの減損テストを実施します(日本の会計ルールにものれんの減損テストは含まれます)。
のれんの価値が毀損しているかどうかは、単純に言えば買収した会社の経営が計画通りに順調に推移しているかどうかによります。経営が悪化しのれんの価値が毀損していると判断されると、のれんの減損処理が必要になります。先ほどの例を使うと、100ののれんの価値が0と判定されると、一時に100の減損損失が計上されます。この場合、予定外の損失の発生によりその期の損益が予算から大きく乖離することになります。
経営管理の点からは、のれんの償却を考慮して予算を策定することで、サプライズのない経営に役立ちます。一方、投資家としては、減損の判断には経営者の恣意性が介入して予算外の損失は先送りされるおそれがあり、「決算数値の妥当性に影響がある」と指摘する場合もあります。
また、事務処理コストの点ではのれんの償却の方が減損テストよりも手間がかかりません。なお、現在の日本の会計ルールではのれんの減損は特別損失で処理されますが、今後のルール改正によりIFRSと同様に営業費用にて処理することになれば、営業利益に影響が出ることになります。
目先のP/L数値を重視すればのれんは非償却、将来の突然の巨額損失の回避の点からはのれんは償却したほうが良いとも言えます。
筆者としては、のれんの償却/非償却はM&Aの考え方の相違によるものであり、決算数値への影響についてはメリット・デメリットの両面があると考えます。会計処理以前に適正な価格で買収して、事業計画通りに事業を進捗させるマネジメントが肝要と言えます。
※負ののれんは発生した期に特別利益に計上します
溝口 聖規
グロービス経営大学院 教員
京都大学経済学部経済学科卒業後、公認会計士試験2次試験に合格し、青山監査法人(当時)入所。主として監査部門において公開企業の法定監査をはじめ、株式公開(IPO)支援業務、業務基幹システム導入コンサルティング業務、内部統制構築支援業務(国内/外)等のコンサルティング業務に従事。みすず監査法人(中央青山監査法人(当時))、有限責任監査法人トーマツを経て、溝口公認会計士事務所を開設。現在は、管理会計(月次決算体制、原価計算制度等)、株式公開、内部統制、企業評価等に関するコンサルティング業務を中心に活動している。
(資格)
公認会計士(CPA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、公認内部監査人(CIA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA)