目次
AI、ビッグデータ、IoT、ロボティクス等のテクノロジーの進化、グローバル化の進展など、社会環境がめまぐるしく変わり続ける現代。
加えて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、経済活動の様々な場面で制約がかかる中、私たちビジネスパーソンは常に大きなストレスにさらされています。
しかし、同じストレス下で働いていても心が折れる人と折れない人がいます。
複雑化する社会環境の変化に適応する力として近年注目されているのが「レジリエンス」です。
本記事では、折れない心をつくるためのキーとなる「レジリエンス」の高め方についてご紹介します。
レジリエンスとは
レジリエンスとは、回復力・復元力などの自発的治癒力を表す言葉です。
もともとは心理学の世界で困難や脅威に直面した時に「うまく適応できる能力」「うまく適応する過程」「適応した結果」を意味する言葉として使われてきました。
現在ではビジネスにおいても、逆境や困難を乗り越える力として注目されています。
レジリエンスが注目される背景
レジリエンスがビジネスの現場でも注目を集めるようになった背景としては、主に「時代の変化が速くなってきたこと」と、それに伴い「労働環境も大きく変化している」ことが挙げられます。
企業やそこで働くビジネスパーソンは今、テクノロジーの進化やグローバル化の進展、そしてコロナ禍など、急激な環境変化に適応していかなければなりません。
テクノロジーが進化したこととコロナ禍によって、オフィスに出社せずに業務を行うリモートワークが増え、ジョブ型の働き方が広がっています。
また、終身雇用の概念がなくなり、人材の流動性も高まりつつあります。
時代が急速に変化し、働き方も多様になり複雑性が高まる中、それらに適応する力として「レジリエンス」という言葉がビジネスでも注目されるようになりました。
煉獄さんのセリフが変化の時代におけるキーに
「鬼滅の刃」という、私の大好きな漫画の登場人物のセリフにこのような言葉があります。
「己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。歯をくいしばって前を向け。君が足をとめてうずくまっても時間の流れはとまってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない」
レジリエンスを考える上で、この言葉は核心をついていると感じます。
変化の激しい時代。
仕事で困難な場面に直面することが多くなっています。
時間の流れはとまってはくれません。
仕事の重圧に押しつぶされそうになったり、失敗したりすることもあるかもしれません。
しかし、それでも心を燃やしてまたチャレンジでするために「レジリエンス」を高めておきたいものです。
レジリエントな人(心の回復力がある人)の特徴
レジリエンスがある人は逆境に遭遇してもうまく乗り越えることができます。
レジリエントな人はどんな特徴を持っているのか、主に3つご紹介します。
柔軟で多面的な思考力を持ち、目の前の状況に一喜一憂しない
レジリエントな人は、柔軟かつ多面的に物事を捉えるため、一面では悪いと思えるような出来事でも、あらゆる側面から考えることによってポジティブに解釈し最適なアクションを見いだします。
そのため、目の前の出来事に一喜一憂することなく感情が常に安定しています。
周囲との信頼関係を築くことが得意
柔軟かつ多面的な思考をすることから、周囲から様々な意見を集めることができます。
一方的なコミュニケーションではないため、周囲との信頼をうまく構築していきます。
その信頼をベースにして、自分にできない範囲の仕事は周囲に任せたり、頼ったりすることができます。
困難や失敗があってもチャレンジし続ける
困難なことがあったり失敗したりすると、次の挑戦が怖くなることは珍しいことではありません。
しかし、レジリエントな人は、困難や失敗があっても「次はどうすればよいか」「他にできることはなかったか」など多面的に捉え、そこから学び成長しようとします。
物事をポジティブに捉え、次のチャレンジに結びつけていくことができます。
個人がレジリエンスを高めるメリット
レジリエンスを高めることは個人にとっても企業にとっても大きなメリットがあります。
ストレス耐性が身に着く
高いパフォーマンスを発揮する上で、ストレスが全くないほうがよいかというとそうではなく、適度な緊張感は重要な要素です。
しかし、過度にストレスを感じるとパフォーマンスに悪影響を及ぼしたり、体調不良に陥ったりする恐れがあります。
レジリエンスを高めておくことで、ストレスを受けても回復し立ち直ることができるようになります。
また、ストレスをうまく受け流せるようになったり、ストレスをエネルギーに変換したりする力も身につきます。
ストレスと適切に向き合うことで、精力的に業務に取り組むことができます。
変化への適応力が身に着く
社会が急激に変化することに伴い、転勤や出向、リモートワークの導入など働く環境も大きく変化しています。
また、企業合併(M&A)の数が年々増えています。
M&Aともなると別の会社に転職したように組織文化がガラッと変わります。
レジリエンスを高めておくことで、このようなめまぐるしい環境変化にも柔軟に適応することができます。
目標達成能力が身に着く
社会環境の変化により顧客のニーズが多様化していることもあり、目標達成することが難しくなっています。
多くの場合、なかなか思いどおり進捗せず、大きなストレスと向き合わなければなりません。
レジリエンスを高めておくことで、目標達成のストレスに適切に対応することができます。
困難な場面でも折れない心があれば、たとえ失敗したとしても乗り越えて活動を続けることができます。
企業にとってレジリエンスを高めるメリット
企業が社員のレジリエンスを高めることには、大きなメリットがあります。
離職率を下げ、社員が活き活きと仕事をするようになる
組織のレジリエンスが高まると、仕事のストレスと適切に向き合うことできる社員が増え、ストレスで体調を崩して離職してしまう社員を減らすことができます。
レジリエンスの高い社員はストレスを適度な緊張感として前向きにとらえ、活き活きと仕事に取り組んでくれます。
組織にダイバーシティが生まれる
日本の労働人口が減少する中、女性活躍および幅広い年齢の活躍、外国人雇用などダイバーシティ・マネジメントに取り組むことは企業にとって重要なテーマです。
組織のレジリエンスを高めることで、年齢的・性的多様性を認め、国や人種によって異なる価値観を受け入れる組織風土をつくることができます。
戦略転換やリスクにも臨機応変に対応できる
社会環境の変化に伴って戦略を転換しなければならないケースは、今後ますます増えていくでしょう。
また、想定外のリスクや困難な事態に陥ることもあります。
組織のレジリエンスを高めることで、戦略転換や困難なリスク課題に直面しても、レジリエントな社員の能力によって乗り越えることが期待できます。
レジリエンスを高める方法
レジリエンスの高低には、ある程度の遺伝的要素があると言われていますが、誰もが多かれ少なかれ内面に持っている特徴でもあり、後天的に高めていくことができます。
そこで、レジリエンスを高めるための方法を3つご紹介します。
自己効力感を高める
自己効力感とは、困難な出来事に対して、「自分ならできる」「きっとうまくいく」と思える認知状態のことです。
自ら困難な目標に挑戦し、チャンスを生み出していくことができます。
自己効力感の高め方については、こちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひ合わせて読んでみてください。
思考パターンを変える
多くの人が「思考を変えるのは難しい」と思うかもしれませんが、正しいやり方を理解し、実践することで思考は変えることができます。
そこで、臨床心理学の博士アルバート・エリスが提唱した、「ABCDE理論」という論理療法をご紹介します。
・A(Activating Event)=出来事、事実
・B(Belief)=信念(考え方、価値観、思い込み)
・C(Consequence)=結果(解釈により生じる感情や行動、身体反応)
人は、出来事や事実(A)に対して、自らが持っている信念(B)によって解釈し、その結果として感情や行動・身体反応(C)が引き起こされます。
具体的にみていきましょう。
A:出来事
職場で上司に怒られた。
B:考え方
上司の期待に応えることができず、仕事ができないと思われてしまったに違いない。
C:感情
自分は何をやってもうまくいかない。
ある出来事に対してこのように捉えてしまうことがあるかもしれません。
この時、「ABCDE理論」では、Bの考え方が果たして正しいのか、自ら反論を加えてみます。
・D(Dispute)=反論(自分の捉え方への疑問・反論)
自分の考え方(B)を自覚し、反論してみることで結果として捉え方が変化して、より好ましい捉え方をすることができます。
先ほどの具体例でいうと、「上司は期待してくれているからこそ指摘をしてくれた(B)」という新たな捉え方をしてみると、「今回の指摘を反省点にして次回同じようなミスをしないようにしよう(C)」という感情に変化させることができます。修正した捉え方によって得られる影響を効果(Effect)と言います。
・E(Effect)=効果(効果的な新しい信念体系や人生哲学)
このように、Aという出来事や事実は変えられなくても、Bの信念に反論を加えてみて好ましい捉え方、解釈をすることで思考パターンを変えることができます。
ABCDE理論の考え方を日常生活のなかで取り入れてみると、レジリエンスが高まり、物事を多面的に捉えポジティブに解釈できるようになります。
周囲とのつながりを持ち、サポートを得る
困難に直面した時、どうしても一人ではポジティブに捉えることができない 場面も出てくるかもしれません。
そんな時、一人で抱え込まずに周囲に共感、サポートしてもらえる関係性をつくっておくことも非常に大切です。
まずは、自ら周りをサポートすることで、周囲からの信頼を築いておくといいでしょう。
多くの人は、「人から何かしてもらったら、お返しをしてあげたい」という返報性の原理が働くものです。
何より、一人でできることには限界があります。
周囲と協力をすることでより複雑で困難な問題にもチャレンジすることができるようになります。
それは、個人のレジリエンスを高めるだけでなく、組織としてのレジリエンスを高めることにも繋がります。
チームのレジリエンスを高める方法
個人のレジリエンスだけでなく、チームのレジリエンスを高めるための方法を2つご紹介します。
企業文化の醸成、独自性の追求
企業が何のために存在し、 社会にどのような価値を提供するのかという存在意義(ビジョン・ミッション)を明確にし、社員の普段の行動レベルに根付かせておくことが重要です。
社員の行動の集合体が企業文化となり、環境変化にあわせてチーム一丸となって動く土台ができあがります。
そして、他社にはない自社の「独自性」を磨いておくことで、環境や市場のニーズの変化に柔軟に対応できる武器となりチームのレジリエンスが高まります。
心理的安全性の高い職場づくり
個人が困難や失敗から回復しようとする時、組織がそもそも失敗を許容しない文化だと、レジリエンスを発揮することができません。
ミスした時でもその失敗を隠すことなく素直に打ち明けることができ、それが許容され、次にどうすればいいかの解決策を一緒に考えることのできる組織だと、個人のレジリエンスが促進されていきます。
心理的安全性の高い職場は、メンバー一人ひとりがチームに対して気兼ねなく発言でき、周囲を過度に気にせず挑戦・行動できる職場環境・雰囲気があります。
「失敗するくらいなら挑戦しないほうがよい」と思わせるのではなく、「失敗を奨励する風土」「失敗から学び次に生かすことができる組織」にすることで、心理的安全性の高い職場になります。
心理的安全性の高い職場では、困難な課題に直面してもチャレンジする社員が増え、チームのレジリエンスが高まります。
まとめ
今回は「レジリエンス」について、ビジネスで求められている背景やレジリエンスを高めるメリット、高めるための方法についてご紹介しました。
皆さん自身が個人でレジリエンスを高めたいと思った時、またはチームとしてレジリエンスを高めたいと思った時、本記事が少しでもお役立ちできると大変嬉しく思います。
著者情報
高原 雄樹(グロービス経営大学院 福岡校 スタッフ)
北九州市立大学法学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。楽天株式会社にてインターネットショッピングモール「楽天市場」の出店営業、ECコンサルティング、松山支社の立ち上げ、メンバーのマネジメント等を行う。その後、グロービスに入社。グロービス経営大学院福岡校の成長戦略の立案・実行や組織マネジメント、チームの責任者として従事。キャリアコンサルタント(国家資格)で得た知識・技能をもとに日々学生のキャリアと向き合っている。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。