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働き方やキャリアの選択肢が増える一方で、コロナの流行など予測不可能なことが次々と起こる現代。
先行きが見えない中、自分の向かう先やキャリアの正解が分からず、お手本となる「ロールモデル」が欲しいと思う方は多いのではないでしょうか。
一方で、キャリアセミナーに登壇した際の質疑応答では、このような意見や疑問をいただきます。
「ロールモデルにしたい先輩や上司がいなくて困っています。」
「ロールモデルにとらわれず、自分らしく生きたいです。」
「そもそもロールモデルは必要なのでしょうか?」
この記事では、20代の若手社会人がロールモデルを持つメリットと見つけ方をご紹介します。
ロールモデルは不要?必要?
ロールモデルの必要性に関して様々な意見がありますが、私は「場合による」という答えです。
ロールモデルとは
まずロールモデルとは、一言でいうと、自分がプラスの方向に向かうための「お手本」となる人のことです。
自らのキャリア実現や目標達成、成長や行動を促進するにあたり模倣・学習をする対象となる人のことを指します。
すでに理想のイメージが鮮明であれば不要
ロールモデルを持つ意義は、より鮮明に描いた理想のほうが目指しやすいからです。
なので、既に自身の中で鮮明な理想が描けていれば、ロールモデルは不要となります。
早い成長を望む人には必要
ただ、まだ自分の理想があいまいであったり、具体的に描けてない方にとっては、ロールモデルを持つことは大きなメリットがあります。
経験が浅いほど見えている世界は狭いので、すでに経験を積んでいる人をお手本にすることは、自分の視野や可能性を拡げてくれます。
頼れる他者を安易に排除する理由もないし、仮に皆さんが今より早く成長したいと考えるのであれば、使える手段は全て使ったほうが良いと思います。
20代にこそロールモデルが有益である4つの理由
若手社員がロールモデルを持つべき理由を4つご紹介します。
理由①:具体的な目標となり、アクションプランを立てやすくなる
1つ目の理由は、ロールモデルが「具体的な目標」となり、アクションプランを立てやすくなることです。
社会経験が少なく、自らの価値観が定まり切らない20代の時期に、鮮明な未来の理想像を描ける人は多くありません。
以前、こちらの記事でキャリアプラン作成ステップを紹介した際に、キャリアプランは「なりたい自分(理想)」と「現状の自分」のギャップを埋めるためのアクションプランだと述べました。
「なりたい自分」は具体的であるほど、アクションプランも立てやすくなりますが、ロールモデルは実際の人物なので、鮮明に理想イメージを描くことができます。
そして、身近な人をロールモデルとした場合は、「どのようなアクションを取ることで実現できたのですか?」と聞くこともできるので、プランを立てるヒントを得ることもできます。
理由②:変化(成長)への心理ハードルが下がる
多くの場合、私たちはロールモデルとして、今の自分と「ある一定以上の差を感じる人」を選びます。
「ロールモデルにしたい」という感情は、「憧れ」の気持ちから生じるので、現状の自分とほとんど差のない人に対しては、あまり「憧れ」の気持ちは抱かないからです(親近感や共感などの気持ちは抱くかもしれませんが)。
その結果、ロールモデルに近づこうとすると、自然と「非連続な成長」を自分に課すことになります。
また、ロールモデルの隠れた良さは、変化に対するストレスを和らげる効果があることです。
人間は、「現状維持をしたい」という防衛本能があるため、変化に対して抵抗を感じ、自分で自分に「成長」を課し変化を成し遂げていくことは、簡単なことではありません。
しかし、ロールモデルという「理想の自分を実現している未来」を具現化した人の存在により、変化への心理ハードルを和らげ、ポジティブに変化ストレスを乗り切ることができるようになります。
理由③:傲慢になる自分を見つめ直し、感謝できる
若い時期に、脇目も振らず自分が求める道を突き進むのもよいでしょう。
ただ、自分が想像している以上に、私たち一人ひとりが見ている世界は狭いものです。
私が講師を務めるグロービス経営大学院でも、多様なバックグランドの社会人の方が集まっていますが、学びを始められた皆さんが口を揃えていうのが、「自分の視野は狭かった」という言葉です。
成長とは、自分の中に他者(=これまでの自分になかったもの)を取り込むことです。
多様な他者に関心を寄せることなく、我流で突き進むと、視野の狭い自分になってしまいます。
結果として、上司や先輩から「学ぶことは何一つない、何一つ学ばせてもらっていない」という傲慢な自分を育ててしまうことになりかねません。
「反面教師」として学ばせてもらう機会を含めると、何一つ学ぶことがない他者は存在しないはずです。
もし仮にそう思い込んでいる自分がいたら、学ばせてもらっている事実を見つめ直し、さらには「自分はこの人から、何を学ぶことができるのだろうか?」という能動的な姿勢で向き合ってみることで、成長の機会が広がります。
おまけに、周囲に感謝する気持ちも湧いてくるので、良好なコミュニケーション構築を築くことにもつながるのではないでしょうか。
理由④:自分の理想に対する自己理解が深まる
ここでみなさんに質問です。
5人の「憧れの人」を、頭に思い浮かべてみてください。
職場の人でも歴史上の人物でも、マンガのキャラクターでも自由な発想で大丈夫です。
次に、その5人をそれぞれなぜ選んだのかを考えてみましょう。
「全人格的に尊敬しています」という場合もあるかもしれませんが、多くの場合は「部分的な要素」で選んでいるのではないでしょうか。
どの部分でロールモデルを選んだかを知ることは、自分がどのような要素を重要視しているかを理解することに繋がります。
また逆に、どのような要素では選ばないのかを理解することも、自己理解において有益です。
ロールモデルに選ぶほどの人物のなかで、自分が目指したくない部分があるとしたら、それは重要な事実なのでしょう。
余白が強調したい要素を際立たせるように、「そうではない」要素が「そうである」要素を明らかにします。
ロールモデルの見つけるためのポイント3つ
ポイント①:すでに周囲の人をお手本にしている可能性もある
望む望まずとは関係なく、人は無意識に、周囲の人から影響を受けながら生きています。
たとえ、ロールモデルだと正式に認定していなくても、無意識に周囲の人をお手本にしていることは大いにあります。
ぜひ自分のふだんの行動などを振り返ってみてください。
ポイント②:ロールモデルとなる対象は自由
それでは、一般的にどのような人がロールモデルの対象になるのでしょうか。
キャリアセミナーでよく聞く答えをまとめると、「職場の上司」「職場・職場外の先輩」「目指すキャリアの体現者」「歴史上の偉人」などがよく挙がります。
そして、個性が際立っていて投影しやすいからか、最近は、マンガのキャラクターを挙げる方も多くなりました。
要するに、ロールモデルの対象は誰でもいいのです。
身構える必要はありません。
自分が模倣したい、参考にしたいと思った人をどんどんロールモデルにしてしまえばいいのです。
ポイント③:「モザイク型ロールモデル」がおすすめ
また、ロールモデルは複数いてもかまいません。
むしろ完璧な理想の人物はいないので、複数人の憧れる部分をつぎはぎで目指す方が、自身としても納得度の高い自然な目標になるのではないでしょうか。
あるセミナーを聴講した際に、ある特定の一人ではなく、複数人の組み合わせをロールモデルとする考え方を「モザイク型ロールモデル」と表現していました。
価値観も働き方も多様化した現代において、多くの方にしっくりくる考え方ではないでしょうか。
オリジナルなアイデアというものは、既存要素の組み合わせから成ります。
「オリジナルな自分=自分らしさ」を追求するために、ロールモデルを組み合わせる発想は悪くありません。
加えて私は、ロールモデルの対処として後輩(自分より若い方)にも目を向けるようと提案することがあります。
他意はなくとも、無意識に後輩を除外してしまう傾向にあります。
常識や価値観が目まぐるしく変わる時代こそ、自分より若い人から健全に学ぶ姿勢が問われます。
まとめ
ロールモデルがご自身の成長に有益であるなら、積極的に活用してみることをお勧めします。
有益だと思えなかったとしても、「自分の世界は狭い」「成長の機会を広げたい」という実感や想いをお持ちであれば、試してみる価値があります。
遠くない未来に、ご自身がロールモデルとして他者に良い影響を与える未来が訪れるはずです。
そのときまでに、他者から学べることは全て学んでおくことが大きな助けとなることでしょう。
著者情報
中村直太(グロービス経営大学院 教員)
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修士課程(工学)修了。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア)にて約1,000名のキャリアコンサルティングを経験した後、事業企画にてサービス企画、営業企画、BPRなどを担当。その後、グロービスに入社。グロービス経営大学院のマーケティング(学生募集)企画、名古屋校の成長戦略の立案・実行や組織マネジメント、アルムナイ・キャリア・オフィス(卒業生向けサービス企画)や学生募集チームの責任者などを経て、現在は顧客コミュニケーション設計やセミナー開発・登壇、WEBコンテンツ企画・執筆など様々な事業推進活動に従事。同時に個人としては、人生の本質的変化を導くパーソナルコーチとして活動。グロービス経営大学院の専任教員としては、思考系科目『クリティカルシンキング』、志系科目『リーダーシップ開発と倫理・価値観』に登壇。また、キャリア関連プログラムのコンテンツ開発及び講師を務める。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。