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40代からのキャリアをどうするか?分業化で行き場に困る人、困らない人

2019年07月12日

  • キャリア
村山 昇 キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

増えるミドル・シニア層向けのキャリア研修

昨今、企業の人事部門から40代・50代の従業員に向けたキャリア研修を相談されるケースが増えてきました。従来からキャリア研修の主たる需要は、対象者が20代~30代前半までのものです。若年層のほうが就労意識は固まっていませんし、キャリア形成の選択肢もまだ広いということで、企業としても教育投資の価値が大きいとみているためです。


ところがここにきて、40代・50代向けキャリア研修の実施に関心が高まっています。これまでも50代シニア層に向けた研修はありましたが、どちらかというと、定年後の生活をどうするかというセカンドライフ準備講座的な内容でした。しかし、昨今の内容は就労意識をどうつくりなおすかというものです。


確かに、定年退職の年齢がじわじわと上がりはじめ、かつ、企業に定年までの継続雇用圧力がかかる中、企業としては中高年の従業員に対し、再度リバイバルして、生産性を上げてがんばってもらいたいわけです。


私もときにミドル・シニア層のキャリア研修を受託するのですが、受講者に対し、「定年年齢が延びている昨今、再度ネジを巻き直してもう一踏ん張りしましょう」といったような発信はしません。それは人材資源に対する最大効率化を狙う事業中心の考え方であって、人間中心の考え方ではないからです。


私は「40代・50代の働き盛りにあって、せっかく出合えた仕事を通じて、1つの分野を究めたり、自分という存在をふくらませていったりすることができないとしたら、それはモッタイナイことではないですか」という投げかけをしています。


ともあれ、研修現場で観察できることはいろいろあります。例えば、40代以降、管理職になる層と非管理職で留まる層との間の就労意識の差が総じて大きくなります。非管理職に留まり、特段の専門性も深掘りできていない層は、社内で居心地の悪さを感じながらも、定年まで省エネモードで居続けようとする姿勢になりがちです。この層への就労意識の再喚起はとても難しいものがあります。


また、管理職層においても、管轄部署の数値目標達成に神経をすり減らす日々が続いているので、働く意味や仕事のやりがいに触れるやいなや、日ごろの不満が噴出し、深い悩みを打ち明ける人も少なからず出てきます。「結局、キャリアのはしごを上ってきたら中間管理職にたどり着いただけのこと。給料のために部下に数値目標達成への発破をかけなければならないが、これがやりたいことではない。だからといって、やりたいことが何かあるわけでもない。ストレスと惰性を相手にするのが今の仕事」といった類いの声をそこかしこで受けます。

分業にこぢんまりと安住する意識は要注意

ミドル・シニア層のキャリア形成に影響を与える要素はいろいろありますが、その最大要素の1つである「分業」について、私見を述べたいと思います。


まず結論を図にまとめました。

中高年になってキャリアに行き詰まる人の多くは、与えられる分業役割(部署・職種・職位・担当業務)をそつなくこなすことに自己の有能さを感じる傾向があるように思われます。分業役割という枠に自分をはめこみ、多少の専門性を身につけて成長感も得ますが、結局のところ、彼らにおいては雇われ口を確保することが主たるキャリアの関心事になっています。喩えて言えば、分業役割を船のようなものとしてとらえ、それをできるだけうまく乗り継いで定年までいけばよいという態度のように見うけられます。


ところが、分業役割の形はどんどん変わっていきますし、年齢とともに柔軟性がなくなってきて、乗り移れる船の選択肢がだんだんしぼんできます。AI(人工知能)との職の奪い合いにもなります。そこにキャリアの停滞や行き詰まりが起こるわけです。


分業という小舟を乗り継ぎ、雇われ続けることが目的化した就労意識では、もはや自分を全人的に使って、独立・起業しようという選択肢はまったく考えられません。幸運にも定年まで雇われたとしても、リタイヤ後、100歳まで生きてしまうかもしれない自分に、何かいきいきと活動できることを見つけられるでしょうか。

一徹視理~1つを徹すれば理を視る

分業が決して悪いわけではありません。分業を探究的な使命に転換して広大な世界を発見する人もいます。

私は「一徹視理(いってつしり)」という造語で表現しているのですが、1つのことに徹すれば、その奥に理(ことわり)を視るようなことが起こります。どんな分野においても、その分野を真摯に究める人は、そこから世の中全体に通じる本質や真理を体得するものです。その過程においては、もはや自分を部分的に使うのではなく、全人的にそこに献身する状態になっています。


こういう人は、分業役割というものをまさに鋤(すき)・鍬(くわ)にして、深くにあるものを掘り起こしていこうという姿勢になります。たまたまの配属で任された職種であっても、その道を探究し、その分野を通じて自分の存在をふくらませていこうとする。そうこうするうちにいろいろなものが見えてきて、ライフワークを掘り当てることにもなります。中高年のステージでキャリア形成がうまく進んでいくのはこういうパターンです。

分業システムに組み込まれる側になるか、活用する側になるか

これからのビジネス社会において、分業システムはますます高度化・細分化していくでしょう。となれば、働く私たち1人1人も、ますます限定的な分野の仕事で食っていくことになります。そんな分業化の趨勢を是としたうえで、結局のところ大事になってくるのは目的観だと思います。


雇われ口の維持を目的に考える人は、分業システムや雇用組織に使われる側に組み込まれてしまうでしょう。他方、仕事を通じ自分の生き方を探究することが目的になっている人は、分業システムや雇用組織を手段・機会として使う側に回れる可能性が高くなります。


目的観や仕事に向かう意識・態度は、一朝一夕にできあがるものではありません。こうした問題はミドル・シニア層だけの問題ではなく、20代、30代から意識して考えたいものです。あなたにいま与えられている分業役割は、キャリアの海の表層を渡るいっときの小舟でしょうか? それとも、キャリアの大地を深掘りしていく鋤・鍬でしょうか?

村山 昇キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。
『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)をはじめ、管理職研修、キャリア開発研修、思考技術研修などの分野で企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。
GCC(グロービス・キャリア・クラブ)主催セミナーにて登壇も多数。


1986年慶應義塾大学・経済学部卒業。プラス、日経BP社、ベネッセコーポレーション、NTTデータを経て、03年独立。94-95年イリノイ工科大学大学院「Institute of Design」(米・シカゴ)研究員、07年一橋大学大学院・商学研究科にて経営学修士(MBA)取得。


著書に、『キレの思考・コクの思考』(東洋経済新報社)、『個と組織を強くする部課長の対話力』『いい仕事ができる人の考え方』『働き方の哲学』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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