企業の新たな柱となる、新規事業を起こす

社会課題をビジネスで解決する

視覚障がいに関わる
壁を壊すために。
心動かす出会いが、
私のドライバー。

参天製薬株式会社

Global Head of Corporate Strategy

斎木 陽子さん

グロービス経営大学院2022年卒業

“Become A Social Innovator” ― “「見る」を通じて人々の幸せを実現するSocial Innovatorになる”という長期ビジョン「Santen2030」を掲げる参天製薬(以下、Santen)。経営企画として全社の経営戦略を担う一方、ビジョン戦略推進の責任者として活躍する斎木陽子さん。視覚障がいのある方でも、晴眼者(視覚に障がいがない者)と同じような幸せを感じることができる社会の実現を目指し、さまざまな企業や団体とコラボレーションしながら、これまでのSantenでは成し得なかった新たな事業やソリューション創出の仕組みづくりを行っています。

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「見る」を通じて、
人々の幸せを実現していく

斎木さんが推進されている「Santen2030」は、製薬企業のビジョンというよりも、世界的な社会課題への挑戦だと思います。まずはその内容と斎木さんのミッションを教えていただけますか。

世界保健機関(WHO)によると、全世界で22億人以上の人が何らかの視覚障がいを持ち、そのうち約10億人は適切な治療を受けていれば、その障がいを防ぐことができたと言われています。例えば、アフリカのケニアでは、約5000万人の人口に対して、わずか100名しか眼科医がいません。一生に一度も眼科にかかることがなく、白内障のような手術すれば治るはずの病でも失明に至ることもあります。

私たちSantenは、医療用・一般用の眼科薬を開発製造販売する眼科治療に特化したスペシャリティ・カンパニーとして、2010年代以降、グローバル化を加速させてきました。そこで直面したのは、今の医療環境では眼疾患をお持ちの全ての患者さんに治療手段を届けることはできないという現実でした。

このような現実を出発点に、会社としてのありたい姿を「Become A Social Innovator」と定め、その実現に向けて取り組むことを決めました。さまざまな技術や組織、人をつなぎ、Santenがオーケストレーションする立場となって課題解決に挑む、「見る」を通じて人々に幸せを実現していく、それが「Santen2030」です。「Santen2030」には、「Ophthalmology(オフサルモロジー)」「Wellness(ウェルネス)」「Inclusion(インクルージョン)」という3つの戦略の柱があります。私は、この3つの戦略のうち「Wellness」と「Inclusion」の実現に向けた新たな仕組みや体制作りに取り組んでいます。

「Wellness」は健康状態の維持や予防、「Inclusion」は生まれながらに、もしくは人生の途中で失明された方や弱視になられた方が、見ることが出来なくても幸せを感じられる生活を提供するための事業です。実はこの分野は、製薬会社としての知見があまり蓄積されていない分野でもあります。「Ophthalmology」は、眼科医療へのさらなる貢献という意味で、ある側面では自社でこれまで培った知見をさらに発展させられます。しかし「Wellness」と「Inclusion」は、いわば大きな社会課題への挑戦でもあり、当然ながら私たちだけで実現できるものではありません。私の役割は、Santenだけでは解決できない課題を、他の業界や団体との出会いを築き、コラボレーションしながら解決していく仕組みを創り、ビジョンを実現するための新たな事業を生みだすことです。

業界の枠をこえて
出会った人たちと、
壁を壊す

すでにさまざまな出会いやコラボレーションによって新しいソリューションを生みだしつつあるとお聞きましたが、具体的にどのような取り組みなのでしょうか。

これまで、Santenがブラインドサッカー大会のスポンサーを務めていたご縁もあり、NPO法人日本ブラインドサッカー協会、一般財団法人インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーションとパートナーシップを締結させていただきました。その枠組みの中で、新たな事業アイデアの提案を募る「VISI-ONEアクセラレータープログラム」を実施しました。このプログラムには40数社から応募いただき、実際に6社のアイデアを採択させていただきました。

例えば、靴に挿入し行き先を振動で知らせる歩行ナビゲーションシステムがあります。これまでも音声でナビゲーションするデバイスや、スマホの機能もありましたが、視覚に障がいのある方にとって、手に持って操作するデバイスは注意散漫になるリスクがあります。このデバイスは、靴に挿入でき、曲がり角の少し手前で合図を出しながら振動でナビゲーションができ、安全な歩行サポートが可能になります。

このようなユニークなサービスやプロダクトが「VISI-ONEアクセラレータープログラム」を通じてカタチとなり、社会に実装される期待も高まっています。当然、このようなアイデアやプロダクトをSantenだけで生みだすことは難しく、さまざまな業界の方々とのコラボレーションの必要性を感じています。

私たちのチームは、日頃から他業界と交流するために、大手企業の新規事業チームやスタートアップ企業が集まるコワーキングスペース「Inspired.Lab」に入居しています。場の価値というのは大切で、異業界の人たちとのワークショップやアイデア出しなどを積極的に行ったり、業界の枠をこえた取り組みが生まれやすくなります。

私自身も、会社の取り組みだけでなく、グロービス経営大学院で出会った障がい者向けビジネスに関連する人たち約30名と一緒に、公認クラブ「グロービスチャレンジドクラブ」を発足しました。ここで意見交換やアイデア出しなど、活発に交流していきたいと考えています。

誰かのビジョンを支え、
貢献していくという生き方

「Santen2030」という非常に大きなビジョンの実現に向けてさまざまな取り組みをされていますが、もともとこのような社会課題への関心が高かったのでしょうか。

きっかけは、私が前職の製薬企業に勤めていたときにお会いした前Santen社長のお話でした。まだ「Santen2030」は形になっていない段階でしたが、「スペシャリティ・カンパニーとして世界の眼科医療課題を解決したい」という想いにあふれており、大きな社会課題に立ち向かおうとする「志」をお持ちでした。また、そのために薬とは違ったソリューションや新規事業を立ち上げたいという話を聞いて、それなら自分もお手伝いしたい、という気持ちになりました。

私には研究者のように薬はつくれません。でも、ゼネラリストとして新しい価値や事業ならつくれるかもしれない、と心を動かされました。ぜひ、この大きなビジョンの実現に貢献したいと思い、Santenへの入社を決めました。
「この人と働きたい」という想いが、私のドライバーなのかもしれません。自分のやりたいことやビジョンを自分の言葉で語れる人が大好きで、その生き様に惹かれてしまう。そんな誰かのビジョンの実現を支え、貢献していくことが、私の生き方なのだと思います。キャリアを積み重ねていく中で、出会い、惹かれる人のビジョンもだんだん大きくなっていくので、必然的に私のビジョンも大きくなってきました。

以前は、自分自身が立派なビジョンを描かなければカッコ悪いとか思っていましたが、今はNo.2タイプとして支えることが自分の強みであるなら、それもいいと思えるようになりました。ビジョナリーな人たちだけしかいなかったら、世の中成り立たないじゃないですか、その人を誰かが支えないと。そう思えるようになったのも、心から共感できる人に出会えたからかもしれません。
結局、人生は人とのご縁で成り立っていて、出会いはとても大事だなと思います。

いい出会いのために、
自分を磨いてきた

人との出会いをとても大切にされてきたのですね。ちなみに、そのような出会いは偶然だったのでしょうか。それとも、これまでのキャリアの中で「出会う」ための工夫をされてきたのでしょうか。

自分にとってすてきと思える人と出会い、その人のビジョンに共感して、貢献していくためには、そこに貢献できるもの、いわば自らの価値といえるものを持つ必要があります。私の場合、20代30代は、自分の成長のために時間を費やしてきました。

新卒で入社した総合商社では、農薬関連の商品をあつかう部署で、営業やマーケティングを担当していました。その部門がスピンオフして独立したことをきっかけに、経営全体に関わる仕事がしてみたいと思い、自ら社内公募に手を挙げて異動。事業の買収交渉や、社内に不足している機能を新たに創るなど経営企画の仕事を経験しました。次のチャレンジを手にするために、自分が好きなことや得意なこと、やりたいことを発信していくことも大事だと思います。

また、私は飽きっぽい性分なので、だんだん仕事に慣れて来て、自分自身の成長曲線が緩やかになって来たなと感じると、すぐ次のチャレンジを考える癖があります。そうやってさまざまなチャレンジを繰り返す中で、「全体を見て、課題を改善したり、新しい仕組みを創る」ことが好きだし得意なことであり、自分の価値を発揮できる強みだと自覚しました。次の製薬会社でも、国内や海外の経営企画、営業戦略、創薬研究のポートフォリオ戦略など、さまざまな役割にトライして、キャリアの幅を広げ、得意分野を磨いてきました。

グロービス経営大学院に入学したのも、ある意味、未来の出会いへの準備かもしれません。自分がOJTで身に付けてきた知識を体系化したり、自分の思考を広げたり、そうすることで未来の可能性を探りたいという思いがありました。実際に、「ソーシャル・ベンチャー・マネジメント」という科目では、NPOやNGOといった非営利団体の運営に関して学びますが、これは今やっているアクセラレータープログラムの取り組みに役立っています。製薬会社という営利団体とは大切にしていることも違うし、知らないことも多い。OJTでは知り得ないことを学問として学べたことや、すでに取り組んでいる人たちとの出会いは、自分の価値や、やりたいことに対する自信につながることだと思います。尊敬する人が 「準備しているからこそ、チャンスがきたことが分かる」とおっしゃっていましたが、その通りだと思います。

事業化という壁を
乗り越え、ビジョンを
実現したい

「VISI-ONEアクセラレータープログラム」など新規事業創出への仕組みづくりが進み、「Santen2030」実現への足掛かりもできつつあります。そんな中で、斎木さんはどんなビジョンを持って、未来へと進んでいくのでしょうか。

医薬品以外においてソリューションを提供していくためのネットワークやアイデアも徐々に広がり、新たな事業の芽も出てきました。しかし本格的な事業化の検討は、まだこれからです。私たちは製薬事業に関しての知見はありますが、製薬とはまた違った視覚障がい者向けの新規事業となると、知見がないため事業化の判断が難しいこともあります。そういった中で社内を説得したり、協力を取り付けるのも一筋縄ではいきません。

今後、なぜその新規事業をやるのか、収益化のストーリーをどう描くのか、社内の理解をどう得るのかなど、次々と高い壁に立ち向かっていかないといけませんが、自分の強みを活かし、出会った人たちの力を借りながら乗り越えていきたい。ひとつでも多くの「見る」を通じた幸せを、私たちの手でお届けしていきたいと思います。

また、個人においては、人生100年時代と言われる中、次の50年を考えたときに、自分はこの先何ができるのかを考えています。自分の可能性を棚卸したいというのも、グロービス経営大学院に入学した理由のひとつです。今の仕事とは全く異なりますが、ずっと教育に興味があり、教育に関するプロボノ活動や支援も行なっています。 日本の教育は、すぐには変わりません。長い時間をかけて変えていく必要があり、それを変えていくのは若い世代だと思います。だから、自分が得意な仕組みづくりで何か貢献できることがないだろうか、今はそのようなことを考えています。

参天製薬株式会社

Global Head of Corporate Strategy

斎木 陽子さん

大学時代は農芸化学を学び、新卒でトーメン(現豊田通商)に入社。同社から独立したアリスタライフサイエンスにて、農薬・農業資材の営業マーケティング、事業開発を経験。その後、アステラス製薬にて国内外で製薬事業における経営企画や戦略企画業務を担当。2020年3月参天製薬に入社し、2022年4月より現職。趣味は世界遺産めぐりで40ヶ国以上を訪問。2005年シリアへの旅行をきっかけにプロボノ活動にも参画。グロービス経営大学院2022年卒業。

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