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投稿日:2018年07月11日

投稿日:2018年07月11日

独立したいと相談してきた人に私が答えていること

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

仕事柄、キャリア選択についての相談を受けることが多くなっています。最近多いのは、「会社員をやめ、個人で独立してやっていきたい」という相談です。

確かに昨今はテクノロジーの進化で、一個人が情報発信をし、業務需要を起こすことができ、顧客を集めることができるようになりました。そして業務の種類によっては、時間・場所に制限されることがないので、自分のライフスタイルに合った働き方を実現させる可能性も高まります。組織に雇われる生き方を捨て、そうした個として独立する生き方を志向する人が増えてきたのは、こうした技術の進化によって事業リスクが劇的に小さくなったことが最大要因といえます。

実は私も、16年前に会社勤めをやめ、個人事業主として自らの理想とするライフスタイル実現のためにずっと奮闘してきた一人です。16年前から比べれば本当に今は、事業の種をまくことにおいて、いろいろなことが安価に、簡単にできるようになりました。

組織に雇われる/個人で独立する~悲喜こもごもの4象限

組織に雇われる生き方と、個として独立する生き方は、どちらが正解というものではありません。その人の志向と人生状況によって選ぶ問題です。いずれの生き方を選ぶにせよ、各自の人生には悲喜こもごもの姿が現れます。

同じ雇われの身でも、「踊る組織内プロフェッショナル」型の人は、働くことについての目的意識が明確で、その目的のもとに能力をフル活用し、顧客や需要をつくり出すことができます。その際に、組織の力をうまく利用して事を成し遂げていきます。

それに対し、「ストレスフル・サラリーパーソン」型の人は、自分の目的意識が弱いために、組織の目的に引きずられながらやらされ仕事をこなしていく日々になります。業務を処理する程度の能力は身につけますが、顧客や需要をつくり出すほどではありません。

他方、同じように、個として独立する生き方を志向する人の中でも、明暗2つの姿に分かれます。「野生の仕事人」型の人は、自分の夢や志といった目的軸をはっきり持っていて、それを実現するために力強く奔放に働きます。そのために顧客や需要をつくり出すことに精力的に取り組みます。

一方、目的意識があいまいなまま、とりあえず自由気ままにやりたいと独立しただけの人は「浮かないフリーランス」として、いろいろな仕事を請け負うものの、受動的・苦役的に働くことになってしまいます。

ポジティブとネガティブの決定的な分岐点はどこに?

自分の職業人生の明暗を分けるのは、組織に雇われるか、個として独立するかという形の問題ではありません。働く目的意識が強いか弱いか、顧客や需要を創出する側に回っているか回っていないか、それが決定的な分岐点になります。

現在、「ストレスフル・サラリーパーソン」の象限にいて、「そこそこスキルもあるし、独立でもするか」という人が自身で事業を始めるとき、本人は一足跳びに「野生の仕事人」として活躍できると思いがちでしょう。ですが、結果は単なる横移動で、「浮かないフリーランス」になる可能性のほうが大きいかもしれません。

いわゆる「稼げるフリーランス」と「稼げないフリーランス」の違いはどこにあるかといえば、先ほども少し触れたように、「顧客や需要を創出する側に回っている」か「回っていないか」にあります。

個として独立したフリーランスは、どこかの企業から仕事を委託してもらうわけですが、そのときに、顧客や需要創出の場に関われば、その委託仕事はコンサルティング的になり、高い報酬が見込まれます。この次元の仕事は高度・独自的であり、代替者が少ないからです。

しかし、顧客や需要創出の場から離れたところで発生する委託仕事は、たいてい下請け的な作業となり報酬は低くなります。この手の作業を行う人は他にもたくさんいます

働く形態よりも自分の意識がどうであるか

個人が独立してやるフリーランス的な仕事でも、副業や夫婦共稼ぎにおけるセカンドインカム的な位置づけであれば、稼げるかどうかは二の次でいい問題になります。しかし、主たる生計を立てていくとなれば、それは最重要項目です。

個人で独立したいと相談にやってくる人の多くは、「ストレスなく自由に働きたい」「スキルを思う存分生かしたい」「ノマド的なワークスタイルに憧れてます」などと感情が先行します。そして「この分野の仕事は十分に需要があるから食っていけそう」だと。しかし、この既存の需要をあてにしているところが、すでに危ういところです。

すでに顕在化している需要に自分をはめ込んでいくと、大勢の中の1人として埋没し、下請け的にならざるをえません。そしてその既存の需要だって、いつまで安泰なのかわかりません。

逆に、自分はこういう事業アイデアを実現させたい。潜在需要や潜在顧客はこのあたりにあると思う。それを掘り起こすために、自分の能力を生かし、補強していく。これまでもそういう種類の仕事をやってきた。自分の働く意味は、この事業アイデアにこそあると感じる。会社をやめるリスクを負ってでもやりたい。───ここまで肚(はら)が据わっていて、需要や顧客創出の次元に自分を投入しようとする人は、安心して独立を応援できる人です。

結局、働くことについて目的意識を強く持ち、需要を創り出し、お客さんを創り出せる人は、組織で雇われようが、個人で独立しようが、自分がイニシアチブをとって周囲を動かし、納得のキャリアを築いていけるのだと思います。

村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。

『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)をはじめ、管理職研修、キャリア開発研修、思考技術研修などの分野で企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。
GCC(グロービス・キャリア・クラブ)主催セミナーにて登壇も多数。
1986年慶應義塾大学・経済学部卒業。プラス、日経BP社、ベネッセコーポレーション、NTTデータを経て、03年独立。94-95年イリノイ工科大学大学院「Institute of Design」(米・シカゴ)研究員、07年一橋大学大学院・商学研究科にて経営学修士(MBA)取得。

著書に、『キレの思考・コクの思考』(東洋経済新報社)、『プロセスにこそ価値がある』(メディアファクトリー)、『個と組織を強くする部課長の対話力』『いい仕事ができる人の考え方』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。