効率的な部下の育て方とは?ポイントや指導方法を紹介

効率的な部下の育て方とは?ポイントや指導方法を紹介

目次

管理職にとって部下育成は最も重要なミッションの一つですが、「部下がなかなか育たない」「指導に時間を取られて疲弊している」といった悩みを抱える方は少なくありません。
本記事では、部下育成の目的を再確認し、現代の課題を踏まえた効果的な指導の論点、具体的な手法、そしてグロービスで体系的に学べる知識・スキルについて解説します。

部下育成とは何か

部下育成とは、単に業務スキルを教えることではなく、部下自身の能力を引き出し、自律的な成長を促すことで、組織全体の成果最大化を目指すマネジメント活動です。

部下育成における問題点

多くの組織で、上司がプレイヤー視点から抜け出せず、部下の仕事を「巻き取る」傾向が見られます。
また、指導が属人化し、体系的な知識やスキルがないまま感覚的に行ってしまうことが、育成の非効率性を生む大きな問題です。

多忙な上司が陥りがちな課題

上司側の課題として、短期的な成果を優先するあまり、
部下の成長プロセスに時間をかけられない点が挙げられます。
これにより、部下の主体性や内発的な動機付けが損なわれる結果となりがちです。

部下側の受け身姿勢やモチベーションの多様化

最近の若手層は、仕事に求める価値観が多様化しており、「指示待ち」の姿勢も散見されます。
一律の指導では響かず、一人ひとりの動機やキャリア志向を理解した個別対応が求められます。

部下の育て方

部下を育てる上で重要なのは、彼らが自ら考え、行動し、困難を乗り越えられるように支援することです。上司は、知識や答えを与えるのではなく、気づきを与える「触媒」の役割を果たすべきです。

部下の潜在能力を引き出す「問いかけ」

部下育成の極意は、上司が答えを教える「ティーチング」から、部下に考えさせる「コーチング」へのシフトです。

特に、部下が自ら問題解決できるようになるには、「問いかけ」が重要です。
「この課題の本質は何だと思う?」「あなたならどうアプローチする?」といった問いを投げかけ、
思考を深掘りさせましょう。

このプロセスを通じて、部下は仕事へのオーナーシップを持ち、結果的に自律性が育まれます。
対話を通じて信頼関係を築き、心理的安全性を確保することも、主体的な行動を促す土台となります。

能力と意欲に応じた適切な「任せ方」

部下の成長段階に応じて、仕事の任せ方を変える必要があります。

スキルや経験が未熟な段階では、具体的な指示と進捗の確認(デリゲーション)が必要ですが、
能力が向上するにつれて、裁量を増やし、チャレンジングな目標を与える(エンパワーメント)ことが重要です。

重要なのは、ただ仕事を振るだけでなく、その仕事の目的や組織における位置づけを丁寧に説明し、意欲を高めることです。

失敗を恐れずに挑戦できる環境を用意し、プロセスを褒め、結果に対する建設的なフィードバックを欠かさないようにしましょう。

キャリア支援と成長の機会提供

現代の部下育成には、業務遂行能力だけでなく、部下のキャリア全体への関与が求められます。

上司は、部下が目指す将来像や価値観を理解し、その実現に向けた具体的な成長機会を提供する必要があります。
たとえば、現行業務では得られない経験を積めるジョブローテーションの提案、社外研修への参加推奨などが該当します。

また、部下が自身の強みと弱みを客観的に把握できるよう、定期的なフィードバックと目標設定のすり合わせを行うことが、長期的な視点での人材育成につながります。

上司に必要不可欠な能力・スキル

部下育成を成功させる上司には、「知(思考力)」「情(リーダーシップ)」「意(志)」の三位一体の能力が求められます。特に、部下の成長を導くための高度な「思考力」と「対話力」は不可欠です。

論理的に構造化し本質を見抜く思考力

物事を構造的に捉え、複雑な課題の本質を見抜くロジカルシンキングは、部下への的確な指導や、部下が立てた計画の妥当性を評価する上で、上司の必須スキルです。

多様な部下のモチベーションを引き出す力

部下一人ひとりの価値観を理解し、彼らの内発的な動機に働きかける力、すなわち「リーダーシップ」と「共感力」が、自律的な成長を促す上で極めて重要です。

戦略的な目標設定と進捗管理能力

組織の戦略目標をブレイクダウンし、部下個人が納得感を持って取り組める目標を設定する「目標管理能力」と、適切に軌道修正できる「進捗管理能力」が求められます。

相手の成長を支援するコーチングスキル

部下との対話を通じて、部下自身に気づきを与え、解決策を引き出す「コーチング」は、部下育成における最も汎用性の高いコミュニケーションスキルです。

信頼関係を築き、リスクを受け入れる胆力

部下を育成するには、部下の失敗を許容し、彼らの挑戦を後押しする心理的安全性を担保する「胆力」が必要です。これにより、部下は安心して高い目標に挑戦できます。

部下を育成する手法

部下育成には様々な手法がありますが、OJT(On the Job Training)を基本としつつ、Off-JT(Off the Job Training)や自己啓発(SD)を効果的に組み合わせることが鍵となります。

OJTを効果的に行うためのポイント

OJTは最も身近な手法ですが、放置や丸投げは禁物です。
OJT担当者への明確な目的意識の共有と、定期的なフィードバックの機会を設けることが重要です。

業務を通じて成長を促すOJTとデリゲーション

OJTを成功させるには、単なる作業指示で終わらせず、部下の能力をストレッチする適切な難易度の業務を選定し、権限を委譲(デリゲーション)することです。

権限委譲の際は、目的、期待される成果、最終的な責任の所在を明確に伝えることが、部下の自覚と成長につながります。

集合研修やeラーニングを活用したOff-JT

Off-JTは、業務から離れて体系的に知識を習得させる点で有用です。
特に、思考力やマネジメントの原理原則など、現場でのOJTだけでは教えにくい普遍的なスキルを学ぶのに適しています。
eラーニングは時間や場所を選ばず、自己啓発を促進する上でも効果的です。

内省を深め自己成長を促すメンタリング

メンタリングは、キャリア形成やメンタルヘルスも含めた幅広い相談を通じて、部下の内省と成長をサポートする手法です。

直属の上司とは別の、経験豊かな先輩社員(メンター)が支援することで、部下は安心して自身の課題や悩みを共有し、自律的な成長を加速させることができます。

部下育成のための自己啓発(SD)の推奨

部下育成の最終的なゴールは、部下が自ら学び成長する習慣を身につけることです。
そのため、上司は読書やセミナー参加など、自己啓発(Self-Development)を促し、必要なリソースを提供する役割を担うべきです。

部下からどうみられてる?信頼される上司の特徴

部下の育成には、日ごろからのコミュニケーションが大事です。
そして、良好な関係性を構築していくためには、部下からの信頼を得ることが欠かせません。
信頼される上司には共通点があります。
「少しおろそかになっているかも...」という方は、部下側からもどうみられているかを意識して、改善していきましょう。

<信頼される上司の特徴>
・部下の意見や価値観を否定せず、受容力がある
・部下の話を真剣に聞く
・ミスをしたら謝罪する
・きちんと評価する
・仕事ができる
・専門知識やスキルが高い
・実績がある
・勇気と責任感がある
・人柄が良い
・口先だけでなく、約束をちゃんと守る

部下を育成するうえで重要な5つのポイント

ポイント①:まずは自分の本心と向き合う

部下の育て方と言っても、相手がいることなので非常に難しです。
だからこそ、まずは「部下の育成が大事である」という認識を、強く持つことからスタートしましょう。
最近の会社では、チームリーダーであったとしても、体半分はプレイヤーであることが往々にしてあります。
いわゆる「プレイングマネージャー」という状態です。
これは、とても難しいポジションでもあります。
なぜなら、プレイヤーは、プレイヤーとして評価されたいからです。
営業のチームリーダーであった場合、「自分が培ってきたノウハウを部下や後輩に教えて、彼らの成績の方が良くなったらどうしよう」などと考えてしまいます。
そうなると、頭では育てなければならないと思っていても、ノウハウの出し惜しみが生じてしまいます。

表向きには部下を育成したいと思っているけれど、裏向きには育成したくないとも思っている。
ここに、大きな心のハードルが存在します。
まずは、裏の自分(自分の本心)と向き合うことからスタートしてみましょう。

ポイント②:ゴールを明確にする

自分の本心と向き合うことができたら、「どういう状態になると部下を育てたことになるのか」について、考えてみましょう。
例えば、「部下が言われたことしかやらない」というケースの場合、「言われたことだけをきっちりとやってくれさえすればいい」という考え方の上司にとっては、実は悩みにはなりません。
悩みが発生するのは、上司側に「言われたことしかやらないのでは困る」という前提がある場合です。
そのため、「自分は部下をどういう状況にしてあげたいのか?」とゴールをきちんと明確にしましょう。
ゴールイメージがあいまいだと、なんとなく目についたところにモヤモヤして注意してしまったりなど、行き当たりばったりの対応になってしまいます。

ポイント③:部下の「経験・能力・やる気」の3点を把握する

次に大事になってくるのが、「部下のことを、自分はどれだけ理解しているか?」ということです。
よく「良い怒り方やほめ方はどのようにしたらよいのか」と質問されますが、テクニカルなことよりも、まずは相手のことをきちんと理解することが大事です。
そこをすっ飛ばしてしまうと、うまくはいきません。

例えば、初めて会う子供に何かを教える時に、子供が何を分かっていて、何を分かっていないのかを全く知らないままで、その子に何かを教えることは難しいですよね。
しかし、大人が相手だと、無意識に自分の前提で話を進めてしまって、「あれをやれ、これをやれ」となりがちです。
改めて考えると、これまでに何を経験してきたのか、何を勉強してきたのかなど、一人ひとり異なりますよね。
そこを理解していなければ、部下の立場からは、受け止められるものもあれば、受け止められないものも出てくるでしょう。

育成をする際には、「経験」「能力」「やる気」のポイントに分けて、今育てようとしている後輩のことをイメージしてみましょう。
この3つを押さえておかないと、的外れな指導になってしまうことがあります。
例えば、経験不足でうまくいっていない部下に対して、「あなたはやる気がないよね」といくら怒ってみても、正しい解決にはつながりません。
経験不足が原因だったら、まずは経験を積ませることが大事です。
また、ある分野の能力が欠けている部下に、経験だけを積ませていても、できるようになるのかといえば、できないままかもしれません。
この場合は、経験をさせるよりも、能力を伸ばすような研修に行かせてあげることの方が、より効果的である可能性があります。

ポイント④:仕事を任せ、適切にサポートする

具体的なメンバーの育成においては、仕事を任せていくことが、とても大切になります。
もちろん、仕事を任せられる状態になるまでには、手取り足取り指導する期間もあるでしょう。
子供が水に顔をつけられるようになったらプールに入れてみて泳がせるという状況と、近いかもしれません。
そして仕事を任せたら、メンバー自身が自ら考えて仕事を行うことができるように仕向けます

ここでよくありがちなのが、放置してしまうというものです。
仕事を任せて自分で考えさせつつも、こちらが適切にサポートすることが大切です。
表向きにはあまり口を出さず、後ろからきちんと見ていてあげるといった具合です。

そして、出てきた結果をフェアに評価し、次につながるようにフィードバックをした上で、さらなるチャレンジを課す。
こうしたサイクルがうまく回った人は、成長のサイクルへ入って行くことができるでしょう。
当然のことながら、以上の内容は、育つ側に「育ちたい、成長したい」という意欲があることが前提となります。

こうした、リーダーがメンバーに「実行プロセスにおける意思決定の権限と責任」を付与し、育成していくことを『エンパワメント』と言います。
リーダーシップを学ぶうえで欠かせない概念の1つです。
こちらの記事で、詳しいエンパワメントの実行方法やコツを紹介していますので、ぜひ合わせてお読みください。

関連記事

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エンパワメントとは?組織や個人にとって重要な理由と実行プロセス リーダーシップを学ぶうえで欠かせないエンパワメントの実行プロセスとコツについて紹介します。

ポイント⑤:自分自身も成長する

育成という観点では、リーダー自身が成長することも極めて重要です。
さらに大きな責任を持つリーダーになるためには、自分自身を成長サイクルに入れることが大切です。
チームリーダーを任せられた以上、チームの運営を自分で考えられるようにならなければなりません。
一方、上司からのサポートや評価を素直に受け止めることも大事です。
そして、フィードバックを活かしさらなるチャレンジを自分から取りに行くことで、さらに仕事は任せてもらえるようになります。
こうした成長のサイクルに自分を入れつつ、メンバーもサイクルに入れてあげましょう。
自分とメンバーの2つの成長サイクルが同時に回っているイメージです。

困ったら、外部の機関で学ぶのも1つの手

人材育成やマネジメントに必要なスキルを本当の意味で身につけるためには、やはり書籍や動画学習などの独学では、限界があります。
より実践的なスキルを習得したいという方は、こうした外部の機関で学ぶというのも1つの手です。

たとえば、国内最大のビジネススクール・グロービス経営大学院では、これからの時代に求められるリーダーのあり方や考え方、スキルを広く学ぶ『組織行動とリーダーシップ』という講座があります。
オンラインクラスもあり、20~30代の若手リーダーからミドルマネージャーまで、全国から幅広い年齢層&職種のビジネスパーソンが参加されています。
講座は2週間に一度、計6回の開催。
3ヵ月でかなり思考の仕方が変わりますので、ぜひ検討してみてください。

(▼講座の詳細はこちら)
『組織行動とリーダーシップ』講座

また、グロービス経営大学院では、随時オンラインにて『無料体験クラス』を実施しています。
授業の雰囲気や進め方を知りたい方は、まずはこちらからのご参加をおすすめします。

部下育成に役立つクリティカル・シンキングとは

クリティカル・シンキング(批判的思考)とは、物事を鵜呑みにせず、「本当にそうか?」と問いを立て、論理的に深掘りする思考法です。

上司がこのスキルを持つことで、部下の報告や提案の論理的妥当性を正確に評価し、本質的な課題解決に導けるようになります。

また、部下自身にこの思考法を指導することで、自律的な問題解決能力を養うことができ、質の高い部下育成につながります。

(参考:【超図解】クリティカル・シンキングとは?身につける方法を解説

グロービス経営大学院でビジネススキルを身に付けよう

グロービス経営大学院では、部下育成の土台となる「ヒト・モノ・カネ・チエ」の知識と、創造と変革を推進するリーダーシップを、経営学修士号(MBA)の取得を通じて体系的に学べます。

現役の経営実務家が教鞭を執るため、単なる理論に留まらず、現場で即戦力となる実践的なスキルが身につきます。

自己の変革を起点に、組織全体の育成力を高めたい方に最適な学びの場です。

(参考:グロービス経営大学院のトライアルクラス情報

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まとめ

部下育成は、単なる業務指導ではなく、上司自身のマネジメント能力を成長させる機会です。

本記事でご紹介したように、育成の基本を押さえつつ、部下との信頼関係構築、個別最適な目標設定、そしてコーチングを活用した自律的な成長支援が鍵となります。

また、グロービスの学びを通じて、不確実な時代を勝ち抜くための「創造と変革」を実現できる、真のリーダーシップを確立してください。

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著者情報

田久保善彦(グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長)

田久保善彦(グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長)

慶應義塾大学理工学部卒業、修士(工学)、博士(学術)、スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所にて、エネルギー産業・中央省庁・自治体などを中心に、調査、研究、コンサルティング業務に従事。現在グロービス経営大学院にてマネジメント業務・研究等を行なう傍ら、リーダーシップ開発系思考科目の教鞭を執る。著書に『ビジネス数字力を鍛える』『社内を動かす力』、共著に『キャリアをつくる技術と戦略』、27歳からのMBAシリーズ『ビジネス基礎力10』『ビジネス勉強力』『リーダー基礎力10』等がある。

※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。

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