業界に新しい風を吹かせる

テクノロジーで今までにないサービスを作る

事業とともに
育まれた「志」。
お客さまの人生に
大切な時間を創る。

株式会社CaSy(カジー)

代表取締役COO

池田 裕樹さん

グロービス経営大学院2013年卒業

グロービス経営大学院で偶然出会った3名が、2014年に立ち上げた株式会社CaSy。長年イノベーションがなかった家事代行サービス業界にIT技術を持って参入し、低価格・高品質のサービスを提供し、注目を集めています。さらに2022年には、創業9年にしてIPOを達成。出会いから今日までの道のりについて、創業者のひとり、池田さんに話を伺いました。インタビューから見えてきたのは、時間の大切さに気付いたからこそ、不安の中でも前へ進み続ける池田さんの人生観でした。

Share

「家事代行サービス」を
通じて時間を創り、
笑顔を増やす

池田さんはCaSyの創業者のおひとりですが、改めて会社の特徴について教えてください。

CaSyでは、主に掃除や料理などの家事代行サービスを提供しています。家事代行サービス自体は20年以上前からありましたが、これまではサービス開始前に、コーディネーターと呼ばれる仲介スタッフがヒアリングを実施し、家事を依頼したいお客さまと家事を提供するキャストのマッチングをおこなうことが一般的でした。

そのため、サービス開始まで2週間近くかかったり、人件費がかさんで高価格なサービスになってしまうなど、家事代行サービスは日本の一般家庭ではなかなか普及しない状況でした。そこでCaSyでは、マッチングにITを導入。中間コストを省くことで、相場の約半分までに価格を抑えることができました。また、独自のアルゴリズムによって約7割の依頼を3時間以内にマッチングすることが可能です。

一方で、僕たちは単に便利な家事代行サービスを提供したいわけではありません。ミッションに「大切なことを、大切にできる時間を創る。」と掲げているように、本当に提供したいものは時間です。僕自身も家事は得意ではありませんが、苦手なことは得意な人にお願いして、できた時間をもっと大事にしたいことや、大切な人との時間につかう。それがあたり前になれば、世界中の家庭にもっと笑顔が増えると思うんです。

人生を賭けてもいい
と思えた、101個目の
アイデア

CaSyはグロービス経営大学院の科目「ベンチャー・キャピタル&ファイナンス」で出会った3名で立ち上げた会社ですよね。池田さんはもともと起業を考えて入学されたのでしょうか?起業に至るまでの経緯を教えてください。

入学当初から起業を考えていたといえば「NO」ですね。憧れみたいなものはありましたけど、現実的なプランとして思い描いていませんでした。僕は2003年就職組。ちょうど世の中の仕組みがITに置き換わり始めていたころだったので、IT業界に身を置けば、新しい価値を生みだすような仕事に携われるんじゃないかと考えて、ITベンダーに就職しました。でも、エンジニアから見える世界は、思っていたよりも狭くて、世の中にインパクトを与えるためには経営側に近づく必要があると感じていました。

そんな中、ブログブームが到来して、いろいろな人が自分の情報を発信するようになると、「今度、会社を作ります」と言う同世代もたくさんいることを知って、「自分はこのままでいいのか」という焦りがどんどん大きくなってきたのです。「現状から抜けだすキッカケが欲しい」。それがグロービス経営大学院に入学した理由です。

グロービスで受けた授業のひとつに「ベンチャー・キャピタル&ファイナンス」があって、そこでたまたま同じテーブルに座ったのが共同創業者となる加茂と胡桃沢でした。授業では、新規事業のビジネスプランをプレゼンします。「俺、納豆好きだから納豆専門店はどう?」とか、みんな気ままにアイデアを出し合い、僕はSNSをつかったコンシェルジュサービスのようなことを考えていましたね。このときも「家庭で過ごす時間の価値を高められないか」と、CaSyのミッションと近い考えをもっていましたが、家事代行という発想はありませんでした。

実は、家事代行は100個くらいアイデアを出し切った後に絞り出した一案でした。もともとまったく別のビジネスを考えていたのですが、プレゼン本番の2週間前に担当の教員に2つに絞ったアイデアのうちどちらがいいか聞きに行ったら、2つとも玉砕してしまったんです。教員から「ビジネスを通してどういう人を助けたいのか、どういう世界を創りたいのか、その辺りから考え直してみては?」とアドバイスをもらって、そこから時間の価値を高めるという原点に戻って練り直したのが家事代行サービスでした。

プレゼンでも評価いただき、僕たちもかなり熱が入っていたので、授業で作ったビジネスプランを持って、卒業から半年後に起業しました。計画的な起業というよりは、勢いだったと思います。

かけがえのない時間を、
誰もが大切につかえる
世の中にしたい

2週間でアイデアを練り上げて卒業半年後に起業とは、一気に人生が動きましたね。起業を想定していなかったのであればなおさら勇気が必要だったと思いますが、なぜそんなに大きな決断ができたのですか。

家事代行サービスを考えるきっかけは、加茂が実際に家事代行サービスを利用していたことからでしたが、僕自身もこの事業をやりたいと思った背景にはある原体験があります。 エンジニアをしていたころはシステム公開前になると忙しくなり、家族との時間を十分に取れないことがよくありました。せっかくの週末も、平日にたまった家事におわれ、家族そろって出掛ける時間がとれないこともありました。子どもはすぐに大きくなってしまうので、一日一日が本当にかけがえのない時間。仕事が忙しいことが理由で、その大切な時間を失うことに歯がゆさを感じていました。

そうした中で2011年に、東日本大震災が発生しました。昨日まであった生活が一瞬でなくなってしまうのを目の当たりにして、すごくショックを受けました。長く続く人生は、1秒1秒の積み重ねであって、あの時間を取り戻したいと思っても、戻すことはできない。時間の大切さに気付かされましたし、その大切な時間をどうつかうのかすごく考えるようになりました。

この気付きは、家事代行サービスのことだけでなく、自分自身の人生においても当てはまることでした。このままエンジニアとして10年20年過ごす未来と、せっかく生みだした起業の種を育てていく未来、どちらに自分の時間をつかいたいか考えたときに、後者を選ぼうと思いました。先が見えない不安は当然ありましたが、仮に失敗したとしても、得られる経験の大きさは計り知れない。それにグロービスのハードなカリキュラムをやり切ったんだから「この先どんな人生になっても、乗り越えられないものはない」という妙な自信もありました。

たくさん課題がある
ということは、たく
さん成長できるとい
うこと

会社が成長するまでにいろいろな困難を乗り越えてこられたと思います。これまでで最も大変だったことについて教えてください。

家事の苦手な男3人が想いだけで立ち上げた会社ですし、やったことのないことばかりで、どっちを向いても壁だらけでしたね。とくに最初のうちはノウハウもなければ、お金も時間も人も、すごく限られたリソースしかない。その中で「オペレーションどうするの?」「会社をどうしていくの?」と抽象度の違う課題が次々に降り掛かってくるんです。資金がショートしかけて、役員報酬を数ヶ月止めたこともありました。その時々で「どうしたらいいんだ」と苦しんでいましたが、ベンチャー企業に課題は付き物。成長のチャンスが多いことの裏返しでもあるんです。実際、困難を乗り越えるたびに強くなっていて、あれだけ大変だったことも、今振り返ればどれも大したことなかったように思えるんです。

ただ、そうした中でも2019年ごろに一気に人が退職した時期があって、そのときはすごく苦しかったですね。上場が具体化していく中で、みんなにとって働きやすく、やりがいのある会社になりたいと考えながらいろいろと整備を進めていました。その一環として行動指針を考え、新しくルールを作って社内に発表したのですが、「あわない」と考える人もいて、残念ながら3分の1くらいの方がCaSyを去りました。中には、会社が苦しかった創業時から一緒に歩んでくれていた方もいて、これまでの感謝と、自分の想いが届かなかった悔しさでやりきれない気持ちになりました。

今にして思えば、もっとうまく伝えられたのではないかと反省しています。それ以来、経営陣の想いはなるべくオープンにするように心掛けています。また、ミッション・ビジョン・バリューについてももっとみんなで共有や実践ができるように、採用基準や人事評価制度に反映するなど、組織づくりにも力を入れています。

「苦手は得意な人にお願い
する」を当たり前にして、
時間の価値を高めたい

最後に、今後のビジョンについて教えてください。

2022年2月22日に、CaSyは家事代行サービスの会社として初めてIPO(新規株式公開)を達成しました。IPOに踏み切った背景には、CaSyの信頼度を高めることで、より多くのお客さまに安心してサービスを利用してもらいたいという想いと、家事代行業界そのものの認知度を上げたいという狙いがあります。お客さまの時間を創るという軸はぶらさず、今後は家事代行から派生して、ベビーシッターや訪問介護などへサービスを拡大していく計画です。

女性活躍の促進や、コロナ禍で時間のつかい方に対する意識が高まってきているなどの追い風もあり、お客さまの登録者数は約13万人まで増えました。その一方で、家事を人に任せることは申し訳ないと考えている方もまだまだ多いように感じます。

僕たちが事業を発展させていくことで、苦手なことを得意な人にお願いすることが当たり前な世の中にしていきたい。申し訳ないと思うのではなく、その分、得意なことで誰かの苦手を助けてあげる。その連鎖が生まれたら、世の中の時間の価値はどんどん高まると思います。それがCaSyを通じて成し遂げたい世界、僕の「志」ですね。

グロービスでは在学中に「志」を固める人たちもたくさんいましたが、僕の場合は、事業を進めていく中で育まれたように感じています。起業当初は、目指す方向こそなんとなく決まっていたものの、先のことまでは正直見えていませんでした。でも、一歩踏み出せば、お客さまやキャストの話、新しく体験したことの中から、次にやりたいことが見えてくる。そしてまた一歩踏み出せば、新しい刺激を受けて次に進む道ができる。そうやって、徐々にやりたいことが抽象化されて「時間の価値を高めたい」という「志」へ辿り着きました。起業から今日までいろいろありましたが、全ての経験が自分を成長させてくれたなあ、と。

また、組織の成長とともに同じ船に乗ってくれる仲間がたくさんできて、すごくいい時間を過ごさせてもらっていると感じています。まだまだ道半ば。これからも立ち止まることなく前に進んでいきたいです。この先も大変なことがたくさんあると思いますが、それも乗り越えれば大したことなかったと思えるはずですから。

株式会社CaSy(カジー)

代表取締役COO

池田 裕樹さん

東京大学大学院工学系研究科修了。デジタル化が始まった2003年に就活を行い、NTTコムウェア株式会社へ就職。同社および株式会社NTTデータにて、ファイナンス系システムの開発、事業企画およびM&A後のPMI業務などに従事。2014年に株式会社CaSyを創業、CTOとしてプロダクト開発を主導した後、2019年にCFOに就任。2022年2月、東証マザーズ上場を果たす。2024年、COOに就任。グロービス経営大学院2013年卒業。

ARCHIVES