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いつの時代も分野を問わず、リーダーシップの重要性が語られてきました。
そして近年も、先行きが見えない不安や目まぐるしい変化への対処を背景に、役職や立場に関わらず、リーダーシップの発揮を求められる場面が増えています。
本記事では、これからリーダーになる、リーダーシップを磨きたいという方に向けて、その概念や重要性を明らかにした上で、リーダーシップを鍛え、実践するヒントをお伝えします。
リーダーシップとは
リーダーシップとは、一言でいうと「未来を示し、人々を一つにまとめ、目標達成を導く能力」のことです。
リーダーシップに関する唯一の統一見解はありませんが、「集団を動かす能力」であり、特に「未来の変化に対処する場面で影響力を発揮すること」は概ね共通しています。
参考記事:リーダーシップとは何か?種類や必要とされる特徴を紹介
リーダーシップとマネジメントの違い
マネジメントとの対比から違いを明らかにすることで、リーダーシップの輪郭を浮き彫りにします。
どちらも組織を動かす方法で、マネジメントは「効率的に組織を運営する機能」を、リーダーシップは「変革を推し進める機能」を担います。
リーダーシップ論の権威的権威であるハーバード大学ジョン・コッター氏は、マネジメントとリーダーシップにおける3つの共通する目的(①課題の特定、②課題達成を可能にする人的ネットワークの構築、③実際に課題を達成させる)を特定した上で、それらを実現する具体的な手法が異なることを主張し、以下のように整理しました。
私たちの仕事を取り巻く環境は、複雑さを増すと同時に、変化が加速していきます。
これからの時代のビジネスパーソンには、複雑さに対処する「マネジメント」に加え、変化に適応する「リーダーシップ」が求められます。
"どちらか"ではなく"どちらも"です。
リーダーだけに求められるものではない
リーダーシップは、ポジションや役割に紐づいたものではありません。
「あなたはリーダーシップを発揮していいですよ」と権限として与えられるものでもありません。
自らの意志で、誰もが発揮できるものです。
特に昨今では、あらゆる組織、あらゆる階層・役割で、変化への適応が求められています。
みなさんが働く組織も、上意下達のコミュニケーションから、エンパワーメント(権限移譲)を伴う現場のリーダーシップを重視する組織運営へとシフトしていく傾向にあるのではないでしょうか。
また既存組織の枠に納まらない案件や非公式に試す案件など、まずはプロジェクト単位で推進するタスクも増えています。
それらの機会は、リーダーシップを発揮できる人材にとってはまたとない機会となります。
リーダーシップの発揮に有効な2種類の行動とは
では、リーダーシップを発揮するためにはどのような行動が有効なのでしょうか。
ここでは、三隅二不二氏らが提唱した『PM理論』を紹介します。
PM理論は、リーダーがとる行動に着目し、リーダーシップの発揮に有効な2種類の行動を特定しました。
一つは、集団の目的達成や課題解決に関する「P(Performance)行動」です。
具体的には、目標設定や計画立案、メンバーへの進捗確認などの行動が挙げられます。
もう一つは、集団の維持を目的とする「M(Maintenance)行動」です。
具体的には、良好な人間関係を構築すること、メンバーを理解し動機づけること、対立を解消することなどが挙げられます。
P行動とM行動を掛け合わせることで、図のように4つの類型が示されます。
お察しの通り、P行動とM行動が共に高いPM型(右上)のリーダーシップが望ましいとされています。
さて、みなさんのリーダーシップはどこに分類されますか。
自分のリーダーシップの現在地を把握することで、課題や今後の見通しを明らかにし、行動の比重を変えることができます。
例えば、「現状Pm型だな」という場合、短期的成果だけを追い求めていると、メンバーのモチベーションやパフォーマンスの低下、またチーム内の関係性の悪化などによって足元をすくわれる結果となるかもしれません。
「今、成果が出ているから大丈夫」という判断を見直し、メンバーの育成やチームのコミュニケーション改善などM行動により多くの時間を割くことが役に立つでしょう。
【メンバーのタイプ別】リーダーシップスタイル
さらにリーダーの行動の有効性は、それが発揮される状況に左右されます。
そこで「どのような状況下で、どのようなリーダーシップ行動が有効なのか」を考えます。
ここでは、『SL理論(シチュエーショナル・リーダーシップ理論)』を紹介します。
この理論が注目する状況は、メンバーの発達度(スキルや意欲、経験など)です。
メンバーの発達度に応じて、リーダーがとるべき行動(援助的行動、指示的行動)の比重が異なることを示し、4つのリーダーシップスタイルに整理できます。
<指示型>
新入社員や異動者など意欲は高いがスキルに乏しい状態のメンバー(D1)に対して、タスク面への関心に重きを置き、具体的な指示命令や仕事の進捗を細かに管理する。
<コーチ型>
業務に慣れある程度のスキルが身についてきた段階のメンバー(D2)に対して、タスク面への関心を持ちながらも援助に力を入れ指導はしながらも、自らで考え前進することを促進する。
<援助型>
十分なスキルが身につき、イレギュラーにも対応できる状態のメンバー(D3)に対して、タスク面への関心は最小限に、援助的行動を強化する。
大まかな考え方を揃えた上で、意思決定を任せていく。
<委任型>
後任として任せられるほどに成熟したメンバー(D4)に対して、指示的・援助的な行動を最小限とし、意思決定と問題解決の責任を委譲する。
発達の段階ごとにリーダーシップスタイルを変えよう
皆さんのメンバー・後輩の発達度は、それぞれどの段階でしょうか。
その段階のリーダーシップスタイルを参考にすると、どのような関わり方が適切でしょうか。
具体的にどのような指示的行動・援助的行動がとれるでしょうか。
ぜひ一度、考えられる行動を整理してみてください。
同時にメンバーとしての自分の発達度を踏まえ、周囲(主に上司)からどのような働きかけをされると、自分はより成長し成果を出していけるのかを考え、要求していくことにも応用できます。
VUCA時代に注目を集めるリーダーシップとは
時代の要請にこたえながら、理想とされるリーダーシップの形は進化を遂げます。
例えば、数々の企業不祥事が明るみになったことは、リーダーの成果だけではなく、倫理的側面にも光をあてます。
また、集団や人を動かす原理の比重が「権限による支配」から「信頼による共創」へと移れば、リーダーシップを発揮する方法論も変わります。
そのような背景を踏まえ、近年注目を集めているリーダーシップのあり方を3つ紹介します。
サーバント・リーダーシップ
「リーダーはどうあるべきか」という倫理観や精神性に軸足を置いたリーダー像が「サーバントリーダーシップ」です。
従来のリーダーにある権威的・支配的イメージとは一線を画し、社員・顧客・組織に奉仕する姿勢で、人々が望む目標や社会を実現するために立ち上がるリーダー像が描かれます。
「概念化」や「先見力」などコンセプトで導く力、「傾聴」や「共感」など相手を尊重する姿勢、そして「成長への関与」や「コミュニティづくり」などメンバーを活かす働きかけの特性を有するリーダーシップです。
オーセンティック・リーダーシップ
「自分自身に正直であること」を重視する存在として、倫理的な行動を選択し、共感・信頼に基づく関係を築き、組織を導くリーダーシップです。
「自分らしいリーダーシップ」と表現されることもあります。
具体的には、確固たる価値観・信念を基盤としながら、自らの目標に情熱的に取り組む。
高い自己認識で自らを律しながら、信頼でつながる長期的な人間関係を基盤に築いていく。
そのようなリーダー像です。
ポイントは、自分らしさを貫くことが、社会の利益や社会から求められることにつながっていくことです。
自然体でいることがそのまま「益」となるよう、オーセンティックなリーダーには高度な人間的成長が常に求められます。
セキュアベース・リーダーシップ
セキュアベースとは、「安全基地」です。
セキュアベース・リーダーシップは、安全と安心感といった「思いやり」を提供すると同時に、冒険やリスクといった「挑戦」への意欲をもたらします。
「思いやり」だけでは、過保護を生み、その人の可能性が限定されてしまいます。
一方、「挑戦」だけでは、不安や恐怖を与え、本能的な保身を引き起こします。
思いやりでつながるからこそ、限界に挑戦することができるのです。
リーダーシップを発揮するために鍛えておきたいスキル
リーダーシップを「未来を示し、人々を一つにまとめ、目標達成を導く能力」とした場合に、核となる3つのスキルを提示したいと思います。
未来を描く力
優れたリーダーは、自分たちが向かう未来を描いています。
長期的な視点から現状を俯瞰し、未来を示すパターンを読み取り、ありたい姿(ビジョン)を示します。
その粒度は個人、チーム、組織とリーダーシップを発揮する立場によって異なりますが、リーダーは未来に目を向けプロアクティブに行動し、自らや集団を導きます。
コミュニケーション力(伝達力、傾聴力)
メンバーの信頼や協力なくして、効果的なリーダーシップを発揮することはできません。
その信頼や協力を獲得するためには、コミュニケーション能力が不可欠です。
組織や自分の考えをわかりやすく伝える力、メンバーの意見やアイデアを引き出す傾聴力を、状況に合わせてバランスよく発揮することが求められます。
目標達成の環境を整える力
リーダーの仕事には、人を介して成果を出すことが含まれます。
それであれば、メンバーが力を発揮できる環境を整えることもリーダーの重要な役割です。
近年では、Google社の調査により「心理的安全性」が環境づくりの一例として注目を集めます。
「OKR(Objectives and Key Results)」や「1on1」など効果的な手法を取り入れながら、リーダーは、メンバーが価値発揮しやすい環境を整えます。
リーダーシップを高めるために意識したいこと
信頼関係を築く
リーダーシップは、他者との信頼関係を基盤に発揮されます。
信頼は、信じるに足る「誠実性」や信用できる「能力」、判断・行動の「一貫性」や情報を開示する「オープンさ」が認められたときに高まります。
「約束を果たすこと」「能力を示すこと」「基準に則ること」「真実を伝えること」などの日々の積み重ねが、信頼関係を強化し、リーダーシップの発揮を助けます。
学び、能力を高める
能力は、リーダーに信用と貢献をもたらします。
メンバーは、どれほど"いい人"であっても能力が不足するリーダーを信用しません。
メンバーは、自分たちを触発しより高みへと導いてくれることを、リーダーに期待しているからです。
そして、どれだけ組織・メンバーや顧客に貢献したいと願っても、能力の限界が貢献の限界を決めます。
より多くの貢献は、さらなる学びと成長によってもたらされます。
理想のリーダー像を持つ
理想は、現実とのギャップに意識を向けさせます。
「リーダーとして成長したい」と漠然と思っていても、「成長とは何か」「具体的にどういう状態を目指すのか」が不明確で、成長に向けたアクションがわかりません。
抽象度が高く考えにくいため、リーダー像のロールモデルとなる人を設定することをおすすめします。
歴史上の人物でも身近な人でもかまいません。
具体的にイメージでき、自分が目指したいと思う人をまずは仮のモデルとし、ギャップを埋めるアクションを考えてみてください。
信念を磨く
自分が、心の底から信じていることはなんでしょうか。
言行一致を貫く。
何課題をやり遂げる。
不確実の中で判断する。
情熱をもってことにあたる。
これらの土台にはすべて信念があります。
信念という"自分の原則"に従うからこそ、リーダーという役割を全うすることができます。
まとめ
リーダーシップとは何か、リーダーにはどのような行動が求められるのか、そしてリーダーにはどのようなスキルが必要なのかをテーマに、これからの時代に誰もが求められるリーダーシップという資質について考えてきました。
私が教員を務めるグロービス経営大学院には、『組織行動とリーダーシップ』と『リーダーシップ開発と倫理・価値観』のリーダーシップに関連する2つの科目があります。
『組織行動とリーダーシップ』では、モデルとしての多様なリーダーシップ理論を学びます。
さまざまな事業環境・組織構造の条件下におけるリーダーの取り組みや、この先の変化にリーダーとして適応していく術を体得するものです。
『リーダーシップ開発と倫理・価値観』は、自らが「どうしたら優れたリーダーになれるのか」を探究していく科目です。
各々の「あるべき姿」も「ありたい姿」は、状況や意思で異なります。
置かれた環境の分析や深い自己理解を通して、自分なりの理想のリーダー像とそれに到達するためのアクションプランを確立し、実践していきます。
では、なぜこの2つの科目があるのでしょうか。
それは、リーダーシップは、モデルやメカニズムを理解するだけでは十分ではなく、自ら導き出したリーダーシップの個別解を自らが置かれた環境で実践し、学び続ける営みを通して磨かれていくということを示唆します。
みなさんもぜひ、理論と実践の両輪を意識しながら、リーダーシップを磨いていかれてください。
また、グロービス経営大学院では、随時オンラインにて『無料体験クラス』を実施しています。
全国から、20~30代の若手社会人からミドルマネージャーまで、幅広い年齢層&職種のビジネスパーソンが参加されています。
授業の雰囲気や進め方を知りたい方は、まずはこちらからのご参加をおすすめします。
著者情報
中村直太(グロービス経営大学院 教員)
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修士課程(工学)修了。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア)にて約1,000名のキャリアコンサルティングを経験した後、事業企画にてサービス企画、営業企画、BPRなどを担当。その後、グロービスに入社。グロービス経営大学院のマーケティング(学生募集)企画、名古屋校の成長戦略の立案・実行や組織マネジメント、アルムナイ・キャリア・オフィス(卒業生向けサービス企画)や学生募集チームの責任者などを経て、現在は顧客コミュニケーション設計やセミナー開発・登壇、WEBコンテンツ企画・執筆など様々な事業推進活動に従事。同時に個人としては、人生の本質的変化を導くパーソナルコーチとして活動。グロービス経営大学院の専任教員としては、思考系科目『クリティカルシンキング』、志系科目『リーダーシップ開発と倫理・価値観』に登壇。また、キャリア関連プログラムのコンテンツ開発及び講師を務める。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。