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働くモチベーションを維持したり、やりがいを持って働き続けるために重要な要素の一つに「成長実感」を挙げる方は多いのではないでしょうか。
一方、入社5年目前後のビジネスパーソンを中心に「最近、真剣に働いているけど、成長実感が薄れてきた」「成長の踊り場に差し掛かっている...」という悩みがちらほらと聞こえてきます。
本記事では、成長実感を持てないと感じた時の対処法について考えていきます。
仕事で成長を実感できている人は、約50%
ビジネスパーソンを対象とした調査『働く10,000人の成長実態調査2017』(パーソル総合研究所)によると、成長したいと考えている20代は78.5%を占めているものの、成長実感できている割合とは58.8%と、理想と現実の間で乖離が生じています。
1日の1/3の時間を費やしている仕事で、約半数の人が成長を実感できていないという現状。
20代の40%以上の人が成長実感を持てていないと言うのは、大変もったいなく感じてしまいます。
【グラフ/データ参照元:働く10,000人の成長実態調査2017】
成長実感とは「差分」を意識すること
ここで、改めて「成長実感」とは何かを定義しておきましょう。
成長実感とは、「ある期間において自分が成長したと思える感覚」です。
つまり、まず成長実感を得るためには、時間軸における始まりと終わりを設定し、その差分(=成長)を意識する必要があります。
成長実感を持つことの2つのメリット
成長実感を持つことのメリットは大きく2つあります。
メリット①:成長に向けた取り組みへのモチベーションになる
これは、多くの方が実感として持っているのではないでしょうか。
成長実感が持てないことを理由に、仕事へのやる気が低下し、成長できる場を求めて転職する方も多くいます。
メリット②:現状把握を正しくアップデートし効果的に成長できる
成長とは、ゴールと現状のギャップを埋めるプロセスです。
出発点である現状を把握すれば、より確からしく効果的な成長の歩みを進めることができます。
成長実感を持てない4つの理由
それでは、なぜ多くの人が成長実感を持てないのか、代表的な理由を4つご紹介します。
理由①:実際に成長していない
成長実感を持つ前提として、まずは実際に成長しなければなりません。
成長せずに思い込みで成長実感を持つこともできますが、それは誤認による気休めに過ぎず、健全な状態とは言えません。
理由②:成長しているのに、本人が認識していない
また往々にしてあるのが、はたから見ると成長しているにも関わらず、当の本人が成長実感を持っていないというケースです。
この状態は、非常にもったいないとも言えます。
例えば私は今、グロービス経営大学院という社会人向けビジネススクールで教鞭をとっているのですが、私たち教員からみれば大きく成長されているのに、学生自身はそう実感していないケースが多々あります。
到達点や学ぶ意欲が高い方ほど、できていない点やゴールとのギャップに目を向けがちなのだと思います。
また、ご本人の性格が非常にストイックな方だったり、理想が高すぎて、「自分はまだまだ」と思っている方も見受けられます。
そこで私は必ず、1講座で全6回開講されるクラスの中盤に、「受講前とのギャップに目を向け、成長を言語化してください」と受講生に伝えます。
そうすることで、成長を客観視し、より正しく認識できるからです。
川の中にいる魚が水の流れを意識しないのと同様に、成長の真っ只中にいる人は自分の成長を実感しにくいのかもしれません。
だからこそ、正しく認識し、意識的に実感することが重要だと考えています。
理由③:社内で成長しても意味がないと思っている
「目の前の仕事を一生懸命にしていれば、成長できないはずがないじゃないか。」
上司からこのようにいわれても、ピンとこないと首を傾けるタイプの方は少なくないと思います。
その背景には、ずっと今の職場で働き続けるわけではない、という前提が見え隠れします。
「独自開発された社内システムにいくら習熟してもなぁ」「業界特有の知識や慣行に明るくなってもなぁ」という言葉の先には、将来は役に立たず、本質的な成長にはつながらないというセリフが続きます。
もちろん、雇用されていますし、自分で今の職場を選んでいるわけなので、目の前の仕事で成果を出すための「組織固有スキル」の習得は不可欠でしょう。
ただ将来の個人的なキャリアを見据えたときに、それだけでは不安だという真っ当な考えだと思います。
理由④:できることばかりが増えても嬉しくない
成長実感が持てない話に決まってあらわれるフレーズは、「別に成長していないわけではないのですが...」です。
その深層には、できることは増えているが「やりたいこと」に繋がっていないジレンマがあります。
つまり、期待する方向に成長できていないということです。
その成長実感の必要性は「強迫観念」から来てないか?
ここまで、「成長実感は必要だ」という前提で話を進めてきましたが、「そもそも成長実感は必要か?」ということも考えてみましょう。
結論を言うと、私は"誰でもいつでも必ずしも"必要だとは思いません。
こちらの記事で紹介したのように、仕事におけるモチベーション(=やる気の源泉)は、人それぞれです。
仕事のやりがいにおいて自身の成長実感を持つことの優先順位が低い人もいるし、「人生の"今"は、成長より優先したいことがある」という時期にいる人もあるでしょう。
今、自分は本当に成長実感を求めているか?
私たちが属している社会は、外部からの成長を求めるプレッシャーが強い社会であることは間違いありません。
しかし、それはみなさんが「成長しなければならない」理由にはなりません。
成長の強迫観念に駆られるくらいなら、いっそ「成長しなければならない」という前提を疑ったほうがメンタル的にも健全な人生を過ごせる場合もあるでしょう。
まずは立ち止まって「今、自分は、本当に成長を欲しているのか?」を冷静に考えてみることをお勧めします。
意思もなく、必要性も感じずに、成長だけを追い求める矛盾は、焦りやモヤモヤへの根本的な解決につながらず、人生の大きな負担になるからです。
成長実感を持つための方法
ここからは、具体的に成長実感を持つための方法をご紹介します。
当たり前ですが、まず「実際に成長していること」が前提となります。
前述した「成長を実感できない理由4つ」のうち、理由②~④の対処法をお伝えします。
【成長を実感できない理由4つ】
- 理由①:実際に成長していない
- 理由②:成長しているのに、本人が認識していない
- 理由③:社内で成長しても意味がないと思っている
- 理由④:できることばかりが増えても嬉しくない
『理由②:成長しているのに、本人が認識していない』への対処法
自分にとっての「成長」を明確にする
「成長」という言葉はくせ者で、何を持って成長だといえるのか、定まっているようで定まっていません。
また、何を自分の成長と捉えるか、人によって認識にばらつきがあります。
なので、まずは「今の自分にとっての成長とは、どのようなことなのか?」を考え、きちんと言語化する必要があります。
つかみどころの無い「成長」が明らかになるほど、成長実感も持ちやすくなります。
3つの軸「Having」「Doing」「Being」
「自分なりの成長を定義せよ」と言われても漠然としているので、3つの軸「①Having」「②Doing」「③Being」をご紹介します。
【①Having】
「結果として何を得るか」です。
「報酬」「評価」「役職」など外部から与えられるものや、「専門性」「スキル」などの能力獲得が該当します。
みなさんは、何を得ることができたら成長を感じられるのでしょうか。
【②Doing】
「なにをやるか」「どのようにやるか」です。
より広い範囲の役割を果たせるようになる、難易度の高い業務を完遂できるようになる。
またより「効率的」にできる、「高い質」でできる、自分が「希望するやり方・進め方」でできるなどが該当します。
みなさんは、どのような行いに成長を感じられるのでしょうか。
【③Being】
「どういう存在になるか」です。
つかみにくい概念かもしれませんが、HavingとDoingが技術的成長と呼ばれる領域に近いとしたら、Beingは精神的成長です。
内面的な成長とも言い換えられます。
何を得るか、何をするかではなく、その主体である自分という存在の成長にフォーカスをあてます。
みなさんは、どのような存在に近づけば成長を感じられるのでしょうか。
20代にとって、Beingの成長は欠かせない
各要素は相互に関連し、3つを厳密に仕分けることは難しいのですが、目的は厳密に仕分けることではありません。
自分なりの成長を定義することです。
目的を見失わずにツールを活用し、皆さんなりの成長を定義する助けにしていただければ嬉しいです。
余談ですが、20代の皆さんと深く対話をさせていただくと、Beingの重要性を語る方が多いように思います。
仕事の効率と質は経験と共に高まり、そこそこのお金と評価を得ているにも関わらず、成長実感に乏しい。
その背景には、HavingやDoingを求め過ぎることでBeingが犠牲になっていることにあるように感じています。
健全な成長を実現するためには、Beingの成長を欠くことはできません。
私が教員を務めるグロービス経営大学院の教育では、高い実践的能力の獲得と同様に、どのような自分で在りたいのかを定める(=志を育てる)ことを大切にしています。
何を得るか、何をするかも重要ですが、主体である自分がどのような存在になるかが、成長実感ひいては人生の充実感を高める鍵を握っているのではないでしょうか。
『理由③:社内で成長しても意味がないと思っている』への対処法
このケースの場合は、特定の会社のみ有効な「組織固有スキル」だけではなく「ポータブルスキル(環境が変わっても持ち運べるスキル)」も同時に磨くことをお勧めします。
ポータブルスキルは、あらゆる仕事で求められる極めてベーシックなスキルです。
例えば、思考力やコミュニケーション力、問題解決力、最近では文章力などもそうかもしれません。
派手さはありませんが、環境変化に強く、身を助けるキャリアの土台を固めます。
そして、ポータブルスキルを磨くことで、「いつでもどこでも」働ける自信も身につくようになります。
?『ポータブスキル』の具体的な鍛え方は、こちら
『理由④:できることばかりが増えても嬉しくない』への対処法
理由②の対処法でも述べたように、成長の方向感は1つではありません。
なので、成長していれば良いわけではなく、自分が期待する方向で成長していないと、私たちは成長実感を持てない、あるいは持てたとしても嬉しくないということでしょう。
ここではやはり、自分なりの成長の定義が重要です。
やりたいことに繋がる成長とは、どのような成長なのか。
その定義が自分の期待を明らかにし、その期待に沿った成長を実現する可能性を高めます。
組織に雇用されている以上、全ての仕事において、自分が期待する成長を実現できるわけではありません。
組織が雇用をするのは、社員が成長できる仕事をやってもらうためではなく、今存在する仕事、あるいはこれから必要となる仕事をやってもらうためだからです。
それでも、成長の期待を明らかにすれば、仕事にそれを見出すことや、それを実現できる可能性の高い業務を自ら獲得しに動ける可能性は高まります。
まとめ
今回は、輪郭がつかみにくい「成長実感」について考えてきました。
結局、成長実感とは「自分が目指す成長にむけて、確かな歩みを認識できている状態」でこそ得られるものなのでしょう。
成長実感を得るためには、何よりもまず、「成長」について考えることです。
「そもそも自分は、本当に成長を欲しているのか?」という根源的な問いに始まり、「今、自分はどんな成長を求めているのか?」を明らかにすることが重要です。
著者情報
中村直太(グロービス経営大学院 教員)
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修士課程(工学)修了。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア)にて約1,000名のキャリアコンサルティングを経験した後、事業企画にてサービス企画、営業企画、BPRなどを担当。その後、グロービスに入社。グロービス経営大学院のマーケティング(学生募集)企画、名古屋校の成長戦略の立案・実行や組織マネジメント、アルムナイ・キャリア・オフィス(卒業生向けサービス企画)や学生募集チームの責任者などを経て、現在は顧客コミュニケーション設計やセミナー開発・登壇、WEBコンテンツ企画・執筆など様々な事業推進活動に従事。同時に個人としては、人生の本質的変化を導くパーソナルコーチとして活動。グロービス経営大学院の専任教員としては、思考系科目『クリティカルシンキング』、志系科目『リーダーシップ開発と倫理・価値観』に登壇。また、キャリア関連プログラムのコンテンツ開発及び講師を務める。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。