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現代は、テクノロジーの進化によって、あらゆるものを取り巻く環境が複雑さを増し、将来の予測が困難な状況にあることから、「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれています。
VUCAという言葉の意味や、VUCA時代に生きるビジネスパーソンに必要な3つのスキルについて解説していきます。
VUCA(ブーカ)とは
VUCAとは、一言でいうと「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」を意味します。
元々は1990年代後半に軍事用語として発生した言葉ですが、2010年代に入ると、昨今の変化が激しく先行き不透明な社会情勢を指して、ビジネス界においても急速に使われるようになりました。
VUCAは、こちらの4つの単語の頭文字をとった造語です。
- V(Volatility:変動性)
- U(Uncertainty:不確実性)
- C(Complexity:複雑性)
- A(Ambiguity:曖昧性)
VUCA時代にはどのようなことが起こるか?
想定外の出来事が次々と起こる
経済やビジネス、個人のキャリアに至るまで、ありとあらゆるものが複雑さを増し、将来の予測が困難な状態にあります。
例えば、グローバルの流れに目を向けても、さまざまな国の政治の先行きが不透明であり、今までやってきたことやスタンダードだと思われてきたことが、ここにきて崩れていっているような気さえします。
さらに、新型コロナウイルスの流行や、地球温暖化に伴う気候変動や異常気象、台風や地震といった災害など、予測が困難な事象が次々と起こっています。
また、日本や先進国では、少子高齢化が深刻な問題として取り上げられています。
働き方においても、従来の日本の企業では当たり前だった終身雇用や年功序列といった制度もなくなりつつあり、人材の流動性も高まっています。
これらの事象が今後、世界や日本社会、個人にどう影響を及ぼしていくか、全てを見通すことは難しいでしょう。
業界の概念を覆すサービスの登場
ビジネスにおいては、次々と画期的なサービスが生まれています。
一方で、これまで想定していなかった業界の企業と競合しなければいけなくなったり、売上低下の原因がまったく予測できなかったりするなどの事態が起こっています。
例えば、タクシー業界では「Uber」という新しいサービスが競合として登場しました。
Uberは、一般の人が運転手になって、一般の人が顧客として利用するというビジネスモデルを作り、従来のタクシー会社とは違って、運転手や車などの固定資産を持たないノーリスクの商売を可能としています。
そのほかにも、ホテル業界では「Airbnb」というサービスが競合として生まれました。
従来のホテル会社は、ホテルをたくさん建て、従業員を雇い、日々稼働率を意識しながら空室を埋める施策を考えてきましたが、Airbnbでは、一般の人が持っている施設と旅行者をうまくつなぎ合せ、会社としてはリスクを取らずに宿泊したら収益が入ってくるというビジネスモデルを作りました。
元々の業界は、まったく異なるサービスモデルが生まれても、始めはなぜ売上が下がっているか分かりません。
気付いたときにはそれらの競合が、業界の概念を覆すような新しいサービスへと成長しているのです。
このように、今までは自分達と同業界の競合を意識していればよかったのですが、そもそもの業界というくくりの概念自体がなくなりつつあります。
「自分達は何と戦っているのか見えない」という状態が出てきています。
今までの常識が非常識になる
「企業資産の負債化」という、経営資源が足かせとなる現象があちらこちらで起きています。
これまで企業は「設備投資をする」「自社に必要な人材を雇用し育成する」などを行って、それらを固有の資産とし、競争優位を築いてきました。
しかし、テクノロジーの著しい進化によって、経営資源として抱えていたものが意味を持たなくなるような製品・システムが次々と生まれています。
経営資源は、即座に組み替えることは不可能です。
例えば、「過剰だから」といっていきなり従業員を半分解雇、といったことはできません。
そうこうしている間に新しいビジネスモデルで、新しい企業が勝ち上がっていく。
このような事態が今まさにあちこちで起きています。
つまり、既存プレイヤーの破綻や撤退が起き始めているわけです。
今まで「常識」だと思っていたものが「非常識」に、今まで「非常識」だと思っていたものがこの先の「常識」になっていくのです。
VUCA時代に必要な3つのスキル
VUCA時代を乗り切るために必要な3つのスキルをご紹介します。
- テクノロジーの理解と情報収集力
- 自らの頭で考える力
- ポータブルスキル
テクノロジーの理解と情報収集力
変化の起点であるテクノロジーの理解は必須です。
それが自社の業界や自分のキャリアにどう影響するかを押さえ、 危機を感じたら先手先手で身の振り方を考えておきましょう。
自らの頭で考える力
「AIに人間の仕事が奪われる時代が来る」といった話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
オックスフォード大学の調査結果によると、10~20年後には日本の労働人口の半数が就いている職業がAIやロボットに代替されると推計されています。
一方で、AIは万能ではなく、これまでにない課題を解決する仕事(=過去のデータがないもしくは不十分な仕事)や、数値化できない人間の感性や経験に基づく創造的なアイデアを生みだす仕事については不得意です。
AIとの共存社会がやってくる中で、私たちは人間にしかできない「考える力」にフォーカスし、高めていく必要があります。
「考える力」の具体的な鍛え方については、こちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひあわせて読んでみてください。
ポータブルスキル
VUCA時代には、誰もが"もしも"に備え、「転職力」を磨く必要があります。
転職力を磨く上でキーとなるのが、「ポータブルスキル」です。
「ポータブルスキル(=持ち運び可能なスキル)」とは、特定の業種や職種、時代背景にとらわれることのない、汎用性の高いスキルのことです。
あらゆるビジネスパーソンにとって重要な「ビジネス基礎力」とも言えるかもしれません。
ポータブルスキルを高いレベルで身に付けている人材は、どの会社でも必要とされる「市場価値の高い人材」です。
ポータブルスキルの具体例や鍛え方については、こちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
VUCA時代の意思決定方法「OODAループ」
業務改善の手法で「PDCA(計画、実行、評価、改善)が浸透していますが、PDCAに代わり、VUCA時代に対応する手法として「OODA(ウーダ)ループ」が注目されています。
OODA(ウーダ)ループとは
OODAとは、「観察する(Observe)」「状況を理解する(Orient)」「決める(Decide)」「動く(Act)」の頭文字をとった言葉です。
VUCA同様に、OODAループも軍事用語として発生したものです。
- 観察する(Observe):市場や顧客など外部環境をよく観察し、「生データ」を収集する。
- 状況を理解する(Orient):集めた生データをもとに、今何が起きているのかを把握・理解する。
- 決める(Decide):理解した状況に対して、具体的な方針やアクションプランを決定する。
- 動く(Act):プランをもとに、実行に移す。
OODAループが注目される理由
最初に計画することから始めるPDCAと違い、OODAループは観察と状況判断から始まり、そしてそのフェーズを重視します。
何が起こるか予測不可能なVUCA時代には、全てを計画通りに行うことは難しく、現場で状況を的確に判断し、柔軟に対応していくことが求めらます。
個人としても必須のスキルですが、チームや部署、組織レベルでもOODAループを実行できるスピーディーで柔軟な姿勢が今後不可欠になっていくでしょう。
まとめ
VUCA時代は、「今まで通りの延長線ではない時代」であることを意識して、積極的に情報収集し、キャリアへの備えをしていきましょう。
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著者情報
村尾 佳子(グロービス経営大学院 経営研究科 副研究科長)
関西学院大学社会学部卒業。大阪市立大学大学院創造都市研究科都市政策修士。高知工科大学大学院工学研究科博士(学術)。大手旅行会社にて勤務後、総合人材サービス会社にてプロジェクトマネジメント、企業合併時の業務統合全般を経験。現在はグロービス経営大学院にて、事業戦略、マーケティング戦略立案全般に携わる。教員としては、マーケティング・経営戦略基礎、リーダーシップ開発と倫理・価値観、経営道場などのクラスを担当する。共著に『キャリアをつくる技術と戦略』、27歳からのMBAシリーズ『ビジネス基礎力10』『ビジネス勉強力』『リーダー基礎力10』がある。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。