企業の新たな柱となる、新規事業を起こす

業界に新しい風を吹かせる

日本にクラフトビール
文化を根づかせる、
「ジェネラリストの
スペシャリスト」。

株式会社ヤッホーブルーイング

よなよな未来課(ブランド戦略ユニット)
ユニットディレクター

仮屋 光馬さん

グロービス経営大学院2018年卒業

「よなよなエール」や「水曜日のネコ」「インドの青鬼」といった一度聞いたら忘れられないユニークなネーミングと、思わず手に取りたくなるキャッチーなデザイン。1997年の創業以来、次々と個性的なクラフトビールを世に送りだし、多くのビールファンを虜にするヤッホーブルーイング。自社の事業を、ビールを中心としたエンターテイメント事業と位置づけ、社長以下、全員がニックネームで呼び合うなど、企業文化も独自路線を貫いています。「知的な変わり者」が集まるヤッホーブルーイングで、ブランド戦略に携わっているのが、仮屋光馬さん。最近では醸造系クラフトドリンクというまったく新しいカテゴリーの画期的な製品「正気のサタン」を開発。クラフトビールの文化を日本に根づかせるべく邁進しています。

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従業員4万人から
150人の会社へ

これまでのキャリアと、ヤッホーブルーイング(以下ヤッホー)で働くことになったきっかけを教えてください。

新卒で入社したのは資生堂でした。配属先は埼玉の久喜市にある工場。ヘアケア製品を作っていたんですが、最初の3年間は20kg以上の原料を運んだりと、生産ラインで肉体労働に励む日々。研究所に配属になった白衣姿の同期と、作業着姿の自分をどうしても比べてしまい、焦りを覚えていました。彼ら、彼女らはみんな院卒で、自分は理系出身とはいえ学部卒。入社時点ですでに差が付いているように感じていたのに、このままでは差が開くばかり。10年以内には商品開発の道に進みたいと考えてはいたものの、本当にその可能性があるかも分からない。そこで、今後のキャリアについてモヤモヤしていることを人事に相談してみたんです。そのとき教えてもらったのがグロービス経営大学院でした。

単科生として受講を始めた当初はMBAを取得するつもりはまったくなかったんです。気が変わったのは、たまたま受けた「ビジネス・プレゼンテーション」という科目で、学生のレベルの高さに衝撃を受けたのがきっかけでした。卒業を控えた大学院生(本科生)の発表を生で聞いたのですが、思考の深さや広さ、視座が自分のアウトプットとまるで違っていて、あんな風に自分もなりたいと強く思ったんです。グロービスは成長への渇望を満たしてくれる場所だという直感がありました。

実はヤッホーを初めて知ったのも、グロービスでした。学生向けのカンファレンス(あすか会議)にたまたまうちの社長が登壇していたんです。そこで「ビールに味を!人生に幸せを!」というミッションに触れて、こんな面白い会社があるのかと驚いて、グロービスを卒業した後も頭の片隅にずっとヤッホーの存在がありました。そんな折に「久しぶりに中途採用を再開します」というアナウンスがSNS上で流れてきて、これはチャンスだと思い切って受けてみました。ところが、いざ内定が出ると周囲は猛反対。「なんでわざわざ資生堂を辞めるんだ?」と両親からは詰め寄られました。当時のヤッホーは今よりも従業員が少なく150人ほど。かたや資生堂は4万人ですから、企業規模がまったく違います。自分としても不安がなかったと言えば嘘になります。それでも、ヤッホーに入社したいという意志は、一切揺らがなかったですね。

どのコンビニにも
当たり前のように
クラフトビールが
並ぶ世界

仮屋さんの志と、現在のミッションを教えてください。

一言でいうならば、「日本にクラフトビール文化を根づかせる」というのが私のミッションです。例えば、世の中の全てのコンビニに当たり前のようにクラフトビールが置かれている。「とりあえずビール」じゃなくて、「今日はどのビールにしようかな」と当たり前のように選べる。そんな姿を目指しています。いま、日本に流通しているビールの大半が、ラガービールのなかのピルスナーという一種類のみ。でもビールは本来、原料やつくり方の違いによって150種以上もの種類があるんです。それだけバリエーション豊かな味わいがあって、いろんな飲み分け方ができるはずなのに、実際にはものすごく狭い範囲の味わいのビールしか、飲まれていないんですね。だからこそ、あたり前のように私たちのクラフトビールが棚に並ぶことで、ビール業界に風穴をあけていきたいという想いがあります。

ビールって、ふだんの生活がちょっと良くなるものだと思うんです。高いお金をかけなくても、ほんの少し手を伸ばせば届く幸せ。そんなささやかな幸せを世の中に増やしていきたい、というのが私の志です。そう思うようになったのは、家族の影響が大きいように思います。うちの家族は、とにかく料理が好きで、ビールが好き。祖父や父だけでなく、祖母も母もよく飲むんです。おいしい食事とビールが食卓にあると、みんなが自然と笑顔になる。家族全員がそろってから「いただきます」と食べ始める。そんな何でもない時間が、子ども心に大好きでした。大人になった今も「美味しい」「うれしい」「楽しい」と、誰かが喜んでいる姿を見るのが何より好き。ヤッホーと自分自身の志が、高純度で合致しています。

無個性だと
思い込んでいたのは、
自分だった

ご自身の志と会社のミッションが合致している。とても理想的な状態だと思うのですが、ご入社されてからのご苦労はなかったのでしょうか。

実をいうと、転職してから1年くらいはモヤモヤとしていた時期がありました。ヤッホーは、「知的な変わり者」という組織文化があるんですが、それくらい一人一人の個性を組織として非常に重視している。働くメンバーも個性豊かで、仕事も出来る上に、趣味も多彩なんです。カレー好きが高じて副業でカレー屋を始める人や、お酢を極め過ぎて、本格的にお寿司を握れる人もいる。その点、私は周囲と比べて個性がないように感じていて、自分の立ち位置にしばらく悩みました。また、ヤッホーはニックネームで呼び合うフラットな社風で、たとえ先輩であっても「さん」付けは禁止。ついこの間まで、職場では普通に苗字で呼び合っていたのに、入社した途端に、いきなり「カーリー」って呼ばれるし、ニックネームで呼ぶことを求められるわけです。その企業文化の違いにもなかなか慣れなくて。このキャラが濃いメンバーの中で自分が「カーリー」として本当にやっていけるのか、不安は常にありました。

変わったきっかけは、社内で行っているチームビルティングのプログラム。ヤッホーでは個々がチームの中で強みを発揮できるように、チームビルティングをすごく大事にしていて、年に一度、全社で取り組むプログラムがあるんです。それを受けたときに、自分の強みや弱み、個性というものは一緒に仕事をする相手に応じて変わっていい。ある種、相対的なものだということに気付かされました。例えば「あの人と議論をするときは自分の強みは論理性だけど、この人と組んだときは客観性」とか。絶対的なものだと思っていた個性や強みというものは、本来はもっと柔軟で、相手ありきで変化するものなのだと考え方がアップデートされました。お互いに得意分野で力を発揮して、苦手を補い合えばいい。チームで仕事をすることの本当の意味を、このとき教えてもらったように思います。

私自身は何かひとつのスキルが突出しているようなタイプではありません。逆に言えば、相手の強みを尊重し、弱みに対しては一定のレベル以上で補完することができるのだと思います。あえて自分の強みを言語化するのであれば、いろんな価値観、考えを受け止め、全体を俯瞰して、調整していく役割において力を発揮できると思っています。何事もまんべんなく出来るジェネラリスト的な立ち位置ですが、このジェネラリストの道を突き詰めることで専門性を高めていく、いわば「ジェネラリストのスペシャリスト」を目指しています。

あきらめない。
全員が納得するまで

全体を俯瞰して調整していく、ご自身の強みが発揮されるのはどんな瞬間でしょうか。

ヤッホーという会社は、多数決ではモノを決めない会社です。全員がいいと思えるまで必ず議論を続ける。そういった意味で、全体を俯瞰して最終的に合意形成ができるように調整していくような局面は、常にあります。

ここ最近で一番議論に時間をかけたのは、「正気のサタン」の開発でしょうか。アルコール度数0.7%で、酒税法上クラフトビールとは名乗れない。世の中にはまだないこの製品の価値を、誰に向かって何といって届ければいいか。マーケティングチームの全員で、考えに考えました。一度計算したら、勤務時間40時間のうち30時間はディスカッションしていたなんていう週も…。このままでは埒が明かない。何としてでもこの場で決めようと「腹括りミーティング」と題して議論をしている中で、ようやく出てきたのが「食事にこだわるワーキング家事プレイヤー」という言葉でした。職場でも家庭でもそれなりに忙しくて、なかなか気ままに酔える時間がない。でも、時間がなくても美味しいものを食べたいから、なるべく食事にはこだわりたい。そんな共働き世代や子育て世代の「ワーキング家事プレイヤー」たちに、酔わずに心を満たせるという独自の価値を届けようと。この価値定義ができるまでは、なかなか苦しい時間でした。

今回に限らずですが、私自身が議論を深めていくなかで心掛けているのは、「押し付けない」ということ。メンバー全員でフラットに議論をするためにも、自分の意見を一方的に相手に押し付けない。誰かひとりの意見に肩入れすることなく、全体を冷静に見て、議論を集約していく。時間の制約があるなかでも、全員が納得感を持って進んでいくことを大事にしています。実際に、「正気のサタン」のコンセプト開発も半年以上という長い期間ではありましたが、最後には全員が「これだ!」と思えるコンセプトをまとめ上げることができました。私はマネジャーの立場ですが、チーム内はあくまでもフラット。「正気のサタン」の価値定義がうまくいったのは、マーケティングチームのメンバーが、それぞれの個性を発揮した結果です。

答えのない問いに対して、
徹底的に考え抜く

グロービスでの学びは、仕事のなかでどのように活かされていますか。

そもそも、ヤッホーに入社するまでは工場勤務で、新規事業の公募やアイデアコンテストなどには積極的に応募していたものの、マーケティングは未経験。にもかかわらず、ヤッホーが自分にマーケティングを任せてくれたのは、グロービスで学んでいたことが大きかったと思います。

とくに思い入れが強い科目は、「研究プロジェクト(2023年度より研究・起業プロジェクト)」。自身の学習成果の総まとめとしてアウトプットをしていくのですが、例えば、ファイブフォースという定番中の定番のフレームワークひとつとっても、なぜそのフレームになっているか。言葉一つ一つの意味は何か。どこまでも徹底的に深く掘り下げて、なおかつ研究者視点だけではなく、実務ではどうすべきか、というところまで考え抜いていく。すごい、という平易な言葉では失礼にあたるかもしれませんが、担当教員の方が本当にすごかった。あのとき、 教員の思考に触れていたことが、自分の糧になっていると感じています。そして、膨大な議論を重ねたチームの仲間からもたくさんの刺激をもらいました。メンバーとは卒業後の今も定期的に集まるなど交流が続いています。

製品開発のように、答えのない仕事においては、本当にそれでいいのか徹底的に考え抜くことが常に問われます。コンセプト開発からネーミングまで、一つ一つの言葉の意味や定義をおろそかにせず、何十時間でも議論を交わしながら思考を深めていく。グロービスに通っていたころとやっていることの本質は同じ。卒業して丸4年経っていますが、グロービスでの学びが全ての土台になっていると思いますね。

フレームワークは思考の補助線にはなるのですが、単純に当てはめれば答えが導き出せるわけでもありません。お客さんに本当の意味で響く価値を届けるためには、顧客理解であるとか、クリエイティビティであるとか、多方面にわたる知識や経験、ノウハウを総動員して、それぞれをつなぎ合わせ、掛け合わせることで、ようやく輪郭が見えてくる。グロービスで学んだ知識やスキルを梯子にしながら、自分なりにどんどんインプットを重ねて、経験を積んでいくしかないのだと思っています。

日本のビール文化を
変えるために全速力で
成長していく

10年以内に製品開発をやりたいと明言されて、その目標をヤッホーで叶えられました。さらに次の10年後はどうありたいと思いますか?

ちょっと青臭い話ではあるんですが、ヤッホーブルーイングという会社をさらに大きくして、そこから生み出される価値をもっと広く、多くの人に届けたいと本気で思っています。もちろん、ただ規模が大きくなればいいという話ではないのですが、私たちのミッションを実現させ、日本のビール文化を変えていくためにも、規模は絶対的に必要になってくる。だからこそ、私たちの「らしさ」は失わないようにしながらも、全速力で成長していきたい。会社の成長に対して最大限貢献するために、私自身もよりいっそう自分の強みに磨きをかけて、ステップアップしていきたいと思っています。

社長になりたいとか、部長になりたいとか、ポジションの話ではなくて、自分が企業経営のより近いところで価値を発揮していきたいという気持ちですね。もちろん自分ひとりでどうこうするのではなく、仲間とともに、お互いに個性を発揮して強みを出し合って、みんなでクラフトビール文化を日本に根付かせることで、ビールファンにささやかな幸せをお届けしていく。どこまで行けるか分かりませんが、10年後に振り返ったときに、一緒に頑張ってきた仲間たちと「やり遂げたね」と言い合って、おいしいビールが飲めたら最高ですね。

株式会社ヤッホーブルーイング

よなよな未来課(ブランド戦略ユニット)
ユニットディレクター

仮屋 光馬さん

慶應義塾大学理工学部卒業後、株式会社資生堂に入社。工場にて生産業務に従事する傍ら、新規事業や新商品提案を積極的に行う。ヤッホーブルーイング入社後は「僕ビール君ビール」リニューアル、SonyMusicコラボなどマーケティング・ブランディングを中心に担当し、2020年度より現職。「裏通りのドンダバダ」や「正気のサタン」などの新製品の開発やブランディングの各種施策に携わる。社内でのニックネームは「カーリー」。グロービス経営大学院2018年卒業。

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