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「チームメンバーに、もっとよい気付きを与えたい。そのためには、どんな問いかけをすればいいのでしょうか?」最近、ある方からこんな相談を受けました。おそらく多くのリーダーが、同じような悩みを抱えているのではないでしょうか。
日々の仕事で問題が起きたとき、私たちはつい「どうやって解決するか」に目が向きがちです。しかし本当に重要なのは、その前段階にある「どんな問いを投げかければ、相手が自ら答えにたどり着けるか」という視点です。 「問いこそ答えだ」と言われるように、問いには相手の思考を引き出し、気付きを生み出す力があります。
問いの力は「気付き」を引き出す
誰かに言われて行動するよりも、自分で考えて選んだ行動の方が、納得感も学びも大きくなるものです。問いは、まさにその「自分で考えるきっかけ」をつくるもの。アドバイスや指示よりも、問いかけのほうが相手の内面に響き、自発的な成長を促します。
では、どうすればメンバーの気づきを引き出すような問いを投げかけられるのでしょうか。実践の中で見えてきた、3つの大切なポイントをご紹介します。
①問いかけの前に「信頼関係」を築く
どれだけ優れた問いも、信頼がなければ相手の心には届きません。思い返してみると、当時は響かなかった言葉が、今になって深く心に残っているという経験はありませんか? それは、当時の自分がその相手を信頼していなかったからかもしれません。
信頼を築くためには、「一貫性」が欠かせません。言っていることが場面ごとに違っていたり、感情に左右されているように見えたりすると、相手は不安を感じ、こちらの言葉にも疑念を抱くようになります。
反対に、論理的に筋の通った言動を続けていれば、「この人の言うことは信頼できる」と思ってもらえるようになります。日々の判断やアドバイスにおいて、感情ではなく思考に基づく姿勢を持つこと。それが信頼の土台となります。
②「囚われ」と「こだわり」を見極める問いを投げる
メンバーがある考えに強く固執しているように見えるとき、それが「囚われ」なのか「こだわり」なのかを見極めることが重要です。
- 囚われ:他の選択肢があるにもかかわらず、視野が狭くなり、特定の方法に固執している状態
- こだわり:他の選択肢を理解した上で、意思を持って特定の方法を選んでいる状態
たとえば、メルマガ施策に執着しているメンバーには、 「この施策は、誰のために、何を目的にやっているの?」 「他にどんな方法があり得る?」といった問いかけが有効です。
こだわりであれば、「顧客にこういう状態になってもらうために、複数の選択肢を検討した結果、メルマガが最適だと考えました」といった答えが返ってきます。一方で囚われている場合は、「以前うまくいったから」「慣れているから」といった、根拠の乏しい主観的な返答が多くなるでしょう。
問いかけを通してメンバー自身が「あ、自分は視野が狭くなっていたかもしれない」と気付けたとしたら、それは大きな成長の一歩になります。
③経験の枠を超える「別視点」からの問いを与える
人は、自分の経験の範囲内で物事を考えがちです。だからこそ、その枠を超えた視点から問いかけを受けると、新たな気付きが生まれます。
たとえば、営業経験しかない人にはマーケティング視点から問いかけてみる。中小企業のお客さましか対応してこなかった人には、大企業でのケースを想定してみる。映像制作の仕事に関わってきた人には、前工程の企画や後工程の配信といった別フェーズに着目した問いを投げ掛ける。
こうした問いかけは、バリューチェーン全体を見る視野を広げ、メンバーの中にある「まだ開かれていない引き出し」を開けるきっかけになります。
問いかけがメンバーの成長を加速させる
問いかけに、決まった正解はありません。何よりも大切なのは、「相手の可能性を信じて問いかける」という姿勢です。
問いかけによって、メンバーは自ら考え、行動し、成長する力を身に付けていきます。指示を待つのではなく、自分で問いを立てて前に進む力。それこそが、これからの時代に求められる自律型人材の土台となります。次の1on1や何気ない会話の中で、ぜひ問いを投げ掛けてみてください。
著者情報

加藤 想(グロービス経営大学院 大阪校企画営業責任者)
神戸大学工学部卒業、同大学院工学研究科修士課程(工学)修了。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。大手通信会社にて設備設計業務、採用活動に従事した後、サービス戦略部門にて新サービスの立案、AI、BPRなどを担当。その後、グロービスに入社。グロービス経営大学院の学生募集企画にて学生のキャリア相談、新規施策立案などを行っている。また、グロービス経営大学院のVoicy「ちょっと差がつくビジネスサプリ」のパーソナリティを務める。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。