目次
※前回の記事(キャリアインタビュー#1)は、こちら
4.ゼロリセットで人材業界へ
ー学生時代の就活経験により、転職をはじめとする人材サービスを提供するインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社したんですね。
ゼロから始めるなら厳しい方が成長できるだろうということで、当時急成長していたインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社しました。
立ち上げたばかりの横浜支社に配属され、本当にゼロから人生をやり直す気概で、キャリアアドバイザーとして朝9時~23時まで働きました。
つい昨日までは自分の方がキャリアに悩む立場だったのに、転職を考えている「人生の先輩」に、個室で誰も助けてくれない中で相談にのるのは、とても怖かったですね...。
「本当に目の前の顧客に貢献できているのだろうか」という自信を持ち切れず、時間をかけてがむしゃらに働きながら「いかに早く自分なりの価値を高めていくか」を考え勉強しました。
ー自分なりの価値を高めていくために、どのような勉強をしたのですか?
キャリアアドバイザーとしての経験は時間で解決するしかないので、短期的には「知識で勝負しよう」と考えました。顧客は自分の会社や仕事には詳しいのですが、業界全体を俯瞰した目線や他の業種/職種についてはそうではありません。
そこに価値発揮のポイントがあると考え、業界本3シリーズ約30冊を地道に読み込み、自分が語れることを増やしていきました。
すると、顧客の悩みをより深く理解・共感できるようになり、求人の紹介も業界全体の大枠からお伝えできるようになり、結果的に信頼を得て人生の深い話まで聞かせていただけるようになりました。
その生声には本に書いていないリアルな情報がたくさんあり、それがキャリアアドバイザーとしてのさらなる成長を生む好循環に繋がったように思います。
この経験から、単純な行動が予期せぬ突破口になることを学びました。
5.入社2年目、やりたいことをどんどん実践
ー入社2年目ではリーマンショックが起きていますが、幸福度は高めですね...?
幸福度が高い理由は、その時期、自分がやりたいと思ったことを素直に着手できていたからですね。
たとえば、キャリアアドバイザーの大きな仕事の1つに、面接対策があります。
面接の場でしっかり自分を発揮し、企業の面接官に正当に評価してもらうための準備です。
この面接対策も我流でやっていて、「本当にこれで貢献できているのか?」という疑問を持っていました。
同時に、経験の浅いキャリアアドバイザーとしての"付加価値の出しどころ"でもあると考えました。
そこで、経験のショートを知識で補うために面接対策に関連する本を2か月で十数冊読み込み、自分なりに100枚程度のパワーポイントにまとめて使い始めました(いま思えば、重要なポイントに絞ればよかったと思います)。
先輩にも使っていただきながら、最終的には事業部に全体に展開され、マスター資料としてイントラに掲載されました。
思い返すと「価値ある面接対策はどうやるのだろう?」という純粋に探究心に引っぱられた仕事だと思います。
相応の時間と労力を使いましたが、不思議と苦労や疲れはありませんでした。
一方、リーマンショックの影響で、配属された横浜支社は撤退を余儀なくされました。
ポジティブな話ではありませんが、「やることをやっていた」ので動揺なく受け入れられました。
支社設立当初にあった経営上の仮説では、横浜在住で東京で働きたい人をターゲットにしていたのですが、実際にカウンセリングでお会いするのは、横浜で仕事もしたい人ばかり。
ただ横浜には法人(求人)開拓の部隊がおらず、横浜の求人を紹介できず期待に応えられない状態でした。
そこで、webサイトなどに出ている横浜の求人を数百単位でリスト化し「横浜の求人を増やす活動をして欲しい」とリクエストを出していました。
事業企画部からは「やめてくれ」と言われ、今思えば迷惑だったのかもしれませんが(笑)、撤退前には2名の法人開拓担当を配属いただき、結果的に役員からも表彰されました。
同期の話では、いずれも"横浜に変な奴がいる"と社内で異常視されていたようです。
でも、私は自分が信じることは行動した方がいいと思います。
それは他者の評価ではなく、自分の充実感が得られるからです。
ー自分でやりたいと思ったことをどんどん着手できてたので、幸福度は高かったのですね。元からこのような性格だったのですか?
就活時に悩みまくっていたように、元々は石橋をたたいて渡る性格です。
それに、学生時代の就活時まで世間や他者の評価を基準に生きてきた人間なので、持って生まれたものでは性質ではないと思います。
変わった理由は、ゼロからのスタートで「失うものがなくなった」からかもしれません。
大学院までは何か積み上げてきてしまったものがあり、「それを活かしてメーカーに行った方がいいのかも...」などと迷いが生じるのですが、ゼロリセットで身軽になったため、クイックに動けるようになったのだと思います。
就活時の経験でも、「自分がやりたいことを頭で考えても良く分からない」ということが分かったので、直観的にやってみたいと思ったことをひとまずトライし後で振り返ってみる、という方向性で動くことも増えました。
6.希望叶い、イレギュラーな異動
ー入社3年目には、事業企画部に異動したんですね。
「やりたいと思ったことをひとまずやってみる」ということで、キャリアアドバイザーの業務範囲外である求人開拓の要請や面接対策マニュアル作成、転職者のパターン分析などをやっていたのですが、ふと「これを本業にできないかな」と思うようになり、事業企画部に異動願いを出しました。
当時の人事面談では「事業企画部に異動したい先輩は五万といる」とNGを出されました。
組織とはそんなものかと納得しかけていたところ、変なやつだと気にかけてくださっていた当時の上司の上司が動いてくださり(?)、異動することができました。
先日お会いする機会があり、お礼を伝えたら忘れていた(ふりをしていた?)ので、真相はわかりませんが。
ーけっこうイレギュラーな形の異動に見えますね。
そうですね。
よくあるパターンは、実績を出してからの異動でしょう。
自分の場合は本業のキャリアアドバイザーとしては、ひいき目でみても超優秀とは言えませんでした。
やりたいと思ったことを純粋に追求していったら、幸運にも仕事になり、組織にとって価値あることにつながって、イレギュラーにも関わらず偶然ポジションをもらうことができました。
ここでの学びは、やりたいことに素直に向かう行動をすれば、あるべき場所に落ち着くということです。
「異動したい」と思ったら、ポジションをもらう前にその仕事をはじめ、実績を出し、「こいつこの仕事ができるかも」と思わせることができたら、そのポジションに行きやすくなるのは筋が通っているようにも思えます。
7.再び自分と向き合うフェーズに
ー希望の部署に異動した翌年、幸福度が急降下しています。これはなぜでしょうか?
仕事自体はとても充実していて楽しかったのですが、この年の同時期くらいに、東日本大震災と外資系ファンドによる事業買収がありました。
大きな出来事は自分と向き合う機会をもたらします。
好きなことをやってきて幸運にもポジションを得られましたが、自分は本当にこの会社のためになってるのだろうかと考えたり、"ヨソ者"が急にやってきて会社を立て直そうとされていることに無力感を感じる瞬間がありました。
東日本大震災がもたらした無力感とも重なった部分もあったのかもしれません。
ーこの時期は、また自分と向き合う節目だったんですね。
「リーマンショック」「東日本大震災」「外資ファンドによる買収」は大きな節目でした。これらの出来事により、2つの構図を感じました。
1つは、「リーマンショック」の際に感じたもので、「社会が弱くなると、個人もやりたいことができない」ということです。
求人が急激に減ってキャリアの選択肢が少なくなるということは、働く個人の希望が叶わなくなるということ。
2つ目は、「東日本大震災」「外資ファンドによる買収」の際に感じたもので、「組織自体が弱くなると、個人を雇用できない」ということ。
この2つの構図を実感したため、「自分なりに社会や組織を強くすること」が必要だと考えるようになりました。
ー「社会や組織を強くする」とはどういうことでしょう?
産業構造のシフトによる人材の配置転換をするのが転職サービスだとすると、それも重要だけど、配置転換をするそもそもの箱を作れる人(=雇用を作れる人)が増えることが大事だと考えました。雇用の箱がなければどうにもならないからです。雇用を作れる人はリーダー、つまりリーダーの絶対数を増やすことが重要であるという結論に至りました。
社会に最もインパクトのあるリーダー教育をしている組織を探し、グロービス一本で転職活動をし、縁をいただき入社することになりました。
人生の前半は、意思なく漂流してきたのですが、このあたりから、自分の人生の主導権を取り戻し始めていることを感じました。
著者情報
新宅 千尋(グロービス経営大学院 大阪校 スタッフ)
神戸大学理学部生物学科卒業、京都大学大学院生命科学研究科修士課程修了。幼少期より「思考や感情の発生」に興味があり、独学で心理学や脳科学を学ぶ。一方、「内なるものの表現」にも関心があり、10年ほどアトリエ教室に通う。学士/修士課程では脳の再生の基礎研究に従事。新卒で大手総合通販会社に入社後、Webマーケティングチームに配属。心理学や行動学の知識とアトリエ教室で培った感性を融合させ、売上や購入率向上に貢献。その後、社内から「人の力」で会社を強くしていく人材教育領域に興味を持つようになり、次世代のビジネスリーダー育成と輩出を目指す、グロービスに転職。グロービス経営大学院のコンテンツメディア企画チームに所属し、自身のキャリアに悩んだ経験から、グロービスキャリアノート制作・運営に携わる。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。