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投稿日:2018年09月08日
投稿日:2018年09月08日
組織の成長に必要なのはリーダーが部下の変化を促すこと
- 嶋田 毅
- グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長
『自問力のリーダーシップ』から「現状打破・組織の飛躍」を紹介します。
リーダーの大きな役割の1つに、部下やフォロワーの変化を促すということがあります。自分自身が変わる=成長するだけでは不十分であり、周りの人々をも良き方向に変えるよう導く必要があるということです。そのための方法論にはいろいろなものがありますが、やはり直接のコミュニケーションにより働きかけるのが正攻法と言えるでしょう。さまざまな質問を投げかけ考えさせる、相手の自尊心をくすぐる、危機感をあおるなどです。相手の成熟度合いや置かれた立場、価値観なども正しく認識したうえで、複数のものをうまく織り交ぜアプローチすると効果的です。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
現状打破・組織の飛躍
変化の速い現代の経営環境において、現状を維持し続けることは、組織の成長につながるどころか衰退を招きかねません。現状を打破し、新しい飛躍、ブレークスルーをもたらすことが必要です。
そのためには先述したように、安易なトレードオフに逃げることを戒め、二兎を追うことを奨励するなどのリーダーからの働きかけが必要となります。私が実践している取り組みを、いくつかご紹介しましょう。
●前提をずらし思考を揺さぶる質問をする
たとえば、「もし納期をいまの2カ月から1週間に短縮しなければならないとしたら、どうする?」「コストを80%下げなくてはならないとしたら、どうする?」といった極端な条件を交えた質問を投げかけます。これによって現在、暗黙に置いている前提を疑い、ブレークスルーの可能性を探るのです。
このとき、たとえば「コストを20%下げなくてはならないとしたら」では意味がありません。このレベルであればブレークスルーがなくとも、改善の積み重ねでできてしまう可能性が高いからです。改善の積み重ねでは無理と思われる条件を与えることで思考にゆさぶりをかけることが重要です(もちろん、絶え間なく改善を図ることも根づかせたい文化であり、そのための問いかけは必要です)。
●新しいことをやることに価値を置く
「何が新しいの?」「去年と何か変わったの?」という質問を日常的に投げかけることも、常に変わらなくてはならないという意識を植えつけるうえで有効です。年頭の部下に対する個人面談では、私は「できるだけ、昨年とは違うことをやれ」と言うようにしています。
3Mは、有名な30%ルール(売上の30%は、最近4年間に発売された製品で上げるようにする)を設けることで、新しい商品開発に積極的に取り組むことを公式に促しています。
それまでとは違う取り組みをしているスタッフや、よい意味での「はみ出しタイプ」のスタッフに注目し、結果が出たらしっかり皆に伝わるようほめてあげることも有効でしょう。
●周囲から期待の眼差しを向けさせる
人間には、周りからの視線や期待によって成長するという側面があります。そこで、飛躍感のあるビジョンやゴール・イメージを他部署(場合によっては顧客や外部の関係者も含む)に伝え、外側からの期待を高めることで、自分の直接の配下のスタッフの成長を促すというやリ方もあります。よい意味でのプレッシャーと期待の眼差しを周囲から向けさせるわけです。
●「変わること」を意識させ、コミットさせる
「あなたは成長したいですか?」と問いかければ、ほとんどの人はイエスと答えるでしょう。では成長するとは結局、何なのでしょう。成長するとは、新しい知識やノウハウを学んで(ラーン)自分の知識体系に付加するだけではありません。成長とは、変わることでもあります。これまでの成功体験を捨て(アンラーン)、新しい時代を切り開き、勝ち抜けるスキルやメンタリティを持てて初めて、成長したと言えるのです。
私は、そうしたことを説明したうえで、こう続けます。「あなたはさっき成長したいと言った。それはつまり、変わりたいと言ったということだ。自分で言った以上、あなたは変わることにコミットするよね」。
なんだか騙しているように感じられた方もいるかもしれませんが、実際、このように伝えることで、多くの人は、変わること、変えることに意識を向けていくのです。
なお、こうした現状打破に向けた挑戦を鼓舞するためには、それに見合った評価の仕組みを準備することも必要です。リスクをとって結果を出した人間を厚く遇することはもちろんのこと、仮に失敗したとしても価値のある失敗であれば人事考課上マイナスにはしない、あるいは敗者復活を許すなど、公正(フェアネス)を担保したうえで、ある程度は安心してリスクに立ち向かえる仕組みを持っておくことが必要と感じます。
(本項担当執筆者:鎌田英治 グロービス経営大学院教員)
嶋田 毅
グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長
東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。