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「若いうちに自分の軸を持ちたい」
そう思っている方は多いのではないでしょうか。
今回は、将来にわたって自身の判断軸を見つけるきっかけとなるキャリアアンカーについてお伝えします。
キャリアアンカーとは
個人が自らのキャリアや働き方を選択する際に、どうしても譲れない「価値観」や「欲求」「コアコンピタンス(能力)」のことを指します。
マサチューセッツ工科大学名誉教授のエドガー・H.シャインによって提唱されたキャリア理論の概念です。
アンカーは英語で「錨(イカリ)」という意味です。
自分を船に、人生を航海に例えた場合、錨(キャリアアンカー)は、船が潮目で流されてしまうことを防ぐ働きをします。
キャリアアンカーは、生涯に渡り自分の働き方の軸となるものです。
瞬間的な好みや周囲の環境、ライフステージによって変化するものではなく、自身にとっての「核」に該当するものです。
なるべく早いタイミングでこの軸を理解しておくことは、満足度の高いキャリアや働き方を選択する上で有利に働きます。
キャリアアンカーを知るメリット
キャリアンカーは8カテゴリーに分類されますが(詳細は後述します)、どれに自分が当てはまるかは40項目の質問に答えることで把握できます。
企業の人材流動性が高まり、働き方が多様化する今、キャリアアンカーを把握することは、個人と組織の双方にとってメリットがあります。
個人のメリット:満足度の高いキャリアや働き方を選択できる
自身の根幹となる軸(アンカータイプ)を把握することで、昇進や転職、結婚など様々な人生の節目で、自分の望む満足度の高い働き方を選択しやすくなります。
そして、表面的な外部情報(報酬や肩書など)の誘惑を受け、後になってから不満を感じるような就職や転職をしてしまうリスクを回避できます。
組織のメリット:ミスマッチを防ぐことができ、離職率の改善につながる
企業側にとっても、個々の社員のアンカータイプを把握することのメリットがあります。
例えば、人事担当者が人員配置を考える際、候補者が技術力を極めたいタイプか、ゼネラリストを目指したいタイプか分かっていれば最適な采配を振るうことができます。
転職が当たり前になっている昨今、能力のある人材を組織に定着させるために、個人に寄り添った人事の重要性はより高まっています。
そして、適した配置をすることで、個々の社員のパフォーマンスを最大化することができ、組織としての成果も上がります。
キャリアアンカーの8つの分類と適職
それでは、次にキャリアアンカーの具体的な8つのカテゴリーを見ていきます。
キャリアアンカーを提唱したエドガー教授が、何百人ものビジネスパーソンをインタビューし、最終的に特定したものです。
①専門・職能別コアコンピタンス
「専門家」としての能力を発揮したいタイプです。
自分の才能をフルで発揮し、専門性を高めていくことに満足感を覚え、またそれによってやる気スイッチがONになります。
高い技能を身につけることに魅力を感じ、現場に近い所で、特定の分野でのスペシャリストとしての活躍を望みます。
一方で、専門スキルや知識を発揮する機会が減るマネジメント職には、相対的に関心が低い傾向があります。
自分の能力を存分に発揮できない部署などに異動すると、やりがいを見失ってしまい、仕事に対する満足度が大きく低下してしまいます。
②経営管理コアコンピタンス
いわゆる「出世欲が強い人」です。
キャリアを歩むにつれて、自分自身がゼネラル・マネージャーとして経営管理に携わりたいという気持ちが強いことに気が付くタイプです。
リーダーや管理職としてチームをまとめたり、組織の階段をできるだけ高いところまで上り詰めることに充足感を覚えます。
責任のある仕事をしたい、組織を動かしたいといった気持ちが強く、経営全般に関する能力獲得のため、若手のうちに様々な部署への異動することに関して積極的な傾向があります。
③自立・独立
集団行動のための規則や手順、作業時間、服装規定などに束縛されることが苦手なタイプです。
あらゆる場面で、自分の裁量で仕事のやり方やペースを柔軟に決められる組織や職種(士業や研究職、フリーランスなど)に惹かれます。
自分が納得できるやり方で進めたいという気持ちが強いので、上司との距離が近く、すぐに提案や相談、ディスカッションができる環境で力を発揮します。
④保障・安定
安定した仕事や報酬など、安定性を最も重視する人です。
安全で確実と感じられ、将来の出来事を予測することができ、ゆったりとした気持ちで仕事をしたいタイプです。
雇用保障や終身雇用権などにこだわり、大企業や公務員として働くことを望む傾向があります。
大きな変化を嫌い、転職やキャリアチェンジには保守的で、働き方が変わることや他部署への異動に抵抗を感じるタイプです。
⑤起業家的創造性
新しい製品や新サービスを開発したり、財務上の工夫で新しい組織を作ったりなど、リスクを恐れず、何か新しいことを生み出すことに楽しみや充足感を覚える人です。
雇用者として働いている時でも、常に起業や独立の可能性を探っています。
社内にとどまってほしい人材であれば、新規事業や組織の立ち上げなどを任せるのも有効です。
⑥奉仕・社会貢献
自分の仕事を通じて「何らかの形で世の中を良くしたい」という欲求が強く、社会貢献に価値を感じるタイプです。
自分の能力を発揮できる仕事よりも、人の役に立つ仕事に惹かれます。
商品・サービス開発や医療、社会福祉、教育に関する仕事に就く傾向があります。
環境問題や地域問題に関する事業の立ち上げや起業をする人もいますが、それは手段にすぎず、彼らの根幹的な想いは「社会貢献」です。
⑦純粋な挑戦
誰もが無理と思うような難題や、手ごわい相手に打ち勝つことに満足感を覚えるタイプです。
彼らにとっての成功とは、不可能と思える困難を克服したり、相手に勝つことであり、専門を問わず「挑戦」を人生のテーマにしています。
自身の得意・不得意分野に限らず、「挑戦しがいがある」と感じたテーマには積極的に取り組み、異動や転職にも前向きです。
ハードワークも受け入れますが、ルーティンワークは苦手な傾向があります。
⑧生活様式
個人としてどうしたいかだけでなく、家族や会社のニーズとの調和を大切にするタイプです。
仕事とプライベート両方の適切なバランスを常に考えています。
在宅勤務制度や育児休暇制度など、柔軟な働き方ができたり、福利厚生のしっかりしている企業に惹かれます。
一方で、たとえ昇進だとしても、家族が犠牲になる転勤は辞退するといったこともあります。
キャリアアンカーの診断方法
自身のキャリアアンカーについては、こちらのサイトから簡単に診断することができます。
どのようなアンカーが見つかったでしょうか?
キャリアアンカー診断は、あくまでも自分自身のキャリアについて理解を深めることを目的としています。
この結果をそのまま鵜呑みにする必要はありませんが、点数が一番高かった項目について取り上げ、全体的に眺めてみてください。
そして、その項目から自分自身の自己概念を創り上げてみましょう。
自分ではまだ気づいていなかった、新しい発見が見えてくるかもしれません。
まとめ
今回は、自分のキャリアの軸を知るためのヒントとしてキャリアアンカーについてご紹介しました。
周囲の情報に自分の人生を振り回されないように、自己分析の手法として活用してみてください。
人生の決断をしなければならない時に、きっと役に立つはずです。
著者情報
加藤 想(グロービス経営大学院 東京校 スタッフ)
神戸大学工学部卒業、同大学院工学研究科修士課程(工学)修了。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。大手通信会社にて設備設計業務、採用活動に従事した後、サービス戦略部門にて新サービスの立案、AI、BPRなどを担当。その後、グロービスに入社。グロービス経営大学院の学生募集企画にて学生のキャリア相談、新規施策立案などを行っている。また、グロービス経営大学院のVoicy「ちょっと差がつくビジネスサプリ」のパーソナリティを務める。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。