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投稿日:2018年10月06日

投稿日:2018年10月06日

自社のデジタルマスター度を検討せよ

嶋田 毅
グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長

今年9月発売の『一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略』から「デジタルマスターに至る4つのレベル」を紹介します。

デジタルマスターは、「デジタル」と「リーダーシップ」に長けた企業ですが、当然その数は少なく、両方とも具備していない企業、あるいは片方しか満たしていない企業が多数です。もったいないのは片方のみを満たす「先端派」と「保守派」です。「先端派」はデジタル面では先を行きますが、社内を動かすリーダーシップに欠けます。逆に、「保守派」はリーダーシップに優れていながら、事業のデジタル化には慎重です。理由は規制の問題などさまざまで、自助努力のみで解決するのが容易ではない場合もあります。しかし、それでも創意工夫してこの2つの要件を満たし、デジタルマスターを目指さない限り、これからの時代に勝っていくのは難しいのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

デジタルマスターに至る4つのレベル

ナイキやアジアンペインツのようなデジタルマスターが、デジタルとリーダーシップの2つの軸で優れているとするならば、他の企業はどうだろうか。2つの軸はまったく別のもので、それぞれの重要性の理由も異なっている。したがって、2つの軸を組み合わせることで、デジタルの熟達度合いを4つのレベルで見ることができる。デジタルマスターは両方の軸で優れているが、大半の企業はそうではない。デジタル能力は強いがリーダーシップ能力は弱い企業がある一方で、その逆の企業もある。もちろん、両方の軸ともに弱い企業もある。まだデジタルマスターへの道のりを歩み始めていない企業だ。

4つのレベルの中で、デジタルマスターへの道の出発点にいるのが初心者だ。このレベルの企業の大半は傍観する戦略をとっており、行動を起こす前に確信を得たいと思っている。なかには、デジタル化は他業界の話であり、自分たちの業界には関係ないと考えている企業もある。また、行動を起こすためのリーダーシップが欠けている企業もある。その結果、「初心者」の企業には基本的なデジタル能力しかない。そして、業績に関するいくつもの指標で、競合他社に後れを取っている。

多くの「初心者」は、規制やプライバシーを言い訳にして行動を起こさない。一方で、競合他社はすでに行動を始めている。例えば、保険会社はソーシャルメディアをなかなか採用しない。代理店にブログやソーシャルメディアの使用を認めることが、規制の関係で難しいからだ。しかし、ノースウェスタン・ミューチュアルは、代理店にリンクトインを使わせる安全な方法を見つけ、ファイナンシャルアドバイザーが顧客との関係構築や維持に使えるようにした。同様に、多くの医療系や製薬系の企業が、ソーシャルメディアの使用における規制とプライバシーの問題に慎重な態度をとっている。しかし、ある医療機器メーカーでは、画期的な新しい機器について医療関係者に案内する際にソーシャルメディアを使った結果、従来型のメディアよりも案内ははるかに速くなった。

これに対して、まず行動するのが「先端派」だ。「先端派」は目新しいデジタルツールを見ると購入する。技術的に先端を行っていること見せびらかすが、それは表面だけで中身は何も変わっていない。「先端派」にはデジタル化に向けた強力なリーダーシップとガバナンスが欠けているため、費やしたものの多くを無駄にする。あるいは、これまでのやり方を完全に変えて、デジタル能力を統合し拡張できるようにする必要があることに気づく。私たちが調査したある企業は、さまざまな(互換性のない)テクノロジーを使って、事業のさまざまな部分に社員が協業するプラットフォームを構築した。社員は縦割り組織の中では協力しあえたが、企業全体で知識を共有することはできなかった。別の企業は、3つのモバイル・マーケティング施策を社内の異なる部門で行っていたが、対象とする市場には重複があった。使っていたソリューションは、業者も技術も異なっていたため、互換性を持たせることができなかった。

最良の解決策を見つけるために実験を行うことは、決して間違ったことではない。しかし、いずれの「先端派」も、活動を調整したり、投資全体に相乗効果をもたらしたりする仕組みを持っていなかった。さまざまなプロセスやシステムを互換性なく構築することは、進歩のように見えるかもしれない。しかし、それによって大きな機会は制限されてしまう。互換性がないと、顧客との関係性深化や、統一されたオペレーションへの取り組みを妨げるのだ。

「保守派」の能力は「先端派」とは反対だ。「保守派」はデジタル化の推進に必要なリーダーシップ能力を持っているが、慎重すぎるため、強いデジタル能力を構築することができない。技術的な流行には関心がなく、それぞれのテクノロジー投資を慎重に検討し、しっかりと調整することに重点を置いている。

「保守派」企業のリーダーは、その希少な時間や労力、資金を無駄にするようなミスを犯したくないと考える。特にヘルスケアや金融サービスなどの規制が厳しい業界では、この慎重さは有用だ。しかし、それは進歩よりもコントロールやルールを重視する「ガバナンスの罠」を作り出すことにもなる。コントロールや確実性を重視すると、デジタル変革がもたらす大きな恩恵を手にするために、経営陣や社員を動かすのが難しいことに気づくのである。失敗を防ごうとするあまり、「保守派」はほとんど進歩できないのだ。

(本項担当翻訳者:御代貴子 グロービス・デジタル・プラットフォーム プロジェクトリーダー)

嶋田 毅

グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。