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投稿日:2018年09月06日

投稿日:2018年09月06日

メルカリの「バリュー」を実現するための人事制度とは? 

唐澤 俊輔
株式会社メルカリ 執行役員 VP of People & Culture 兼 社長室長

本記事は、先日行われたセミナー「働き方改革のその先へ!人づくりのための学び方改革を起こす人材育成とは?」の内容を書き起こしたものです。(全3回)

マクドナルドからメルカリへ

簡単に自己紹介を致しますと、私は現在、メルカリで執行役員として「People & Culture(ピープル・アンド・カルチャー)」という組織のヘッドと社長室長を兼務しています。新卒では日本マクドナルド(以下、マクドナルド)に入って12年ほどマーケティング畑にいました。3年ほど前、異物混入の報道等もあり業績を落としていた時期でしたが、1年ほど社長室長もやらせていただきました。

そこで会社の立て直しに取り組み、それが一段落したところで「もう1度、イチからチャレンジしたいな」と。マーケターとしてのキャリアを1回終えてメルカリでイチから修行しようと考え、まったく逆の世界に飛び込みました。外資から日本企業、そして大企業からスタートアップということで、テックの会社に入りました。そうして社長室でいろいろな仕事を手掛けつつ、今年4月からは人事や組織も担当させていただいております。ちなみにグロービス経営大学院を卒業致しました。

さて、我々はメルカリという会社について何か話すとき、いつも「ミッションとバリューが大事なんです」と、必ずミッションの話からさせていただいています。そのミッションとは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」。この思いで創業以来やってきました。マーケットプレイスというのはいわゆる市場ですね。当社のビジネスはC2Cですとかシェアリングエコノミーと言われていますが、ミッションのなかでは「世界的な」という部分が重要です。「グローバルを取ろう」と決めていますので。我々はAirbnbやUberのような世界のプラットフォームになりたいと思っています。

また、「新たな価値を生みだす」という部分はC2Cならではの価値かなと思います。それまで価値がないとされていたものに、新たな価値が生まれる。それがすごく大事だと考えています。まったく着ないままタンスに10年眠っている衣服というのは、その時点では価値がないわけですけれども、我々のサービスを通してそこに価値が生まれます。

たとえばメルカリではトイレットペーパーの芯が取り引きされたりしているんですよ。当初は「なんでこうなるんだろうね」なんて言っていたんですが、子供の夏休みの宿題で使うんですね。トイレットペーパーで工作をするのにたくさん必要ということで、それが取り引きされていたんです。市場がシュリンクしていくなか、そんな風にして価値を再創出していくことは非常に重要だと思っています。

また、私たちはバリューというものも重視していて、日々「バリューが大事」ということを繰り返し言い続けています。具体的には「Go Bold - 大胆にやろう」「All for One - 全ては成功のために」「Be Professional - プロフェッショナルであれ」の3つ。なかでも「Go Bold」が一番大事です。次に「All for One」「Be Professional」の順番で大事という感じですね。それで、日々の会話でも「その意思決定ってGo Boldじゃないよね」なんて言ったりして、常に大胆なほうへ大胆なほうへ振ろうとしています。

それと「All for One」には「一つのミッションに集中しよう」という意味も、「成功のために一つになろう」という意味もあります。逆に言うとチームの力も個々の力も大事だねという、まあ、ダブルミーニングのような感じですね。あとは「Be Professional」。これは、もちろん専門性を持った強い人材になるというのもありますが、それと同時に、オーナーシップを持ち、アウトプットまでしっかり責任を持とうという意図もあります。プロとして、言われたことをやるだけでではなくアウトプットに責任を持ちましょうということを重視しています。

メルカリのビジネスとは?

ビジネスのお話も少しさせてください。メルカリのアプリはダウンロード数が日本で7,000万、アメリカで3,000万という状態ですけれども、まだまだ毎日使っていただくものにはなっていないので、その辺が今後の課題だと思います。今このC2Cマーケットプレイスがメインですが、他にもいろいろなサービスをつくっています。我々としては新規事業で「もう1つユニコーンをつくろうよ」と考えていて、そのための「ソウゾウ」というグループ会社があったり、決済・金融系に事業を広げたいということで「メルペイ」というグループ会社があったりします。

一方、海外のほうはUSとUKに出ています。この点がかなり特徴的なんですが、日本でローンチして1年経たずにUSでローンチしているんですね。日本でのローンチ半年後ぐらいにはもうUSに出て、それで「エンジニアの9割ぐらいUSに振り向けるぞ」と。「日本は1回置いておこう」なんていう状態でした。そこでもやっぱりGo Boldな意思決定が反映されているという話だと思います。

その結果としてメルカリのアプリは現在、全世界でダウンロード数が1億800万超、GMV(Gross Merchandise Value)と言っている流通高は四半期の累計で938億となっています。

また、今後の当社成長戦略における柱は3つ。1つ目はコアのメルカリを引き続き伸ばすこと。2つ目はエコシステムをつくること。ポイントを運用していたりするので、それを活用していくという話ですね。そして3つ目がグローバル化を進めることになります。

ということで、メルカリは今、年間でおよそ3700億の流通総額を実現しています。ただ、眠っている中古品は市場規模にしておよそ7.6兆円に達すると言われているので、まだまだ伸ばせると思います。

また、FacebookやTwitterに比べたらMAU(Monthly Active Users)もまだまだ少ないですから。「SNSと比べてどうするんだ」という疑問はありつつ、「どこまでも上を目指そう」といつも言っているので、大きいところを目指して頑張っています。楽天さんに比べてもまだまだ小さいですし、「もっと大きくなりたいね」と。また、今後に関しては、現在弱いカテゴリを伸ばしていくことで、全体をさらに伸ばしていきたいとも考えています。

メルカリが目指すエコノミクスとは?

エコノミクスのお話もさせてください。先ほどお話しした通り、現在はペイメントの事業もあり、今後は決済や信用取引、あるいは金融のほうにも入っていきたいと思っています。C2Cのメルカリ自体はそうして構築されたエコノミクスのなかの1つでしかなく、実際には各種C2Cサービスがエコノミクスのなかで巡っている状態を目指しています。そこにポイントもあり、ポイントとポイントの交換、モノとモノの交換もある、と。そのようにして価値が交換され続ける状態をつくっていきたいと考えています。

もちろん今はいろいろなところがペイメント事業をやっていて、たとえば楽天さんも「楽天ペイ」をやっていらっしゃいます。ただ、僕らの場合は1万円の物を売ると1万ポイント分の価値に相当するわけですね。ポイントが結構たくさんつく。1万円の物を買って1%の100ポイントがつくよりは大きな流通になるわけで、そういうシステムをつくりたいと思っています。いろいろなサービス利用を通してポイントがついて、それがウォレットに入って、それが再び、たとえば自転車シェアリングの「メルチャリ」に出ていく、といった流れですね。

それとグローバルに関して言うと、当初はUSにも日本のスタッフをどんどん送って日本人メンバーでやっていたんですが、「やはりローカライズしないと強くならないね」と。現地の商習慣もありますし。それでFacebookやGoogleに在籍していたジョン・ラーゲリン、Facebookではマーク・ザッカーバーグ直属で幹部を務めていたような者ですが、彼がメルカリの一員としてUSを引っ張ることになり、強力なリーダーシップを発揮してくれています。

メルカリの人事制度はどうなっている?

さて、ここからは僕が担当させていただいている人事の話をさせてください。組織名は「People & Culture」。組織名をどうするかというところからはじめました。で、僕としてはそこで「HR」というのはどうも…。最近グローバルでは「People」という組織名で呼ばれることも増えてきており、皆さんには釈迦に説法かと思いますが、やはりHuman Resourcesと言ってしまうと「会社に来てリソースとして働く」というような感じになっています。でも、「そのまま『人として』でいいじゃん」と思いまして。会社に来てもそのまま自分らしくあればいいという意思も込めて「People」という組織名にしています。

で、そこに「Culture」を加えたのは、バリューやカルチャーの浸透が極めて重要だと思っているから。そのために、たとえば総務の領域でいろいろなイベントを行ったり、社内コミュニケーションを取ろうとしたりするわけじゃないですか。イベントを開催すること自体が目的ではありません。なんのためかと言えば、カルチャーを浸透させるため。それで「People & Culture」としました。

また、「People & Culture」としてのビジョンとミッションについては資料に書いてある通りですが、「企業において、人やカルチャーが重要だよね」という方向に、世の中がもっと進んで欲しい。それによって、「働きやすい会社」や「働いていて楽しい会社」が増えて欲しいと思っています。僕らはそのために、一人ひとりにエンパワーメントして、モチベートして、権限委譲も行っていく。その結果として、働きやすく、成長し続けることができるような世界的なテックカンパニーになりたいと考えています。

ただ、僕らは現時点でも、毎月多くの人が中途入社している状態なんですね。ですから人事はこれまでほとんど採用ということしかできていなかったんですが、「それだと組織は強くならないよね」と。今後は育成を行って、さらには各部門にパートナーとして寄り添っていきたい、と。また、それらをデータドリブンで進めたい。一人ひとりのニーズは違うので、育成についても同じパッケージで行うのでなく、たとえば360度評価のデータを活用したりして回していきたいと思っています。

あと、バリューやカルチャーを「守りながら進化させよう」ということも言っています。僕らは今グローバルで1000人ほどの規模になりましたが、たとえばスピード感とか、スタートアップならではの良さは残したいと、古いメンバーは皆思っています。当然それは大事です。でも、同時に大きくしなければいけないということもあるので、今はスタートアップの良さを残しながらどう進化していくかということがチャレンジになっていると思います。

組織的に見ると、チームとしては人事のPeopleと総務等のCultureの2つに大きく別れます。採用や組織設計系のPeople Partners、労務や人事制度を企画するPeople Expecience、そしてPeople Growth & Analyticsという、分析したうえで育成等を行うチームもあります。あとはCulture & Communicationsという、バリューの浸透や社内コミュニケーションを図るチームがあるという組織になります。

バリューをどう活かすか

最後に「我々がどのようにバリューを活かしているか」ということを少しご紹介させてください。カルチャーとして、我々は性善説をすごく大事にしています。性善説で組織をつくると、経営陣が決めているんです。人を信じる。「人は本来、良いことをするだろう」と。お客さまのことも必ず信じるようにしています。お客さま同士のトラブル、たとえば「届いたものが破れていた」ということがあったら、現物の確認等しなくても現場の判断で返金しています。これも、とにかく信じるというカルチャーを大事にしているからです。

なぜか。逆に信じるということをしないのなら、ルールをつくることになります。「人は悪いことをするから」ということでルールをつくり、「そのなかで働かせれば安心だね」となる。それは経営陣の安心です。ただ、そうするとどんどん考えない組織になってしまうんですね。ルールがあればあるほどそれに従えばいいということになるので。

マネージャーからするとルールがなければ自分で考えないといけないから大変です。自分で考えて、決めなきゃいけないというしんどさはあります。でも、それも含めて人の育成であり、それが組織を強くすることにもつながるので、ルールは最小限。だから、今は何かのルールをつくると「なんでルールつくるんですか?」なんて、皆が言い出すようになっています。そういう文化が浸透しているんですね。

この性善説に基づき、各自が自分で考えて自分で決めることを可能にするには、情報がオープンであることも必要だと思っています。情報が公平に揃っていないといけない。言葉を選ばずに言えば、マネジメントが情報格差でマネージするようになると、下にいる現場のメンバーからしたら情報が足りないから上の指示を仰ぐしかないといったことになります。「それは絶対に止めよう」ということで、全員が同じ情報に、常にアクセスでき、一人ひとりが最適な判断ができるようにしています。逆に言うと、あらゆる情報を取りに行くことができるので、自分で情報を取りにいくスキルが求められることになります。

では、こうしたことが具体的な人事制度としてはどのように落ちてくるのか。たとえば今年1月には「無制限昇給制度」という仕組みを取り入れました。いくら昇給してもいいというか、前年の年収に関係なく現在の実力でいくらにするかを決める形です。なので、今は年収500万円の人が翌年は800万円になるといったことが当社では全然あるんですよ。その実力があるなら正しく評価しようという制度であり、そこで原資を配分するという発想がありません。

原資を持つとどうなるか。たとえば「今年の昇給は平均3%」と会社が決めたことによって「じゃあうちの部門も3%ですね」となると、「この人を5%にしたいからこの人は1%にしよう」という風に、部内で相対的にやらないといけなくなります。その相対をかけず、一人ひとりを絶対評価する仕組みです。そこで個別に見れば「300万は増え過ぎでは?」といった議論もありますが、最大XX円までとかXX%までといったルールを設けると中途半端になるので、ここもGo Boldに無制限としました。新卒の入社時年収も一括ではなく、今は一人ひとりを見てばらばらに決めています。

このほか、性善説の最たる例として、うちでは「ランチやディナーは(会社の費用で)どんどん行きましょう」となっています。All for Oneを促進するために。これは僕も本当にいい仕組みだと思います。一般的にはこうした仕組みにする場合、たいていは「1人いくらまで」「月の予算としていくらまで」と決めていたりしますが、うちはそれもすべて撤廃して「何回でも好きなように行っていいよ」と。そこはマネージャーの判断に任せています。

ですからルール上は隣のメンバーと毎日お寿司を食べに行ってもいいんですが、「そこまでするやつはいないよね」と、信じるわけですね。で、そうやって信じるから、マネージャーも責任感を持ってきちんと判断できる。そういうことがすごく良い形で回っている組織だと思います。

このあたりがメルカリとして今取り組んでいることになりますが、まだまだ僕らもこれからです。課題だらけでチャレンジは数多くありますし、とにかく今は会社を大きくしていくとともに、スタートアップの良さを残すことにチャレンジしていきたい。そんなお話を叩き台にして、このあとまた議論できればと思います。ありがとうございました(会場拍手)。

唐澤 俊輔

株式会社メルカリ 執行役員 VP of People & Culture 兼 社長室長