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特別インタビュー|『これからの生き方。』著者・北野唯我さん

特別インタビュー|『これからの生き方。』著者・北野唯我さん

目次

「転職の思考法」や「天才を殺す凡人」など、キャリアに関する書籍を次々と発表し、そのたびに話題となる作家 兼 株式会社ワンキャリア 取締役の北野唯我さん
新作「これからの生き方。」の出版にあたり、北野さんがこれまで著書に込めてきた思いや裏側の思想についてお伺いしました。

<聞き手:本山裕輔>

同じテーマの本は書かない

ー北野さん、どうぞよろしくお願いいたします。

よろしくお願いします。

ーさっそくですが、書籍全般についてお伺いいたします。
これまで5つの著書を出版されていますが、それぞれの役割分担はありますか?

ありますね。僕はまず前提として、同じテーマの本は2回書かないと決めています。
根底の思想みたいなものは一緒なのですが、それぞれ異なるテーマで書いています

例えば「転職の思考法」は、そのタイトル通り、思考法を用いて転職に対する答えを出していくというものです。
天才を殺す凡人」は、才能同士のぶつかり合いによってイノベーションが阻害されてしまうことを、極めて汎用性の高い理論で解き明かすことを目的として書きました。
分断を生むエジソン」は、なぜ対人間で分断は起こりうるのか、一つの世界の中でどういう価値観を持った人たちが共存しているのかを解き明かすことを目的としています。
これは、僕が人生をかけて解きたいテーマの一つでもあります。
オープネス」は、職場の空気やデータをどうやって経営に活かすのかという、経営者よりの本になっています。
これからの生き方。」は、そのタイトル通り、これからの生き方をどうやってセットしていけばいいか、それぞれ持っている価値観に基づいてどのように資本市場の中で生きていけばいいのかについて、1つの指針として答えを出すことを目的としています。

あとは、以前、知人の方にに「唯我さんってアーティスト(ミュージシャン)みたいな本の出し方をしますね」と言われたことがあります。
「それはどういうことですか」って聞いたら、「マス向け本、ニッチ向けの本、マス向けの本、ニッチ向けの本、と交互に出してるよね」と言われました。
たしかに言われてみると、そうなんですよね。
沢山の人に手に取ってもらいたい本、狭くて深い専門的な本。
この2種類を交互に出版していますね。
例えば、「転職の思考法」が幅広い方向け、「分断を生むエジソン」は僕が一番書きたいことを好き勝手に書いたものです。

目指すは"応援ソング"のような本

ーなるほど。では、逆にこの5冊の共通項と、執筆の際に意識していることについてもお伺いしたいです。
「コミュニケーションの分断」の話が共通して出てきますよね。
どのような背景や思想からくるのでしょうか。

よく「悩みのほとんどは人間関係だ」という話を聞きますよね。
結局、「本って何のために書くのかな」と考えると、やっぱり読んでくださる人の悩みが解決されたり、幸せになったりすることかなと思っています。
そして、本当にその人のためを思うのであれば、「その人自身で答えを見出していくしかない」ですよね。
だから、安易なハウツーよりも、もっと応援するような武器や思想を届けたい、と思っています。
僕はそれを「応援ソングみたいな本」と表現しています。
では、ビジネスパーソンに送る応援ソングを作る際に、1万人のビジネスパーソンが悩んでいることって何だろうと考えたら、それは「コミュニケーションの分断」であったり、「組織の中での衝突」であったり、「人と人との価値観とのぶつかり合い」じゃないですか。

だからこそ、僕は「コミュニケーションの分断」への対処法を解き明かすことが、応援ソングとしては一番重要だなと思っています

常に真実をギリギリまで書きたい

ーもう1つ共通項として気になったのが、「人の光と闇の両方の側面を描いている作品が多い」ということです。
北野さんの著書は、ストーリー仕立てで様々なキャラクターが登場しますが、ちょっと嫌な役の人物も「完全な悪役」ではなく、良い側面にもスポットライトを当てたりしていますよね。
何かこだわりがあるのですか?

そうですね。僕は本を手に取った方が、最後の最後はポジティブな気持ちで迎えられる本がいいなと思っています。

そして、できることなら、やっぱり真実を書きたいって思っています。
世の中に、完全な善とか完全な悪って存在しないじゃないですか。
もしもそれが世の中の完全な悪とか完全な善とかに見えているのであれば、それはその人自身がただ未熟なだけだと思っています。

立場が変わったら善と悪が逆転するかもしれないですよね。
例えば、ハンコの電子化について、さんざん叩かれているじゃないですか。
僕自身、「ハンコがなくなってほしいか」と問われると、ハンコはなくなってほしい、電子で出来たら楽だという気持ちも分かります。
でも、もしも自分がハンコ屋の立場だったら、多分反対すると思うし、どうにかその事業を繋いでいく術を考えます。

半沢直樹的な、「悪は悪、善は善」みたいな世界は、僕はフィクションの世界感だと思っています
それはいい悪いではなく、歌舞伎の世界やエンターテイメントとしては成り立つと思うのですが、現実の世界ではそのようにはいきません。
僕はエンターテイメントでもありたいという気持ちもありますが、エンターテイメント以上に、実際に働いている人に寄り添いたいという気持ちの方が強いので、いち側面だけ書くということはしません。
悪役として登場するキャラクターにも良い側面があることを見せたいし、変わっていこうとする姿を書きたいと思っています。
見捨てるみたいなのはできる限りしたくないですね。
だから、ものすごく現実的な一方で、ロマンチストでもあり両者が常に共存しています

自分の名前で生きていく人の割合を増やしたい

普段、会社の経営やCHRO(人事最高責任者)的な仕事もしているのですが、「自分の名前で生きていく人」の割合を増やすことが、会社としてもすごく重要だと考えています。
ですので、僕自身、メンバーを積極的にメディアに露出させたり、名前を残してあげたりしています。
そして、そういう話を講演ですると、「それって理想論ですよね。今北野さんの会社が数千人規模じゃないからできることじゃないですか」といったことも言われるのですよ。
そのような時に思うのは、「もちろん、理想論だということも承知している」と。
でも、理想を追い求めるからこそリーダーですし、スキルを磨いたり勉強するはずですよね。
たとえば、グロービス経営大学院に学びにきている学生も志があって、理想の世界、高いものを目指すからこそ、人一倍努力しているんでしょ、と。
むしろ、理想を持っていない学習って意味があるのかな?とすら思います。

それは、執筆する時も同じで、「完全な善や完全な悪は存在しない」という話にも戻りますが、悪役で登場するキャラクターが最後の最後で変わる可能性があるかもしれない。
それを信じて描きぬくということは、リーダーとして必要だなと思っているので、書いています。

良い意味で読者の期待を裏切りたい

では、次は新作「これからの生き方」にフォーカスを当てて、質問をさせてください。
まず、章立て構成が特徴的ですよね。
第一章は漫画から始まって、第二章は自己分析のワーク編、そして第三章では北野さんご自身の経験からくるような独白編があり、最後に漫画編で出てきたそれぞれの登場人物の5年後を想定してインタビューするという。
このような構成は今まで見たことがないのですが、どのような意図がありますか?

そうですね、2つあります。
1つは、「主観」と「客観」の行き来
普通はそれぞれ別々の本でやりますが、一冊の本だけで完成させてみたかった。
もう1つは、シンプルに誰もやったことのないことをやってみたかった。
遊び心ですね。
私には、常に良い意味でちょっとだけ読者の期待を裏切りたいっていう気持ちがあります。

例えば、2作目の「天才を殺す凡人」では、主要キャラクターにしゃべる犬が出てくるんですね。
1
作目の「転職の思考法」はすごく真面目なビジネスの話だったので、おそらく1作目を読んで2作目を読んでみようと思ってくださった方は、「次もすごい真面目な話がくるな」と考え、期待していると思うのです。
僕はそういった期待があることも分かった上で、なんとなくちょっと裏切りたいなって思いました。
それは、例えば友達と会う時とか、なんかちょっとサプライズしようという気持ちってあるじゃないですか。
そういう気持ちでやってるんですよね。

で、そういう気持ちで書いたらですね、「天才を殺す凡人」のアマゾンレビューの一発目が星3つで。
「この本は、内容は抜群に面白いが、犬が微妙なので星3つ」と書かれ、え~っとはなりましたが、そうだよねとも思って。
こういう遊び心って、資本市場の中でやると正直怒られますよね。
ビジネスの重要なシーンで、いきなりパワポにキャラクターを入れたりとかすると怒られるじゃないですか? でも、僕は遊び心も人生では大事だと思っているので、常に「ちょっとした意外性」をいつも入れています。

真面目な話、クリエイター(作家)としては、そういう風にちょっとずつ毎回変えていかなければ生き残れない
ですので、新作「これからの生き方」でも、導入を漫画にしたり、登場キャラクターのインタビューを入れたりしています。
これからも読者が、あっと驚くようなことをやっていきたいですね。

ー最後の章の「漫画の登場人物に5年後にインタビューする」というのは、最初から構想があったのですか?

いえ、そんなことは全然ないです。
制作過程で思いついたアイデアです。
根底にある思想をお話すると、キャリアの話をするためには「横軸と縦軸で展開する必要があるな」ってずっと思っています。

例えば、今って世の中にキャリアに関するイベントや書籍って山ほどありますよね。
でも、みんなキャリアについて悩み続けているじゃないですか。
それはなぜかというと、やっぱり「N=1だけの答えでは絶対答えが出ない」からだと思っていて。
そして、それを展開させるために、横軸でまず価値観の軸をきった。8人の登場人物を出したんですね。キャラクターそれぞれ違う価値観を持ち、強みも違うと。

それにプラスアルファで、縦軸の考えも必要だなって思っていて。
縦軸というのは、20代の前半のときは「絶対に成し遂げたいことがある、という意志型」だったけど、5年後子供ができたりすると変わってくる、といった時間軸とも言えます。
横軸と縦軸の両方を展開させないと、本当に自分に合った言葉やキャリアの課題というものを見つけられないなのではと思っています。
だからこそ、5年後の登場人物にインタビューしてみるという項目を入れることで、より網羅的なコンテンツにすることを目指しました。

ロジックだけでは解決できないのが人間

ー北野さんの書く文章を読んでいると、ロジカルでありエモーショナルであるなと思います。
一見矛盾しそうなものを両立させている感じがあるのですが、どうやったらそのような文章を書けるんですか?

それは......無意識でやっているので、正直にいうと、分からないですね。
でも、マインドというかスタンスの部分で言うと、ちょっと傲慢かもしれませんが、とにかく「読者に寄り添い、答えを出してあげたい」って思っています。
だから、ロジカルだけでも、エモーショナルだけでも駄目で、読者自身の武器に気づかせるのであれば、どちらも必要だと思っています
正直、データや分析メインのロジックだけの方が簡単だなって僕は思うんですよ。
でも、ロジックや正論だけでは解決できないのが人間じゃないですか。
人間というものをできる限り知りたいと思ってるし、興味があるんでしょうね。

やりたいことを目標に置くのは苦しい

―「これからの生き方。」は、価値観、つまりbeingにフォーカスしている点が特徴的ですよね。
多くのキャリア本は、やりたいことの見つけ方や目標の設定方法などdoingに寄っています。
doing よりもbeing側(価値感)にフォーカスしている理由を教えてください。

人生は、doing とかやりたいことを目標に置いてしまうと苦しいからですね。
それを煽る方が分かりやすいですけど、それは仮に今「やりたいこと」を持っている人ですら、その「やりたいこと」だけにフォーカスすると苦しくなりますね。

例えば、小さい頃からサッカー選手になりたいと思って、夢が叶いサッカー選手になって活躍するも、引退後には何をすればよいのか分からなくなってしまう方。
あるいは、俳優として大活躍していたのに、自死を選んでしまう方もいらっしゃいますよね。

doだけに軸を置いていたら、そのdoが崩れた時に、自分は何をすれば良いのだろうと、やるべきことが分からず苦しくなってしまいます
全ての物事は、目的と手段の関係にあると思っていて、サッカーをやりたいと思っているのなら、その背景には何かしらの価値観があるわけですよね。

「その価値観を満たすのはサッカーであるから、サッカー選手として活動したい」という構造が本当は正しいと思っていて、前提となる自身の価値観を理解していた方が、やりたいことが達成できなかった時や終わった時にもピボットしやすくなるって事はあるんですよ。

これは、会社の経営も一緒だと考えています。
例えば、サイバーエージェントさんが「21世紀を代表する会社を創る」という、抽象度の高い目標をあえて置いているのは、もしこれが「広告事業においてナンバーワンになる」という目標だった場合、広告事業で頓挫した時とか、広告事業でナンバーワンを達成してしまった後に、じゃあこれからどうすれば良いの俺たち、となるからだと思うんですよ。

本当に構造的に自分の生き方を決めるためには、やりたいこと、つまり doingはもちろんあっていい。
でもそれは、「今やりたいこと」に過ぎず、その前提となっている価値観が必ずあります。
そのため、「これからの生き方。」では、やりたいことではなくて、価値観にフォーカスしています
その方が本質的だし、汎用性が高いなと思っています。

特別セミナー告知

なるほど。「beingが目的でdoingは手段」という構造で整理するのですね。
それでは最後になります。
20201116日(月)に北野さんにご登壇いただくグロービス経営大学院主催の特別セミナー。
参加を検討されている方へ一言メッセージをいただけますでしょうか。

お伝えしたいことは2つあります。
1つは、質疑応答の時間も当日たくさん持ちたいなと思っているので、一方的な話ではなく、参加される方の今悩んでいることのヒントが見つかる会にできればと思っています。
もう1つは、こういうセミナーの主役は、登壇者ではなくて「聴き手」だといつも思っています。
僕はシンガーソングライターなどアーティストの方をとてもリスペクトしているのですが、それはミュージックって受けとった聴き手が主人公になれるからです。
僕が本を執筆する上でも仮想上のストーリーを選んでいるのは、やはり主役は僕ではなく、読み手が主役だと思っているからです。
ですので、当日のセミナーでは、聴き手がそういう気持ちになれる、前向きに自分の人生もう一回取り戻そうという気になるような、そういうものにしたいなと思っています。

ー北野さん、ありがとうございました!

<聞き手:本山裕輔>

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著者情報

新宅 千尋(グロービス経営大学院 大阪校 スタッフ)

新宅 千尋(グロービス経営大学院 大阪校 スタッフ)

神戸大学理学部生物学科卒業、京都大学大学院生命科学研究科修士課程修了。幼少期より「思考や感情の発生」に興味があり、独学で心理学や脳科学を学ぶ。一方、「内なるものの表現」にも関心があり、10年ほどアトリエ教室に通う。学士/修士課程では脳の再生の基礎研究に従事。新卒で大手総合通販会社に入社後、Webマーケティングチームに配属。心理学や行動学の知識とアトリエ教室で培った感性を融合させ、売上や購入率向上に貢献。その後、社内から「人の力」で会社を強くしていく人材教育領域に興味を持つようになり、次世代のビジネスリーダー育成と輩出を目指す、グロービスに転職。グロービス経営大学院のコンテンツメディア企画チームに所属し、自身のキャリアに悩んだ経験から、グロービスキャリアノート制作・運営に携わる。

※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。

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