テクノロジーで今までにないサービスを作る
企業の新たな柱となる、新規事業を起こす
技術とビジネス、
双方の視点からサービス開発。
AI時代に、クリエイターの輝きを。
UI/UXチームのリーダーとして、設計・デザインで優位性を生み出す。
千葉さんはソニーのカメラ部門でソフトウェア・エンジニアとして活躍されていますが、具体的にはどのようなお仕事をされていますか?
IoTやAI技術の進化に伴い、デジタルカメラにはより便利な機能やサービスが搭載されるようになりました。その一方で、使い方が複雑化するという課題も生じています。単に性能を高めるだけでなく、直感的なインターフェイスや快適で楽しい撮影体験を提供することが、競争優位性を生み出す上で重要になっているのです。私はそうしたUI(ユーザー・インターフェイス)やUX(ユーザー・エクスペリエンス)の設計・デザインを担当しています。
なかでも2023年2月、「Creators’ Cloud」というサービスを提供開始しました。これはカメラで撮影した写真や動画を簡単にクラウド上へアップロードし、AI技術を用いて効率よく編集したり、作品を共有してクリエイター同士がつながることも可能な制作プラットフォームです。今はこのサービス全体のUX設計・デザインを、リーダーとして任されています。
UX設計・デザインは、設計でありながら企画の視点も持っていることが重要です。ユーザー視点で理想を追求しながら、技術的に実装できる最適な落とし所を探る。そのため企画や設計、マーケティングなど、チーム間の橋渡し的な役割を担うことが多いです。
組織ごとにKPI(重要業績評価指標)が異なる中、同じ方向を見据えてプロジェクトを進めるには、こちらの主張を一方的に押し付けるのではなく、相手側にメリットがあるストーリーを組み立てた上で依頼したり、誰を巻き込めばプロジェクトが最もスムーズに進行するか見極めて働きかけることもしばしばあります。こうした場面に出くわすたびに、グロービス経営大学院での学びが役に立っています。
「本当にクリエイターが望んでいることか」 という問いに立ち返り発想する
新しいサービスや機能を開発する上で、千葉さんが大切にされていることは何でしょうか?
フォトグラファーやビデオグラファーなど、クリエイターのニーズを中心に据えて開発することですね。
例えば、ここ数年で急激に進化しているAI。撮影後の色味や露出調整、データ整理といった初期段階の単純作業をAIに任せることで、クリエイターはさらにクリエイティブの創出に専念できます。一方で、AIによって誰もが高品質なコンテンツを簡単に作ったり共有できるようになれば、クリエイティビティやオリジナリティが薄れることも考えられます。私は日々、多くのフォトグラファーやビデオグラファーと話す機会がありますが、AIの進化が仕事を奪うのではないかと、脅威に感じている人も少なくありません。
社内の開発メンバーと会議をしていると、つい技術ベースで発想しがちですが、そういう時は「本当にクリエイターが望んでいることか」という問いに立ち返るようにしています。開発者目線ではクリエイティブな作業をラクにする機能のつもりでも、クリエイターにとって「仕事を奪われる」という懸念が生じるようでは受け入れてもらえません。クリエイターの発想がAIに置き換わってしまうのではなく、いかにクリエイティビティや好奇心をかき立てるようなサービスを提供できるか。常にクリエイター目線を忘れずにいたいと考えています。
エンジニアとして、 自信を持って勝負できる領域が欲しい。
入社6年目にキャリアの転換期があったそうですね。どのような出来事があったのでしょうか?
きっかけは、社内研修で受けた問題解決能力テストで、予想外に低い点数を取ってしまったことでした。
私は入社後最初の4年間UI設計を担当し、その後2年間は組み込み制御ソフトウェア開発の部署で、シャッター性能の向上に取り組んでいました。シャッターボタンを押して画像データが出力されるまでの処理速度をミリ数単位で短縮するために、何度もプログラムを書き直す。まさにエンジニアの血が騒ぐような、難易度が高くて非常にやりがいのある仕事でした。一方、周囲のハイレベルなエンジニアたちの中で、自分が十分な価値を提供できているか自信が持てなくなっていました。私はUI設計のほうが向いている。そう思い始めた頃に、テストの結果が返ってきたんです。
UI設計も、いわば問題解決です。既製品の問題を抽出して構造的に整理し、解決策を何パターンも考え出し、どれが最適か論理的に決定する。そのプロセスを何度も経験してきたので、問題解決力はそれなりの自信を持っていました。でも、テスト結果は「あなたの能力は通用しない」と示しているようで、自分にガッカリしましたね。
自信をもって勝負できる領域が欲しい。そう思って「問題解決能力」「学ぶ」でネット検索したところヒットしたのが、グロービス経営大学院の「クリティカル・シンキング」だったんです。
開発現場とビジネス、 世の中は連動している。
実際、「クリティカル・シンキング」の授業を受けていかがでしたか?
衝撃でしたね。授業で学んだビジネスケースは、どのような人にどんな価値を届けるかという視点で書かれていましたが、それがUXの考え方とリンクしていることに気づいたんです。毎日、UXを考慮してUI設計をしていましたが、UIはUXにつながっていて、そのUXはビジネスにつながっているという風に、目の前の仕事と世の中のつながりが見えて、世界が一気に広がりました。
受講前は、エンジニアである自分にとって、経営学やビジネスの視点は関係ないと考えていました。社内で組織変更があっても「また上司が変わる」と思う程度で、これまでと同じように目の前の開発に取り組んでいました。でも、ビジネスが分かるようになると、その組織変更に込められた会社の方針や戦略を読み解くことができるようになります。それに伴って、取り組むべき開発テーマや、エンジニアとして身につけたいスキル内容が変化するんです。
また、経営学の基本である「ヒト・モノ・カネ」も、日頃開発を進めるなかで壁に感じることと共通しています。経営を体系的に学ぶことはエンジニアとしてレベルアップするチャンスだと考え、そのまま本科へ進みました。
外の世界で見つけた長所。 自信を持つと、仕事は楽しくなる。
グロービスでの学びを通して、ご自身の中で変化はありましたか?
グロービスに通って良かったことは、いろいろな価値観に触れて、視野が広がったことです。エンジニアの日常業務では社外の人と関わる機会がなかなかありませんし、社内でも同じ部署のメンバーしかほとんど関わっていませんでした。でも、グロービスでは商社の新規事業開発担当や食品会社のマーケターや、出版社の編集者、新聞記者など、多種多様な人と意見交換をする機会が頻繁にあります。同じ「ケース」を見ても、自分とはまったく違う着眼点からの意見が聞けるので、凝り固まった考えが自然に解きほぐされました。
また、自分の長所に気づけたことも大きな変化です。以前の私は周りの評価をすごく気にしていましたし、優秀なエンジニアに囲まれていたこともあり、なかなか自信を持てずにいました。でも、会社では当然のようにしていたスケジュール管理やグループワークの日程調整が、グロービスのメンバーからはすごく喜ばれたり、感謝されたりしたんです。「そうか、これは自分の長所なんだ」「もっと自分を褒めて良いんだ」と気づかされた瞬間でした。周りを調整しながら物事を進めるポジションなら、もっとバリューを発揮できる。その気づきが今、UI/UX設計をする上で自信になっています。
自信を持つと仕事がより楽しくなり、人生も豊かになる。そう気づいたからこそ、「自分の人生に誇りを持てる人を増やす」という志を持って仕事に励んでいます。
周りのメンバーやクリエイターの、 誇らしい人生を応援したい。
最後にこれからの目標をお聞かせください。
MBAを学んだことで会社の方針を読み取れるようになり、次の一歩の踏み出し方が変わりました。自分で判断し、先手先手で開発に取り組めるので、仕事に面白みを感じます。しかし、そこで満足するつもりはありません。カメラ事業の主柱はハードウェアですが、「Creators’ Cloud」など立ち上げたサービスを第2の柱に育てたいですね。
そのために今後も学び続け、自分の世界を広げ続ける必要があります。
事業部の枠組みにとらわれず、もっと大胆に周りを巻き込んでチャレンジする。その姿を見て「自分にもできそう。やってみよう」と思う人が周りに出てきたら、私の志である「少しでも、自分の人生に誇りを持てる人を増やす」に一歩近づけると思うんです。
また、クリエイターに対しても新しい技術を活用してもっと支援したい。グロービスの「テクノベート・ストラテジー」という科目で、テクノロジーが進化した時代にビジネスをどう組み立てるべきかを学びました。常に新しいことを取り入れる大切さを再認識しましたが、ビジネスの根本は変わらないと感じています。
大切なのはテクノロジーに振り回されず、本質的な課題を見極めることです。クリエイターがどんな課題を感じているのか、何を解決すれば世の中に大きなインパクトを与えられるのか。AI技術の台頭による将来への不安を抱えるクリエイターも多いですが、私は人間にしかできないクリエイティビティの価値を信じています。その支援をすることで、クリエイターが自分の作品に誇りを持ち、多くの人がその作品から元気や勇気をもらう世界を実現したいです。
ソニー株式会社
技術センター
千葉 亜矢子さん
上智大学大学院理工学研究科を修了後、2011年ソニー株式会社にソフトウェアエンジニアとして入社。デジタル一眼カメラ、周辺アプリやサービスのUI/UX設計を手掛ける。現在はクリエイター向けの制作プラットフォーム「Creators’ Cloud」のUI/UX設計チームのリーダーを担当。2020年、グロービス経営大学院卒業。