目次
ワークライフバランスとは
「ワークライフバランス」とは、仕事(ワーク)とプライベートな生活(ライフ)の両方を調和させ、バランスを取ることを指します。
仕事に費やす時間とエネルギーと、家庭や趣味、健康などに費やす時間とエネルギーをバランスよく調整し、人生全体の充実感や満足感を得ることを目指す考え方です。
ワークライフバランス推進の意義と目的
ワークライフバランス推進の意義と目的について、内閣府が策定した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を参考に説明します。同憲章では、現在の日本社会について
「人々の働き方に関する意識や環境が社会経済構造の変化に必ずしも適応しきれず、仕事と生活が両立しにくい現実に直面している」
としたうえで、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)と経済成長は
「車の両輪であり、若者が経済的に自立し、性や年齢などに関わらず誰もが意欲と能力を発揮して労働市場に参加することは、我が国の活力と成長力を高め、ひいては、少子化の流れを変え、持続可能な社会の実現にも資することとなる」
と、その意義を語っています。
また、ワークライフバランスを実現することで、以下のような社会の実現を目指すべきとしています。
- 就労による経済的自立が可能な社会
- 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
- 多様な働き方・生き方が選択できる社会
ワークライフマネジメントとの違い
ワークライフバランスと似た概念として、「ワークライフマネジメント」「ワークライフインテグレーション」という言葉もあります。以下ではそれぞれ違いを説明していきます。
ワークライフバランスとワークライフマネジメントは、仕事と生活の調和を目指すコンセプトでありながら、その実現におけるアプローチにおいて異なる特徴を持っています。
ワークライフバランスは、仕事と私生活の充実との間に幸福感を生み出すための社会的な取り組みとして認識されています。個人の意識も取組みに含まれてはいますが、労働環境・雇用環境の整備やキャリア教育というように、企業等の雇用者や国・地方公共団体からのアプローチが多いです。
一方でワークライフマネジメントは、個々人が自身の生活スタイルに合わせて仕事と私生活を統合し、それらを充実させるための個人的な戦略やスキルの獲得を指しています。結果として企業の成長も目指していますが、このアプローチは、個人の自律性に基づき個人が管理できる部分にフォーカスしたものと言えます。
ワークライフインテグレーションとの違い
ワークライフバランスとワークライフインテグレーションは、ともに仕事と生活の調和を目指すコンセプトであるものの、その「調和」の状態に違いがあります。
ワークライフバランスは、仕事と生活のバランスを重視し、仕事の時間と生活の時間を明確に分けて考えることを強調しがちです。これに対してワークライフインテグレーションは、仕事と私生活の境界を曖昧にし、両者を一体化させることで相乗効果を生み出すことを目指します。このアプローチでは、より充実した人生を実現するために、仕事が私生活を豊かにし、逆に私生活が仕事にポジティブな影響を与えるという考えを採っています。
ワークライフバランスが重要視される背景とは?
ワークライフバランスが重要視される背景には、大きく2つの社会的な要因が影響しています。
①仕事と生活の両立しにくさ
日本社会においてワークライフバランスが重要視される背景には、仕事と生活の間で問題を抱える人が多いという点があります。具体的には、
- 安定した仕事に就けず、経済的に自立できない
- 仕事に追われることによる心身の疲労
- 仕事と子育てや老親の介護との両立
などです。これらの背後にはさらに、経済の低迷や産業構造の変化に加え、共働き世帯が増えた一方でなかなか変わらない勤労者の働き方や性別役割意識といった課題が挙げられます。
こうした状況を放置しておくと、少子化が進む懸念があり、そうすると人口減少と働き方の選択肢が限られる状況とが相まって、一層の経済低迷につながりかねません。
②価値観の多様化
ワークライフバランスの重視へと動くもうひとつの要因は、労働に対する価値観の多様化です。
従来の長時間労働を美徳とする考え方が、過労死や健康問題を引き起こすなどの深刻な問題を生じさせたことから、社会の認識も変化しました。
現代では、仕事に対する様々な価値観が受け入れられるようになっており、「やりがいのある仕事をする」「趣味や特技と仕事を両立させる」などのニーズが高まっています。
このような変化は、プライベートの充実が仕事の成果に良い影響を与えるという認識の高まりにつながり、結果としてワークライフバランスの重視へと結びついています。
ワークライフバランス推進についての具体的な取り組み
ワークライフバランスを推進するために行われている、企業の具体的な取り組みについて紹介します。
①育児休暇
育児休暇は、仕事と生活の両立を支援するための代表的な制度として広く認識されています。
男女双方が育児休暇を取得しやすい環境を構築することは、特に女性にとっての職場への復帰や進出を促進する重要な要素です。
育児休暇取得時の人員配置や業務の適切な分担、定期的な連絡による職場復帰後の支援は、従業員のキャリア継続に大きく貢献しています。
②短時間勤務制度/フレックスタイム制度
多様な働き方を支援するため、短時間勤務制度やフレックスタイム制度、スイッチワークなどが導入されています。これらの制度は、従業員が自分のライフスタイルに合わせて柔軟に勤務時間を調整可能にすることを目的としています。
特に出勤可能な時間帯の選択肢を増やすことで、個々の従業員に適した働き方を実現し、生活と仕事の調和を図ることができます。
③長時間労働の削減
長時間労働の削減は、従業員の健康と生活の質向上に欠かせません。
過去に美徳とされていた長時間労働に代わり、「ノー残業デー」の設定や残業の事前申請制、休日出勤や深夜残業の制限などが導入されています。
これに加えて、業務プロセスの効率化や柔軟な勤務体制の導入により、生産性の向上と従業員の満足度の両方を実現しようとする企業が増えています。
④テレワーク/在宅勤務の導入
テレワークや在宅勤務の導入は、勤務地の柔軟性を高め、従業員のワークライフバランスを向上させる重要な要素です。
特に新型コロナウイルスの流行後、これらの制度は広く普及しました。
通勤時間の削減や移動に伴うストレスの軽減に加えて、育児や介護など特定のライフスタイルを持つ従業員にとっては特に有益です。
テレワークの導入には、効果的なマネジメント、セキュリティの確保、スムーズなコミュニケーション手段の構築が必要ですが、これらの施策は従業員の生活の質を向上させると同時に、通勤費用やオフィス運営コストの削減にも貢献します。
ワークライフバランスのメリットとは?
ワークライフバランスに取り組むことで受けられる、企業や従業員のメリットについて解説します。
生産性の向上
ワークライフバランスの充実は、従業員の生産性と業務効率の向上に寄与します。
日本の生産性が低い理由のひとつに、不必要な長時間労働が挙げられます。
労働者が適切な休息を取れるようにすることで、モチベーションや集中力が向上し、生産性が高まると考えられます。
ワークライフバランスの整備によって働きやすい環境が構築されれば、従業員は仕事への熱意を保ちやすくなり、その結果、企業全体の生産性が向上します。
求める人材の確保
ワークライフバランスを重視する企業は、多様な価値観を持つ求職者からの関心を集めやすくなります。
現代の労働者は、給与水準だけでなく福利厚生、休日の数量、企業の文化や理念、社会貢献度などを重視して職場を選択する傾向にあります。
企業がワークライフバランスを推進することによって、共感を持つ優秀な人材を惹きつけ、長期的な雇用に繋がることが期待されます。
また仕事と生活を調和させる環境は、企業にとって求人市場での競争力を高める要因となります。
コスト削減
休暇制度やテレワーク、在宅勤務の導入には初期コストがかかるものの、長期的にはデジタル化やデジタルトランスフォーメーションによる業務効率の向上が期待できます。
従業員満足度の向上により離職率が低下し、採用や研修に関わるコスト削減につながります。
またオフィス運営費や交通費の削減も見込まれ、企業のコスト効率が向上すると考えられます。
企業イメージの向上
ワークライフバランスの実現は、企業イメージの向上に欠かせない要素です。
従業員を過剰に働かせる企業のイメージは、インターネットを通じて迅速に拡散され、悪影響を及ぼします。
現代の企業経営では、成長だけでなく、CSR(企業の社会的責任)活動としての価値や従業員福祉に対する取り組みが企業評価に大きく影響しています。
ワークライフバランスを実現することにより、社会的に責任ある経営を行っているというポジティブなイメージを構築することが可能です。
ワークライフバランスのデメリット・注意点はある?
企業におけるワークライフバランスの推進には、その正確な理解と業務環境の整備が重要な課題となります。
ワークライフバランスの実施においては「仕事を減らす」という単純な考え方は誤りです。企業は制度や設備の整備を通じて業務効率を向上させることが必要であり、これにより従業員が仕事と生活を調和させつつも、企業の業績を維持することが求められます。
またワークライフバランスに関する議論では、女性の働き方と役割がテーマとなることは避けられませんが、その一方で、女性などの特定の属性に限定されすぎてはいけません。
すべての労働者に適用されるべきという観点から、従業員間の相互理解を促進し、制度の利用を容易にするための環境整備も重要な要素となります。
これらの点に留意しつつワークライフバランスを推進することで、企業は従業員の満足度の向上とともに、企業の持続可能な成長を図ることができます。
ワークライフバランスを重視する企業は増加している
社会的な認識の変化に伴い、ワークライフバランスの必要性が高まっている現代において、多くの企業がこれを重視する方向へとシフトしています。
特に育児休暇や育児中の短時間勤務制度など、男女が利用しやすい環境の構築に力を入れている企業が目立ちます。
加えて、勤務形態における柔軟性の追求も進行中です。リモートワーク、在宅勤務、フレックスタイム制度の導入などにより、従業員が自由度の高い働き方を選択できるようになっています。
また、かつて多くの企業において禁止されていた副業についても、政府の推進により理解が深まり、現在ではスキルアップの手段として副業を許可する企業が増えています。
この他にも、有給休暇の取得率を高める取り組みや福利厚生制度の充実など、多様な働き方をサポートする方策が進められています。
これらの取り組みは、企業にとって共感を持つ人材を確保し、離職率の低下や生産性の向上に寄与すると考えられています。
このようにワークライフバランスの推進は、より多様性に富んだ労働環境の実現へと向かっており、企業の持続可能な発展に重要な役割を果たしています。
まとめ
ワークライフバランスの定義とそのメリットについて解説しました。ワークライフバランスは単に「仕事を減らし、プライベートの時間を増やすこと」を意味するものではありません。
むしろ現在の業務プロセスの非効率性を見直し、業務改革を通じて仕事と生活の間に調和をもたらすことがその本質です。
ワークライフバランスを実現するためには、単に制度を導入するだけでなく、それを効果的に利用しやすい環境を構築することが重要です。
したがって企業や組織においては、この目的を達成するための長期的な戦略と取り組みが必要とされます。
ワークライフバランスは、従業員の幸福感と生産性の向上、そして組織全体の持続可能な成長に寄与する重要な概念といえるのです。