組織内イノベーションを起こし、事業承継を成功させる

業界に新しい風を吹かせる

予想外のバトンを
託された私の覚悟。
目指せ!日本一
ワクワクする菓子屋。

有楽製菓株式会社

代表取締役社長

河合 辰信さん

グロービス経営大学院2018年卒業

ブラックサンダーを中心に、遊び心あるお菓子を作り続ける有楽製菓。2013年以降、ユニークなマーケティング戦略で、義理チョコブームを作りだすなどヒットメーカーとして活躍する3代目社長の河合さん。当初は、有楽製菓の後継者になるどころか入社をする予定すらありませんでした。しかし、お兄様の急逝により、急遽27歳で後継者候補として入社することに。「自分が継ぐべきだろうか」という迷いを抱える中で、多くの人を幸せにする仕事であることや、後継者の立場を「70億人のうちたったひとりに与えられたチャンス」と考えることで、3代目としての覚悟を持つに至りました。そして今、「志」である「日本一ワクワクする菓子屋」の実現へと邁進しています。

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未経験マーケッターが
生んだ、「義理チョコ宣言」

ユニークな世界観を築いているチョコレート菓子“ブラックサンダー”。河合さんが入社されて、どのようなマーケティングを実践されてきたのでしょうか。

もともとブラックサンダーは、私の父親である先代社長が1994年に創ったのですが、あまり売れることもなく細々と続けていました。

ところが2008年に、あるオリンピックのメダリストが「ブラックサンダーが好き」とコメントしたことがきっかけでブレイクし、世間では品薄状態に。私が入社した翌年の2011年、豊橋の新工場稼働によって商品が充足されたこともあり、父からの指示でマーケティング部署を立ち上げました。とくにやることは決まっていませんでしたが、自分たちの手でもっと売り上げを伸ばそうという局面だったと思います。

私は前職がITエンジニアで、マーケティングはまったくの未経験。もうひとりいた社員も同様で、まずはふたりで「ブラックサンダーがなぜ売れているか」を分析することから始めました。

そこで分かったのが、ブラックサンダーの独特のポジショニング。黒と金色の奇抜なパッケージや、30円のお菓子らしからぬ味や食感。そして「若い女性に大ヒット中!」という謎のコピーなど。そうか、この世界観で表現していけば、消費者とコミュニケーションできるかもしれないと。

もっと言うと、ブラックサンダーが消費者とのコミュニケーションツールになると考えたわけです。

2013年、最初に手掛けた大きな企画が「ブラックサンダーバレンタイン」。
ブラックサンダーは、バレンタインデーではどう考えても本命じゃない。だったら堂々と義理と宣言しようと。そこで「一目で義理とわかるチョコ」というキャッチコピーで、丸ノ内線新宿駅の地下通路に広告を出すと同時に、「義理チョコマシーン」という自動販売機を設置。SNS上でも大いに盛り上がり、テレビのニュースでも放映されました。王道じゃない、枠からちょっとはみ出しているところにお客さまは好感を持っているし、期待している。

独特の世界観を大切に、キャンペーンを仕掛けたり、ほかの会社さんと一緒にさまざまなコラボ商品を作ったりしています。

本当に自分が、
後を継ぐべきだろうか

河合さんは、突然、後継者としての道を歩むことになったとお伺いしました。その経緯を教えてください。

もともと有楽製菓は兄が継ぐ予定であり、私は継ぐどころか入社する予定さえありませんでした。私は大学院を出て、世界的なITネットワーキング企業であるシスコシステムズ社に入社。ITエンジニアとして、家業も含めた製造業に貢献できればと思っていました。ところが入社して1ヶ月後、兄が急死。それから2年ほどしたころでしょうか、父から「帰ってくるか」と。

2010年に、後継者としてバトンを受け継ぐために入社しましたが、そういうつもりで生きてこなかったこともあり、迷いはありました。本当に自分でいいんだろうか、もっとほかに最適な人間がいるんじゃないだろうか、と。

その一方で、マーケティングという仕事を通して、ブラックサンダーを自分たちの手で成長させることができたのは、ひとつの大きな自信になりました。何より、お菓子を作り皆さんに喜んでもらうこの仕事が好きだし、自分に向いていると思っていました。最終的に、経営者になる覚悟を決めるきっかけとなったのが、グロービス経営大学院での授業でした。

グロービスへは経営の知識がまったくなかったために、きちんと学ぼうと考えて入学を決めました。とくに印象的だったのが「企業家リーダーシップ」という授業。その中のファミリービジネスに関するディスカッションで「世界で70億人いるとして、その会社を継ぐことができるのはあなただけですよ」という話を聞いて、なるほど、確かにと。「継がなければならない立場」から「任されている唯一の立場」へ考えが変わりました。

会社に対する想いは世界の誰よりも強いし、自分が社長をやることがベストなんだ、と自信を持って思えるようになった。これは大きかったですね。

目指せ、「日本一ワクワク
する菓子屋」

3代目社長として、どのような使命を持って会社の舵取りをしていくのか。その「志」について教えてください。

「企業家リーダーシップ」の中で、自分の「志」を言語化する機会があり、そこで言葉にしたのが「日本一ワクワクする菓子屋」という「志」でした。これは今でも社内外で折りにふれて語っています。

本来、お菓子はお腹や味覚を満たせば役割は果たせるわけです。でも、それ以上に「誰かにあげる」とか「話題にする」とか、もっと心にまで関与できるコミュニケーションツールだと思うのです。だから、お腹だけじゃなくて心まで満たすお菓子、遊び心あふれるお菓子を提供することで、日本一の企業を目指したい。「有楽なら、なんかやってくれそうだよね」と、お客さまが期待でワクワクする。そんな会社にしていくことがひとつです。

もうひとつ意図があり、それは会社の中身も「日本一ワクワクする菓子屋」にしていくことです。私が入社したとき、商品は面白いけど、会社の中は堅苦しいなあと感じていました。ちょっと真面目過ぎるというか。みんなが柔軟に言いたいことを言い合える風土になれば、もっとパワーアップするはずです。だから私は「そんなふざけたこと言っていいの?」というようなことも交えて、どんどんみんなの前で発言します。「社長がああなら、言っても大丈夫だろう」と思ってもらえればしめたもの。

私は、自分ひとりじゃ何もできないと思っています。自分のアイデアも大事だけど、複数の頭脳でアイデアを出し合って、いいとこ取りした方がきっといいものになるはずです。

だれかの喜びが、
わたしの幸せに

「日本一ワクワクする菓子屋」という「志」が出てきた背景には、どのような原体験があったのでしょうか。

自分が「最も幸せなことはなんだろう」と突き詰めて考えたとき、それは「周りの人たちを幸せにすること」でした。原体験かどうか分かりませんが、小学校のころ、クラス中がワーッと盛り上がるような、ちょっとした一言を投げかけるのが大好きで。自分の一言でみんなが喜ぶのがうれしくて、私自身も幸せな気持ちになりました。先頭で目立つタイプじゃないのですが、陰から盛り上げるのが得意な感じでしょうか。

誰かを喜ばせることで、自分も幸せになる。だから菓子屋として、その範囲を広げていけば、周りもどんどんハッピーになるし、自分のハッピーもどんどん大きくなる。それが私にとって会社を経営していく原動力になっています。

ブラックサンダーは、もともとは父が創りだした商品ですが、振り返ってみると、たくさん自分の要素が入っているというか、自分の分身みたいになってきた。だって、最前線じゃなくて横道からひやかしを入れながら、陰でこそこそ盛り上げるって、まるで私のようじゃないですか。

元からブラックサンダー自体が持っていたポテンシャルなのか、自分が好きなことをやり続けたからそうなったのか。さて、どっちなんでしょうか。私にも分かりません。

徹底的に
お客さまの立場で、
最終ジャッジを

ブラックサンダーを常にヒットさせ続けるために、経営者としてどのようにジャッジしているのか。また、失敗や壁などがあれば教えてください。

商品づくりにおいて、とにかく大事にしていることは、「お客さまの立場で考える」ということです。

いわゆる表層的な顧客視点ではなく、徹底してお客さまを自分に憑依させるわけです。そのために私もお客さまのひとりとして、常に暮らしの中で何が流行るのか、なぜ流行るのかを意識して考えています。また、それらを手にすることで誰がどんな感情を抱くのか、脳内シミュレーションで検証。そうやって日々お客さまの目線や視点を磨きながら、企画のジャッジに臨むのです。だから、作り手本位の企画や、お客さまに意味が分かりづらい企画はボツ。ボツにする数はけっこう多いと思いますよ。

失敗といえば、社長に就任したのを機に、商品づくりやマーケティングは現場に任せて、私は最終的なジャッジだけを担当するようにしました。ところが、2年間ほどやってみたのですが、うまく機能しなかったのです。

決して現場が悪いわけではなく、これまで私がコンセプトづくりやマーケティングを感覚的にやることが多かったため、「ブラックサンダーとは何か」という捉え方が人によってバラバラだったことが原因でした。これは駄目だと思って、ブラックサンダーの思想を言語化する作業へ。共通認識を持って進められるよう改革している最中です。もう一度、私も最初のコンセプトづくりやプロモーションに参加し、現在、やっとうまく回りだしてきました。

業界も世界も、まるごと
ワクワクさせるために

ワクワクを大きく広げていくために、日本で、そして世界で、どのようなことを実現していきたいとお考えですか。

喜びの輪を広げることで、自分たちのハッピーを大きくできるなら、自社だけでなく業界や世界をワクワクさせることが私たちのやるべきこと。そう考えると、もっと菓子業界に対して影響力を持たなければと思います。数字を追いかけるのは好きではありませんが、今の倍くらいの売上高300億円規模になれば、それなりの影響力が出てくるかもしれません。

私たちが楽しみながら、ブラックサンダーのようにワクワクする仕掛けや商品を作ることで、他社さんが「それなら自分たちもやれるぞ」「自分たちならもっとこうできるな」と活性化していけば、世の中はもっと楽しくなると思う。そして有楽製菓の社員みんなが、「面白い会社だからおいでよ」と、家族や友人に入社を勧められるような会社にしたいですね。

国内は人口減少もありますが、マーケットを考えるとやれることはまだまだあります。昔と違って、今は高齢者もチョコレートを食べますしね。ただ、「こんなにいいお菓子を作っているんだから、ぜひ世界の皆さんに食べてほしい」と、自画自賛ながら思ったりします。

「ビッグサンダー」がブームになった台湾を皮切りに、現在は香港や中国、インドネシアなどアジア、北米へと少しずつ広げています。

時代が変わっても、エリアが変わっても、私たちが絶対に変えないのは、味へのこだわり。業界でも一番こだわっていると胸を張って言えるほど、徹底的に追求します。そしてもうひとつが、遊び心があってワクワクするユニークなお菓子を作り続けること。どこでも作れるようなお菓子を提供するのであれば、私たちがいる意義はない、そう思います。

有楽製菓株式会社

代表取締役社長

河合 辰信さん

2007年横浜国立大学大学院修士課程修了。2007年シスコシステムズ合同会社に入社、システムズエンジニアとして勤務した後、2010年に実家が経営する有楽製菓株式会社に入社。製造部門、開発部門を経て、2011年マーケティング部立ち上げ、2013年マーケティング部長および取締役就任、2016年常務取締役就任、2018年2月代表取締役就任。2019年5月より日本チョコレート工業協同組合常務理事。グロービス経営大学院2018年卒業。

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