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音声メディアVoicy「ちょっと差がつくビジネスサプリ」特別対談企画として、エンジニアとしてキャリアを歩んできた末永 昌也(グロービス・デジタル・プラットフォーム CTO)にインタビューを行いました。「エンジニアとして今何が求められているのか」「この先どのようなスキルアップ・キャリアアップを考えていくべきなのか」といったことを前編と後編に分けてお届けします。
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【対談】エンジニアがキャリアアップするためには?(前編) 現場での経験をもとに語られる、末永昌也氏のキャリア形成のリアルと、エンジニアが今注目すべきキャリアの選択肢について、ぜひご覧ください。技術力だけでなく、教育への情熱やチームワークが求められる時代に、あなたが目指すべきキャリアとは何かを見つけるヒントがここにあります。
MBA取得のきっかけ
技術力だけでは打破できない壁
加藤:ここからは末永さん個人のお話についてお伺いさせてください。もともと末永さん自身はテック分野に関してかなりいろんな勉強もされていて、実績もあるような状態だったと思うのですが、その後どうしてMBAを学ぼうと思ったのでしょうか。
末永:グロービス経営大学院の英語MBAプログラムを修了したのですが、通い始めた理由としては前職のCTO(最高技術責任者)としての経験が大きかったです。まずひとつは、CTOという立場になると、プロダクトを作ったり技術力を上げたりするだけではやっていけなかったんですよね。
CTOを務めていた当時、投資家の方向けに話をしたり、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)と今後の事業戦略をどうするかみたいな話をしたりしないといけない。そこで、ビジネスにおける明確な考えやアウトプットが出せないと、CTOとしては意味がない、もっと言うと価値を発揮できないんですよね。
当時、私は経営に関する十分なスキルを持っていなくて、その中でもとくにファイナンス領域が分からなかったんですよ。スタートアップ向けだと『起業のファイナンス』という本が有名だと聞いて自分で読んでみたりもしました。しかし、単なる知識をインプットするだけではよく分からなかった、というのが正直なところだったんです。そこで本当に実践的な学びを得るために、MBAに通い始めました。
英語MBAプログラムを選択した理由
末永:なぜ英語MBAプログラムだったのかについては、「エンジニアはコミュニティが強い」ということが関係しています。エンジニア関係のカンファレンスなどに行くとグローバルな方々がいて、英語で会話をしている場に遭遇します。私は海外に留学した経験もなければ、海外旅行の経験もほぼなかったので、英語で会話したりビジネスを推進したりということも当然ありませんでした。
なかなかエンジニアのコミュニティに入っていけないというところに、すごいもどかしさを感じたんですよね。それで英会話など、独学で英語を勉強していたんですけど、結構限界もあって。より実践の中で英語力を身に付けたいという思いもあって、今考えると若干無謀だったなと思うんですけど「英語でMBAを取る」というチャレンジをしました。
MBAの学びを実務に活かす
経験したことのない状況でも成果を出せるように
加藤:ちなみに、MBAの学びをその後活用できるシーンはありましたか?
末永:実際にMBAを取得して非常によかったなと思っています。1社目が社員数30~50人くらいのベンチャー企業で、2社目は自分で会社を立ち上げた10人ちょっとくらいの組織しか経験していない中で、現在はエンジニアだけで100名を超えるような組織をリードする立場を任されています。
立場が変われば、やっていること、考えるべきこと、発信しなければいけないことって結構違うんですよね。大規模な組織を率いるという自分が経験したことのない状況においては、これまでのやり方から変えなければならないことは明確にあると思っています。そうした未知の状況でも組織として一定の成果を出せているのは、やっぱりMBAで学んだことが支えになっているからだと感じています。
戦略や組織に合わせたリーダーシップスタイル
加藤:先ほどの"変えなきゃいけない部分"というのは、組織の規模が大きくなるにつれて、リーダーシップの発揮の仕方を変えていくというイメージですか?
末永:まさにそうだと思います。例えば小さい組織であれば、ダイレクトマネジメントみたいなことが上手くワークすると思います。もっと言うと、個人のタスクをしっかりとマネジメントすればプロダクトが成長していくんですよね。中規模な組織でいくと、個々のメンバーはリーダーに任せて、チーム単位で組織をマネジメントしていくという形になっていきます。
今のような100名を超える大きな組織で言うと、それこそ俯瞰した状態から戦略や組織を見ていかなければいけません。このように組織の規模によって、リーダーシップスタイルは全く異なると思うんです。
きっとMBAで学んでいなかったら、「なんかよく分からないけど、うまくマネージできない」という状態になっていたんだろうなと思います。よくスキルレベルについて、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルのように階層立てて説明されますが、まさに今はコンセプチュアルスキルのような「考える力」の必要性を強く感じています。マネジメントの在り方について、MBAから多くのことを学ばせてもらったなと思いますね。
これからのエンジニアに求められるものは?
戦略や企画への理解
加藤:これからのエンジニアの方に求められるものについてどうお考えでしょうか。日本国内だけ見るとどこもエンジニア不足で、売り手市場・引く手あまたな状態だと思いますが、今後長期視点で考えたときに必要になってくるスキルや考え方があればお伺いしたいです。
末永: ChatGPTのような最新ツールをどんどん活用する姿勢というのは、エンジニアにとって非常に大事ですね。それこそテクノロジーの進化によってプロダクト開発はラクになっていると思っているんですね。
世の中のデザインツールやプロトタイピングツールも本当に進化していますし、これから生成AIがもっと進化して「画像をアップロードすればそれなりのモックアップを作ってくれる」ぐらいのところまでできるようになり、プロダクト開発のコストがかなり下がっていくと思います。
そうなると今後は、「何を作るべきか」という企画などの上流フェーズをビジネスサイドの方と一緒にやっていくことがより求められるのではないでしょうか。「こういうことをやりたいんだけど、技術でどう解決したらいいか分からない」というビジネスパーソンの方は多いと思います。そうした方としっかりコミュニケーションしながら、戦略や企画を考えていくことが大事になってくると感じています。
ビジネスとエンジニアリングの越境
加藤:そういう意味でいくと、ある意味ビジネスサイドのほうもChatGPTのおかげで、専門知識がなくてもある程度のアウトプットは出せるようになっているので、双方で議論しながら進めていくというのは非常に大事ですよね。
末永:私もそれは期待をしていて、ビジネスパーソンの方もエンジニアリング的なことが分かりやすくなったのが最近だと思っています。例えばプログラムのソースコードを見ても、ビジネスパーソンの方は何が書いてあるかよく分からないことも多いのではないでしょうか。しかしこれをChatGPTに入れることで「これはこういうことをしているものです」と分かりやすく教えてくれたり、「これをこう改善したいんだけど、どうしたらいい?」と聞くと答えてくれたりするんですよね。
これから先は、そうしたビジネスとエンジニアリングの越境が本当に大事になってくる世の中だと思っています。だからこそエンジニアもビジネスサイドの方も、そうしたテクノロジーをどんどん使ってほしいですね。
相手を動かすためのコミュニケーション
加藤:ちなみにエンジニアの方が、上流の企画や課題設定、要件定義といった領域にもしっかり入っていくために、まず学ぶべきことやするべきことは何でしょうか。
末永:ちゃんとコミュニケーションを取ること、ですね。MBAの学びに引き寄せて考えると、「コミュニケーションは何のためにやりますか?」ということだと思っています。
「自分に都合のよい方向に持っていく」とか「相手を論破する」みたいなことではなくて、相手に動いてもらうためにコミュニケーションすることが大事だと「クリティカル・シンキング」や「ビジネス・プレゼンテーション」から学びました。最終的なゴールをどこに定めるのか、そしてそれを意識した上でコミュニケーションしていくことが大事だなと思います。
例えば、難しい言葉やエンジニアにしか伝わらない専門用語を使っても、それでは相手に伝わらないし、動いてもらえないんですよね。こうしたことを強く意識することがすごく大事だと思います。普段のコミュニケーション一つ一つが成果につながり、それが信頼となり、周囲とのよい関係性になっていくのではないでしょうか。
「モノを作る」時代から「価値を作る」時代へ
加藤:ありがとうございます。それでは最後に、エンジニアの方向けに何かメッセージがあればお願いします。
末永:エンジニアの中には、技術力を高めたいという方は多いと思います。しかし、これからは新しいことや大きなことに挑戦しようとすると、ビジネスへの理解やビジネスサイドの方とのよい関係性が必要になると思います。「モノを作る」時代から、「価値を作る」時代になってくるので、ビジネスサイドの方と協働しながらよいプロダクト、よい社会を皆さんと作っていけると嬉しいです。
加藤:ありがとうございます。今日はエンジニアの方向けというところで、今後何を求められているのかというテーマでお話をしてきました。ビジネスサイドの方にもヒントとなるような内容がいっぱいあったと思いますので、何か参考になれば嬉しく思います。末永さん、どうもありがとうございました。
末永:ありがとうございました。