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インターナルブランディングは顧客インサイトから!  アンサング・シンデレラの挑戦vol.3

2020年05月14日

  • マーケティング・戦略
  • 実践的
芹沢 宗一郎 グロービス経営大学院 教員/グロービス シニア・ファカルティ・ディレクター

新型コロナウィルスと現場の最前線で闘っておられる医療従事者のみなさんに、まず心から敬意を表したい。医療従事者は医師や看護師だけではない。本連載「アンサング・シンデレラ」では、縁の下の力持ち(アンサング)であり、なかなかスポットライトの当たらない薬剤師に着目する。薬剤師は、いま日本の厳しい医療財政における減薬と残薬問題の解消に直面しながら患者の健康を守るという重責を担っている。この課題に果敢に挑戦する大賀薬局(福岡県)の取り組みをエクスターナルブランディングとインターナルブランディングの視点から紹介する。

顧客の期待を超えるためのインターナルブランディング

新型コロナウィルス対応という有事のときにオンライン診療が解禁された。これによって始まった「患者の利便性向上」という流れは、もう後戻りすることはないだろう。その変化に適応しながら、医療費削減のために、残薬問題の解決や減薬を推進していくことは重要なイシューである。前回は、この社会課題解決の潮流をつくるために、ご当地ヒーローを起用した「薬育」によって積極的なエクスターナルブランディングを行っている大賀薬局の事例についてみた。


薬育の先にあるのは、薬を減らし医療費を削減しながら健康ケアを実現することだ。この大きな社会課題に立ち向かう自社の姿勢を発信すればするほど、社会からの期待は大きくなる。となると、企業はその高まる期待を超える価値を実際に提供しなければ逆に信頼を失うことになる。その価値提供の主体は当然、企業の社員だ。社員の使命感を高め、価値提供に必要なスキルを向上させ行動を促すことを、ここでは広義のインターナルブランディングと定義する。


このようにエクスターナルブランディングを強化することでルーチンに流されがちな社員の心に火をつける効果はある一方、同時にインターナルブランディングも高め、顧客の期待を超えることが不可欠だ。この2つをいかに同期化していくかは、薬剤師だけでなく、社会の中で縁の下の力持ち的役割を担っている企業であれば共通に重要と言えよう。今回は、大賀薬局がいかにこの2つを同期化する取り組みを行っているか、インターナルブランディングにどのような施策をうってきているかみてみたい。

お客様との約束、Ohga Wayへ

大賀社長は常日頃から、「売上利益は上げるものではなく、顧客の立場に立てれば上がるものだ」ということを社員に説いている。創業以来受け継がれてきた精神「奉仕こそ我らの務め」のもとで、新たに「ずっとこのまちで あなたとあなたの家族を守る薬局であり続けます」という“お客様との約束”と“Ohga Way”(社員奉仕、顧客奉仕、地域奉仕の3つ)を明文化した。


この“約束”という言葉の重みを薬剤師一人ひとりがどれだけ強く自覚できるかが重要だ。もちろんその実現には、従来までの薬剤師としての薬の知識だけではなく、後述の顧客インサイトをおさえるスキルがより重要となってくる。


社員が携行するカードには、後述の戦略を落とし込んだ、自分が所属する組織と自分自身の行動目標を具体的に明記するようにしている。常にWayを落としこんだ行動を意識するためだ。

薬局の顧客情報から健康ケアの新たなサービスを

残薬問題の解消も減薬の推進も、どちらも患者のためになるものだ。また、薬局の減薬努力に対しては、調剤報酬の点数が加算される制度もある。しかし、減薬は患者一人当たりの薬の数を減らすことなので、上記点数加算があっても薬局の売上は下がることになる。経済合理性の観点だけから考えれば、薬局にとって減薬の促進はなかなか進めづらいはずだ。だが大賀薬局の場合には、減薬のKPIも設定しPDCAを回している。患者の健康ケアという大義にもとづく行動を常に意識することで地域住民との信頼関係構築にあくまでこだわるからだ。


こうしてこれまで大賀を利用していなかった新規顧客をも取り込むこと(処方枚数の増加)で自社しか持ちえない地域の患者の薬歴データが蓄積されていく。さらに同社は店舗での対面コミュニケーションを重視しているので、患者との会話の中から薬歴だけでははかれない個々の患者の悩みなどの定性情報も蓄積されていく。そのデータ情報から、“個”客の病気の予防や未病、健康を促進するサービスメニューの提供、たとえば、ベストな食事の提供、運動メニューの提供、買い物難民への多様な配達サービスの提供、同じ病気で悩む人たちのコミュニティの場の提供、介護のよろず相談などなど、エリアによってはドラッグストアとの併設も組みいれながら収益の拡大を図る可能性が拡がるのだ。


ただ、“個”客の提供価値の最大化は、自社の経営資源だけでは実現できない。すべては顧客一人ひとりの起点で思考しつづけながら、どのようなサービスをどのようなパートナー企業と組んで生み出すかを戦略的に設計することが不可欠となる。

顧客インサイトのスキル強化

エクスターナルブランディングの発信とそれに同期化する形で推し進める“お客様との約束”/“Ohga Way”などの理念教育、これはインターナルブランディングの土台として非常に重要である。ただ、使命感や思いが強ければそれだけで顧客への適切な価値が創造できるのだろうか? 


インターナルブランディングを必要十分なものにする要素としてもう一つ大切なのが、“顧客インサイト”をイメージするスキルだ。顧客インサイトとは、顧客が感じている本音で、そこを突くと自店舗への顧客の態度変容が起こるような顕在化/潜在的な気持ち(願望と懸念の2つの切り口がある)のことをいう。


考えるステップとしては、ターゲット顧客の体験(行動)の実際の行動プロセスを時系列で洗い出してみる。

この段階で整理するのはあくまで顧客の行動イメージであり、店側の施策は考えない。しかし、どうしても供給側の視点である打ち手先行で思考しがちになる。たとえば、咳の症状ひとつとっても様々なものがある。本来なら薬剤師が咳の症状を患者からしっかり聴いて、症状別に成分を考えて個別に対応すべきなのに、一般には自社推奨品を進めるお店がどれだけ多いことか。


次に、書きだした顧客行動プロセスごとに、顧客の感じているインサイトをできるだけ洗い出してみる。さらにそのなかで、刺激すれば強いインパクトを与えると思われるインサイトを選択し、それを満たす施策(打ち手)を考えるという具合だ。

こう書くと簡単に思うかもしれないが、顧客インサイトをイメージするのは相当難儀だ。たとえば、高齢者のための店づくりとかよく聞くが、一人暮らしの高齢者のインサイト、あるいは高齢者を抱えた家族のインサイトをどこまで具体的に想像できているか? はなはだ疑わしい。よく出される例だが、早朝から高齢者が病院に並ぶのはなぜなのか? 海外ではAIを使ったヘルスケアのコーチングサービスなども増えているが、リピートしている顧客が評価しているのは実は同じ悩みをもった仲間が集まるコミュニティ自体だったりする。


顧客第一とか顧客志向と掲げていながら、現実は思考の起点が供給者の論理になっていることに意外と気づいていない。企業が規模化すればするほど、どこかで標準化が必要となる。それにより顧客ニーズも最大公約数的なものに括らざるを得ず個客/個店から必然と離れていくからだ。だからこそここにビジネスチャンスがあるわけだが。


大賀薬局では、以前から接客の教育にはかなり投資をしてきており、店舗の接客レベルは他社に比べて高く評価されている。それに加え、数年前からは顧客インサイトのスキルトレーニングを幹部クラスに対し行ってきている。次回言及するが、企業の文化は経営陣、幹部クラスの思考特性が大きく影響するのは言うまでもないからだ。今後は日々のOJTのなかで、いかに幹部クラスが現場のスキル変革をリードできるかにかかっている。エクスターナルブランディングでアップした顧客からの期待を超えるために。

芹沢 宗一郎グロービス経営大学院 教員/グロービス シニア・ファカルティ・ディレクター

一橋大学商学部経営学科卒。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修士課程修了(MBA)。外資系石油会社勤務後、グロービスでは、企業の経営者育成を手がけるコーポレート・エデュケーション部門代表などを歴任。現在は、エグゼクティブ教育や企業の理念策定/浸透などのプロセスコンサルティングに従事。共著・訳書に「変革人事入門」(労務行政)、『個を活かす企業』(ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール戦略論』(東洋経済新報社)など。 『[新版]グロービスMBAリーダーシップ』では、第II部実践編などを担当。

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