テクノロジーで今までにないサービスを作る

社会課題をビジネスで解決する

次の世代に、
心躍る未来を託したい。
デザインの力で、
ウェルビーイングな社会を。

nae株式会社

代表取締役

篠原 由樹さん

グロービス経営大学院2021年卒業

日本では、デザインは「意匠」の意味で使われることも多いですが、本来は「設計・構想」という意味も含まれています。広義で捉えるとデザインとは、課題を解決するために仕組みを設計し、表現することとも言えます。今、こうしたデザインの力が、ビジネスや社会において求められています。今回お話を伺った篠原さんも、デザインを広義に捉えて活躍するデザイナーの1人。ビジネスとデザインという2つの思考で、「女性のウェルビーイング」と「環境・社会のサステナビリティ」の実現を目指しています。

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デザインの力で人と地球のごきげんを加速させる

篠原さんは2021年にnae株式会社を設立されました。現在、どのような想いを持ち、どのようなお仕事をされているのかお聞かせください。

nae(ナエ)はデザインとクリエイティブの力で、豊かな次世代社会の実現を目指すデザイン会社です。僕の中で「デザインとは、人を観察し最適な体験を提供すること」と定義しているので、プロダクトやグラフィックにとどまらず、商品やサービスの開発、ブランディング、ときにはビジネスそのものをデザインしています。

具体的には、「デザインの力で人と地球のごきげんを加速させる」というパーパスのもと、デザインコンサルティングと自社プロダクト開発の2つの事業を展開しています。デザインコンサルティングとは、デザインの力を利用してクライアントの課題を解決すること。まだビジネスになるか確証のない段階からお客さまの相談を受けて、新たなインサイトをリサーチしてコンセプトを立案。商品開発からデザイン、販促まで伴走しながら支援しています。

また、自社プロダクト開発では女性のウェルビーイングとサステナビリティに特化したプロダクトをパートナー企業と連携して開発し、自社ECサイト「from」にて販売しています。最近では、美濃焼の陶磁器メーカーと一緒に茶香炉を開発し、日本茶ブームの真っ只中にあるアメリカ市場に向けて販売しました。お茶にはカテキンなどの健康成分のほか、香りにリラックス効果のある「青葉アルコール」や女性ホルモンの分泌を助ける「ゲラニオール」などが含まれているので、心身の健康維持に効果があると言われています。また、茶香炉の原料には廃棄された食器を粉砕して作られたリサイクル陶土を使用し、環境にも配慮しました。ニーズが高まる海外に市場を広げることで、日本の伝統産業に貢献したいという想いもあります。

娘たちが将来、自由で柔軟な生き方ができるように

どうして女性のウェルビーイングにフォーカスしているのでしょうか。

前職のTakramでは、PMS(月経前症候群)や骨粗鬆症などの女性特有の健康問題や、美容をテーマとする女性向けの製品を多く担当していました。それらのプロジェクトを通じて、女性の健康課題や社会的な生きにくさについて知るうちに「何とかしたい」という気持ちを抱くようになりました。

そうした状況でグロービス経営大学院に通っていたのですが、授業などでは何度も「志」を問われます。自分は何のために働くのか、どう生きるのか。もちろん人の役に立ちたいし、社会に貢献したい想いはある。でも、対象が大きすぎると実感が湧きませんでした。それでも答えを模索しているときに、二女が生まれたんです。その嬉しさは紛れもなくて、「この子たちがずっと笑顔で生きられるようにしたい」それこそが自分の志だと気が付いたんです。

娘たちが大きくなったとき、地球はキレイであって欲しいし、今よりも自由で生きやすい社会であって欲しい。男性の僕が女性の抱える問題をすべて理解することは難しいかもしれません。それでも、僕の知見やデザインの力を活かして、娘たちの生活にわくわくできる瞬間をつくったり、新しい健康習慣を提供することはできる。日常をより豊かにすることにフォーカスして、女性のウェルビーイングに貢献しようと考えています。

廃棄予定のじゃがいもを、体にやさしいマフィンにデザイン

お子さん方のために、次世代の社会をよりよくしたいという想いなんですね。先ほど茶香炉の話がありましたが、ほかにも女性のウェルビーイングとサステナビリティにフォーカスした具体例があれば教えてください。

例えば、2023年の夏にクラウドファンディングを行った『ポテトプロテインマフィン』ですね。クライアントは、北海道に工場を持つ創業約50年の食品素材メーカーさん。さまざまな企業から持ち込まれる未利用資源から栄養素を抽出する技術を持っていて、いつもはそれを食品メーカーに卸していますが「じゃがいもを加工する際に副産物として生まれるポテトプロテインを活用してBtoC向けに販売したいけれど、どう事業化すれば良いか分からない」とご相談を受けました。廃棄されるじゃがいもを栄養価のある食品として届けることができればフードロスの削減につながり、人にも地球にもうれしい事業になる。naeのパーパスにぴったりだと感じ、喜んでお引き受けしました。

まずはポテトプロテインについてリサーチした結果、ノンアレルゲン素材なので、食物アレルギーを持つ人やヴィーガン、グルテンフリーの食生活をしている人も含めて誰でも食べられることに着目。プロテインといえば、以前はアスリートが飲むイメージでしたが、美容効果や骨の健康維持にも効果があることからユーザーも増えています。そこで次に、ヴィーガンの方やプロテインユーザーにインタビューを行ったところ、「朝食のたんぱく質不足が気になる」・「化学的な味が苦手」・「ドリンクとして飲むのではなく食事感覚でプロテインを摂りたい」などのインサイトが見えてきました。
そうしたことから「誰でも朝食で気軽に食べられる、おいしいマフィン」というコンセプトを定めて商品開発に乗り出しました。

開発で一番の壁となったのは、ポテトプロテイン特有のにおい。そのにおいを消しつつ栄養価を保つために、同じ北海道でグルテンフリーの菓子専門店を営んでいるパティシエの方にプロジェクトに加わってもらい、レシピを完成。クラウドファンディングでは、目標金額の2倍近くの支援を獲得することができました。現在は、一般販売に向けて準備を進めながら、別の栄養素を使った新商品の開発を進めています。

デザインと出会い、人生で初めて勉強に夢中になった

話は変わりますが、篠原さんはもともとエンジニアを目指していたとお聞きしています。そこからデザイナーになった経緯をお聞かせください。

子どものころからモノづくりが好きで、中学卒業後は地元の高専で電子設計を学びました。でも、バグをつぶさに見つけて直す作業が苦手で、自分には向いていないと思ったんです。代わりに夢中になったのが映画で、レンタルショップでアルバイトをして、毎日のようにDVDを見漁りました。そして当時、最先端技術だった3DCGの魅力に引き込まれたんです。自分で3Dアニメーションをつくりたくて、どこでCGが学べるのか調べるうちに、工業デザインという分野があることを知りました。

20歳で大学へ編入すると、人生が一変しましたね。高専のころは家に帰ると遊んでばかりいたのに、大学では授業が楽しすぎて家に帰ってもスケッチを描き続けていました。時間を忘れるくらい没頭したのは初めてのことです。

2年間では学び足りずに大学院へ進み、留学もしました。フランスの産学連携プロジェクトに参加したり、ニューヨークのデザインファームでインターンとして働いたり。充実した日々を海外で過ごす中で、たまたま出会った日本人アーティストが「デザインとエンジニアリングの両方をやっている面白い会社がインターンシップの募集をしているよ。篠原さんにピッタリじゃない?」とひとつの会社を紹介してくれたんです。それが前職のTakramでした。

本当に良いデザインを手掛けるには、経営の知識が必要だ

Takramといえば、デザイン・イノベーション・ファームとしてプロダクトデザインからビジネスデザインまでを手掛けていますよね。篠原さんのデザインに関する考え方も、Takramで培われたのでしょうか。

まさにTakramでの経験が、僕のベースになっています。インターンのときから多くのプロジェクトに携わらせていただきました。初めは僕もデザイナーとして、ただただカッコいいデザインを作ることに夢中でした。でも、ちょうど正社員として採用されるころに加わったある一眼レンズシリーズのプロジェクトで、コンセプト開発から量産過程まで一連のプロセスに携わったことで視座が上がり、デザインにもビジネス目線が重要だと気付いたんです。

例えば「新機能を付け加えても、ユーザビリティを損なわないようにデザインして」というオーダーを受けても、そもそもこの機能がユーザーにとって必要かどうかを議論しなければ、本当に良い製品を提案できません。デザインだけを追求しても、満足できる仕事にはならないと実感したんです。

一方で、コンセプト開発などの上流工程から携わると、ビジネスや戦略など、デザイン以外の要素も重要になり、経営陣とコミュニケーションする機会も増えてきます。そうすると、ビジネスについて何も知らない自分が提案していることが、だんだん怖くなってきました。今は上司の助けを借りて提案の品質を保てているけれど、今後のキャリアを考えると経営を体系的に学び、実践的なスキルを身につける必要があるのではないか、と。それで、グロービスへ通うことにしました。

グロービスで得たのは、自分を突き動かす「志」と頼れる仲間

グロービスで学んだことで、何か変わりましたか。

グロービスで得たものはたくさんあります。まず、ビジネス的な会話についていけるようになったのはもちろんですが、提案の質が大きく変わりました。例えば新製品の開発に携わる際、以前はリリースまでしか視界に入っていませんでした。でも今は、リリース後のお金の動きや市場トレンドを追跡し、事業を継続していくためにどういう体制を作るかなど、ビジネスを俯瞰で捉えて提案できるようになりました。

また、グロービスに通わなければ、naeを設立していなかったかもしれません。Takramはやりたいことができる環境で何の不満もなかったですし、起業なんて考えてもいませんでした。一方で、僕がリスペクトしているデザイン業界の著名人はみんな30歳くらいで独立していたので、30歳はひとつの節目とも考えていました。ずっとモヤモヤした気持ちを抱えていましたが、グロービス在学中に「志」が定まったことで「やることが決まっているのなら、自分の力でやってみよう」と思い切った決断に踏み切ることができました。

独立後はうまくいかないこともたくさんありました。最初の2ヶ月間は契約ゼロ。前職でかじったカメラで何とか生計を立て、知り合いから「フォトグラファーになった」と勘違いされるほどでした。また、コロナの影響で唯一ご契約いただいたお客さまからの発注が取りやめになったこともあります。
そうした苦しいとき、相談に乗ってくれたのがグロービスの仲間です。忘れられないのは、初めて社員を採用したときのこと。まだ軌道に乗っていない時期にSNSを通じて「パーパスに共感したので、ぜひnaeで働かせてください」というメッセージが届きました。余裕がないから断ろうと思っていたのですが、グロービスの先輩に相談すると、「同じ志を持つ人はなかなか出会えないよ。僕も最初の社員は借入金を切り崩しながら給料を払ったけど、あのとき無理して採用して良かったと思っている」とアドバイスをもらい、思い切って採用しました。そのおかげで頼もしい同志ができ、苦しかった黎明期を一緒に乗り越えることができました。

世の中に幸せを広げるために、従業員の幸せを追求し続ける

ありがとうございます。最後に今後のビジョンについてお聞かせください。

ウェルビーイングは社外に限った話ではなく、僕の中では従業員のウェルビーイングをとても大切に考えています。こう考えるようになったのも、グロービスの「組織行動とリーダーシップ」をはじめとした科目で、リーダーシップや組織づくりについて学んだ影響も大きい気がします。リーダーとして、メンバーがスキルを最大限発揮できる環境づくり、については特に意識をしています。
例えば、ワークライフバランス。naeは7時間労働制をとっているのですが、昨年の従業員全体の残業時間は年間10時間以内でした。おそらく、僕の世代より下になってくると、男性、女性含めて、育児への参加率はもっと高まるでしょう。そうなると6時間労働制でもいいかもしれません。家族との時間を大切にしながら自分の興味ある領域で働き、きちんと世の中に価値を提供する。それが、僕の考えるウェルビーイングな働き方です。

だからこそ、今後は自社プロダクト開発に力を入れていきたいですね。クリエイターにとって、自分たちの発想をそのまま形にして世に出すことは大きなやりがいですから。実は冒頭にお話しした茶香炉は、もちろん女性のウェルビーイングとサステナビリティというコンセプトが前提にありますが、茶香炉が好きだというある従業員の情熱も込められています。ハードウェアは開発に時間と初期投資がかかるため、資金調達やローンチまでの期間を考えると難しい側面もありますが、これからも従業員の興味がある分野にこだわり続けたいですね。

大きな理想を掲げても世界はいきなり変えられないから、まずは自分の見える範囲から少しずつ変えていく。従業員が世界一幸せな会社を作ることが、誰もが幸せに生きられる世界を作る一歩です。

nae株式会社

代表取締役

篠原 由樹さん

愛媛県出身。高専で電子設計を学んだ後、工業デザインとサービスデザインを国内外の大学で学び、デザイン・イノベーション・ファーム Takramに新卒入社。女性の課題に関するプロジェクトを中心に家電、自動車、医薬、ホテル、素材や宇宙まで、幅広い業界の事業開発に携わり、2021年にnae株式会社を設立。デザインとクリエイティブの力で、子どもたちが生きていく世代の生活をより豊かにすることを目指している。趣味は茶道。2021年、グロービス経営大学院卒業。

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