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「エンパワメント」とは、目標を達成するために、組織のメンバーが自律的に行動する力を与えるためのリーダーシップ技術のことです。
本記事では、ビジネスにおけるエンパワメントの具体的な実行プロセスとコツ、組織や個人へのメリットについて紹介します。
エンパワメントとは
文字通りの意味は「力を与えること」であり、「個人の潜在能力や可能性を信じ、引き出すこと」を指します。
エンパワメントは、ビジネスや医療、福祉、教育、社会活動など、幅広い分野で使われる言葉ですが、その前提には「人は誰もがすばらしい力を持って生まれ、生涯にわたり、そのすばらしい力を発揮し続けることができる」という共通の考えがあります。
ビジネスにおけるエンパワメント
とくにビジネスにおいては「権限移譲」といった意味で使用されることが多く、リーダーがメンバーに実行プロセスにおける意思決定の権限と責任を付与することで、メンバーの自律性を促し、支援することを意味します。
ビジネスでエンパワメントが重要視される背景
企業や組織にとって、エンパワメントの重要性は年々増しています。
スピーディな意思決定が求められる時代になった
従来のリーダーシップスタイルは「命令管理型」が主流で、命令する側と命令を受け取る側は明確に分かれており、権限と責任は命令する側に集中していました。
しかし、ビジネスを取り巻く環境の変化が激しく、スピーディな意思決定とアクションが求められるようになってきている今、経営者やマネージャーが全ての案件や問題などに主体的に関わることは難しくなってきました。
そうした中、メンバーに権限を渡し現場で対応してもらうエンパワメントの実行が、時間の確保や企業としての競争力を高めるという観点で注目されるようになっています。
顧客満足度の向上
現場に近いスタッフに意思決定の権限を付与することで、顧客の満足度が向上するケースがあります。
例えば、クレームを言っている顧客がいた場合、顧客と直接接点のある担当者が権限を持っていると、スピーディにそこで状況判断し、解決策を考え、対応しきれることができます。
リーダー人材の育成
今の日本は、リーダー人材が不足している企業が少なくなりません。
エンパワメント(権限移譲)には、将来のリーダー人材を確保するためにスタッフに権限を委譲しながら育成していくといった側面があります。
権限を受け取る側は、自ら考えて取り組む能力を鍛えられてモチベーションを高める効果が期待されます。
エンパワメントのメリット
エンパワメントは、組織や個人にとって様々なメリットがあります。
メリット①:リーダーがより重要な案件にフォーカスできる
エンパワメントする側(=リーダー)が、部下のあらゆる業務のチェックや意思決定を行っていると、それだけで時間は削られていきます。
ある程度、部下に権限委譲することで、より重要な案件(=より経営に近い案件)に、リーダーは集中して取り組むことができるようになります。
メリット②:主体的に行動する社員が増える
上司がすべての意思決定をしていたら、そのうち部下は思考停止し、上司の判断を仰ぐという受け身なスタイルができあがってしまいます。
エンパワメントにより、自分の責任で考え、主体的に行動する社員が増えていきます。
従業員一人一人が自律的に考えて行動できることは、企業の競争力を高めることにもつながります。
メリット③:メンバーのモチベーション向上
「任される」というのは、嬉しいものですよね。
また、がちがちに管理されるよりも、自分で決めて実行していくのは、楽しくもあります。
エンパワメントは、メンバーのスキルとモチベーション向上の面でも、役に立ちます。
エンパワメントの実践プロセス
ここからは、具体的なエンパワメントのプロセスについてみていきます。
ステップ①:対象者の把握(スキル、意欲など)
まず初めに、リーダーは、「誰にどのようなレベルでエンパワメントできるのか」を見極めることが大事です。
不適切な人に権限移譲をしてしまった場合、現場がぐちゃぐちゃになってしまうこともありえます。 リーダーは、エンパワメント対象者の能力や意欲、関連するメンバーとの相性をしっかりと把握していく必要があります。
ステップ②:達成してほしいゴールの共有
対象者が決まったら、達成してほしいやゴールや目的などを共有していきましょう。
エンパワメントが上手くいかない原因は、このプロセスにあることも少なくありません。
リーダーとメンバー間でゴールの認識がずれていると、期待していたことではないことにメンバーが労力をかけてしまったり、的外れな意思決定をしてしまったりと、相互の不満の要因となってしまいます。
また、エンパワメントは「育成」の観点もあるので、ゴール設定の際には、今のメンバーの能力よりも少し背伸びした「ストレッチゴール」を設定するようにしてみてください。
ステップ③:一人で決めてもいいレベル感の共有
権限移譲といっても、最終的な権限や責任はリーダーにあります。
すべての意思決定をメンバーに委ねるのではなく、「ここまでは勝手に判断してくれて構わない」「逆に、ここは事前に相談してほしい」など、線引きを明確にしておきましょう。
ステップ④:全体の業務状況の把握
メンバーの意思決定や業務の遂行の仕方を尊重しつつ、定期的な進捗の確認など、リーダーはきちんと業務状況の把握もしておく必要があります。
「失敗して初めて進捗が遅れていることに気づいた」「納期ぎりぎりになって間に合いそうにないことに気づいた」などが、起こらないように注意しましょう。
ステップ⑤:実行支援
「じゃあよろしく~」と丸投げされては、メンバーも困ってしまいますよね。
業務の中には、上司の方が効果的に調整できるものや、そろえられないリソースもあります。
例えば、「こういう場合は、〇〇さんに相談するように言っておいたから」など、実際にメンバーが実行していくうえで、必要なものをそろえておいてあげたり、適切なタイミングで援助してあげることも、エンパワメントにおけるリーダーの役割の1つです。
エンパワメントで失敗するケース
エンパワメントは、まさに「言うは易く行うは難し」です。
上手くいけば様々なメリットがある一方で、失敗に終わってしまっているケースもあります。
ケース①:放置や丸投げになっている
「エンパワメントに失敗しているな」と感じるケースの多くは、権限移譲ではなく、単なる「丸投げ」になっているケースです。
なぜ起こるかというと、プロセスの途中での確認が一切ないからです。
そして、失敗して気づいたり、納期が来たのに出来上がっていなくて気づく。
そんなことが起こってしまいます。
定期的な進捗確認や、部下が相談しやすい雰囲気作りをすることもエンパワメントのコツです。
ケース②:間違った仕事の権限移譲
例えば新人に、非常に緊急性が高い仕事やミスが許されないような仕事をお願いするのも上手くいきません。
これは、上司の無責任な行為といえます。
ケース③:育成の観点が抜けている
権限を渡す側と受け取る側の両方にメリットの大きいエンパワメントですが、単に権限を渡すだけでは上手くいきません。
忘れてはいけないのが、「育成」の観点です。
途中のプロセスの確認がなく放置状態だったり、「もうちょっと若手にお願いしたらよかったのに...」という仕事をベテランにお願いするのは、エンパワメントが上手く機能していない代表例です。
権限の委譲を通じて、権限を受け取る側の育成を行うという意識を持ち、目標の提示と支援を通じてコントロールしていくことが重要です。
エンパワメント能力を鍛える方法
エンパワメントやリーダーシップに必要なスキルを本当の意味で身につけるには、やはり書籍や動画学習などの独学では、限界があります。
実践レベルで習得したいという方は、外部の機関を上手に活用して学ぶというのも1つの手です。
例えば、国内最大のビジネススクール・グロービス経営大学院では、これからの時代に求められるリーダーのあり方や考え方、スキルを広く学ぶ『組織行動とリーダーシップ』という講座があります。
講座は2週間に一度、計6回の開催。
3ヵ月でかなり思考の仕方が変わりますので、ぜひ検討してみてください。
(▼講座の詳細はこちら)
『組織行動とリーダーシップ』講座
また、グロービス経営大学院では、随時オンラインにて『無料体験クラス』を実施しています。
授業の雰囲気や進め方を知りたい方は、まずはこちらからのご参加をおすすめします。
まとめ
変化の激しい現代において、エンパワメントの重要性は、ますます高まっています。
リーダーの立場にいる方は、「育成」の観点をおさえつつ、ご紹介した5つのエンパワメントの実行プロセスごとのポイントをぜひ意識してみてください。
著者情報
村尾 佳子(グロービス経営大学院 経営研究科 副研究科長)
関西学院大学社会学部卒業。大阪市立大学大学院創造都市研究科都市政策修士。高知工科大学大学院工学研究科博士(学術)。大手旅行会社にて勤務後、総合人材サービス会社にてプロジェクトマネジメント、企業合併時の業務統合全般を経験。現在はグロービス経営大学院にて、事業戦略、マーケティング戦略立案全般に携わる。教員としては、マーケティング・経営戦略基礎、リーダーシップ開発と倫理・価値観、経営道場などのクラスを担当する。共著に『キャリアをつくる技術と戦略』、27歳からのMBAシリーズ『ビジネス基礎力10』『ビジネス勉強力』『リーダー基礎力10』がある。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。