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事業開発とは、企業が持続的に成長するために、新たな事業機会を見つけ、事業として成立させ、成長させるまでを担う仕事です。英語では「Business Development(BizDev)」と呼ばれます。
事業企画や営業との違いが分かりにくい職種ですが、事業開発は市場検証からビジネスモデル設計、パートナー連携、組織化までを横断的に担う点に特徴があります。
本記事では、事業開発の定義と役割を起点に、仕事内容、求められるスキル、向いている人の特徴、キャリアパスまでを簡潔に解説します。
解説
事業開発とは、英語の「Business Development(BizDev)」の訳語であり、一言で言えば「事業を成長させるための新しい仕組みを創ること」を指します。
単に新しい製品を作ることだけが仕事ではありません。
市場を分析して潜在的なニーズを掘り起こすことはもちろん、自社の既存プロダクトを新しい市場(未開拓の業界や顧客層)へ適合させたり、新たな販売チャネルを構築したりすることも重要な役割です。
これら一連のプロセスを通じて、「顧客への価値」と「自社の経済価値」を同時に最大化させることが、事業開発の本質です。
これら一連のプロセスを通じて、「顧客への価値」と「自社の経済価値」を同時に最大化させることが、事業開発の本質です。
既存の枠組みに捉われず、非連続な成長を描くための攻めの営みと言えます。
企業において事業開発の役割とは
企業における事業開発の役割は、大きく分けて「0から1を生み出す」ことと「1を10、100へとスケールさせる」ことの2点に集約されます。
多くの企業では、既存事業の延長線上だけでは、市場の変化や競合の台頭によっていつか成長の限界(プラトー)に達します。
事業開発は、自社のアセット(経営資源)を再解釈し、新しい市場や顧客セグメントに適合させることで、第二、第三の成長エンジンを創り出す役割を担います。
また、社内の各部門(開発、営業、法務など)や社外のパートナーを繋ぎ合わせ、一つの「事業」として機能させるためのハブ(結節点)としての機能も果たします。
事業開発の仕事内容を紹介
事業開発の仕事は多岐にわたり、フェーズによって求められるアクションが変化します。
机上の戦略立案にとどまらず、現場での仮説検証から仕組み化までを一気通貫で行う、その具体的な5つのステップを以下に紹介します。
市場機会の特定とアイディエーション
事業の種を見つけるフェーズです。
ここで言う「市場機会」とは、社会の変化や顧客の未充足な悩みの中に潜む「自社が勝てる余地」を指します。
PEST分析や3C分析といったフレームワークを用い、社会の変化や技術動向、競合の隙間を読み解きながら、解決策のアイデアを練り上げる(アイディエーション)プロセスが重要です。
グロービスではこれを「イシュー(解くべき問い)」の特定と呼びますが、正しい問いを立てることが、事業の筋の良さを決定づけます。
ビジネスモデルの設計と収益化
市場機会が見えたら、次は「いかに持続可能なビジネスにするか」の設計です。
ここではビジネスモデル・キャンバスなどのフレームワークを駆使し、誰に、何を、いくらで提供し、どのように利益を残すかの収益モデルを練り上げます。
単なるアイデアを「新規事業」へと昇華させるためには、キャッシュポイントの設計だけでなく、ユニットエコノミクス(1顧客あたりの採算性)の検証が欠かせません。
プロトタイピングとMVP開発
完成品を作る前に、MVP(Minimum Viable Product:必要最小限の機能を持つ製品)で市場の反応を確かめるフェーズです。
事業開発担当者は、開発チームと密に連携し、仮説検証を高速で回します。
ここでは、完璧主義を捨て「最速で失敗し、最速で学ぶ」姿勢が求められます。
顧客からのフィードバックを基に、ピボット(方向修正)を厭わず、市場にフィットする形へとプロダクトを磨き込み、PMF(プロダクトマーケットフィット)を目指します。
パートナーシップ構築とアライアンス
自社にないリソース(技術、販路、データ)を補完するため、社外の企業と連携するのも重要な仕事内容です。
戦略的提携の交渉においては、自社の利益だけでなく、相手方にとってもメリットのある「Win-Win」の形を提示する構想力が問われます。
時にはグローバル市場を見据え、英語を用いた海外企業との交渉や、クロスボーダーでのアライアンスを主導することもあります。
組織化とオペレーションの構築
事業が軌道に乗り始めたら、属人的な活動を「仕組み」へと落とし込みます。
営業組織の立ち上げ、CS(カスタマーサクセス)の構築、業務フローの整備など、誰が担当しても事業が回る状態を創り出します。
0から1を生み出すフェーズから、1を10、100へと成長させるための土台を築き、最終的には既存部門へ引き継ぐか、一つの独立した組織として自走させるまでがセットです。
事業開発をする際に求められるスキルは?
事業開発は「総合格闘技」とも称されるほど、多岐にわたる能力を必要とします。
戦略を練る「知性」と、泥臭く形にする「実行力」の両輪が不可欠です。
以下に代表的な5つのスキルを挙げます。
論理的思考力と仮説検証能力
正解のない領域で戦うには、クリティカル・シンキング(批判的思考)が不可欠です。
「本当にこの課題は存在するのか?」と前提を疑い、データと事実(ファクト)に基づいた仮説を立てる力です。
また、検証結果を冷徹に分析し、論理的に次のアクションを決定する力は、事業の失敗リスクを最小限に抑えるために必須のスキルと言えます。
構想力とビジネスモデルの構築力
点と点を繋ぎ、新しいビジネスの形を具体化する力です。
市場のトレンドや自社の強みを掛け合わせ、他社が真似できない差別化要因をどう組み込むか。
ここでは、3C分析やバリューチェーン分析などのフレームワークを道具として使いこなし、
ステークホルダーが納得する「勝てるシナリオ」を描く力が問われます。
ステークホルダーを動かす巻き込み力
事業開発は一人では完結しません。
社内の反対勢力を説得し、開発や法務などの関連部署を味方につけ、社外のパートナーを鼓舞する必要があります。
相手の立場やインセンティブを理解した上で、共通のゴールを提示する高いコミュニケーション能力と交渉力が求められます。
プロジェクトを前進させる「人間力」とも言える要素です。
市場を切り拓く営業力と突破力
仕組みがない中で最初の顧客を獲得するには、高い営業力が求められます。
しかし、既存商品を売る営業とは異なり、「顧客と共に価値を創る」コンサルティング的なアプローチが必要です。
門前払いをされてもめげずに、顧客の懐に入り込んでインサイトを引き出す粘り強さと、障害を乗り越える突破力が事業を形にします。
語学力(英語)とグローバルな視野
最先端のビジネスモデルや技術は海外から生まれることが多いため、一次情報に触れるための英語力は強力な武器になります。
また、市場が国内に限定されない場合、海外ベンダーとの交渉や海外拠点との連携において、異文化を理解し、グローバルスタンダードでビジネスを推進するスキルは、活躍の場を大きく広げます。
事業開発はこんな人に向いています
特定の専門スキル以上に、マインドセットが成否を分けるのが事業開発の世界です。
どのような特性を持つ人が向いている人と言えるのか、5つの特徴を解説します。
不確実性を楽しめる「知的好奇心」の強い人
「答えがない状態」を不安に思うのではなく、自ら答えを創り出すことにワクワクできる人です。
新しいテクノロジーや社会の変化に敏感で、常に「なぜ?」を問い続けられる好奇心が、誰も気づかなかったビジネスチャンスを発見する原動力になります。
圧倒的な「当事者意識」と「志」がある人
事業開発は多くの壁にぶつかります。
その際、「誰かがやってくれる」ではなく「自分がこの事業を成功させる」という執着心を持てるかどうかが重要です。
グロービスで重視する「個人としての志」が、事業の理念と重なったとき、困難を突破する爆発的なエネルギーが生まれます。
失敗を「データ」として捉えられるレジリエンス
新規事業に失敗はつきものです。
一度の失敗で挫折するのではなく、「この方法はうまくいかないというデータが得られた」と前向きに捉え、即座に次の一手を打てる精神的なタフさ(レジリエンス)が必要です。
しなやかに適応し続ける力が成功を引き寄せます。
抽象と具体を自在に行き来できる人
高い視座で「市場に潜むニーズは何か、自社はどう動くべきか」という抽象的な戦略を語る一方で、現場の泥臭いオペレーションや顧客との細かなやり取りという具体的なディテールにも責任を持つ。
このマクロとミクロの視点を高速で往復できるバランス感覚が求められます。
多様な価値観を尊重し、チームで成果を出せる人
自分の専門外の領域(エンジニアリング、デザイン、法務など)に対して敬意を払い、異なる言語を話す専門家たちを一つのチームとして統合できる力です。
独りよがりにならず、周囲をリスペクトしながら巻き込める柔軟な人間性が、大きな事業を動かします。
事業企画とは違う
「事業開発」と「事業企画」は似た言葉ですが、その立ち位置と役割には明確な違いがあります。
事業企画の主なミッションは、既に存在する事業の「効率化」や「継続的な成長」にあります。
予算管理、既存リソースの最適化、年次計画の策定など、PDCAサイクルを回して事業の精度を高める活動が中心です。
一方で、事業開発は「非連続な成長」や「新市場の開拓」に主眼を置きます。
まだ形になっていないものを形にするため、既存のルールを壊したり、新しいルールを創ったりするプロセスが含まれます。
企画が「地図を読み、効率的に進む」仕事だとすれば、開発は「地図がない場所に、自ら道を切り拓く」仕事だと言えるでしょう。
営業とはどう違う?
最も混同されやすいのが営業との違いです。
営業の目的は「既存の製品・サービスを、ターゲットに対して適切な手法で提供し、売上目標を達成すること」にあります。
対して事業開発は、「何を売るか、誰に売るか、どう売るか」という前提条件そのものを創り出すことが仕事です。
時には自ら営業活動を行いますが、それは売上を上げるためだけではなく、「この商品は本当に顧客に刺さるのか」という仮説を検証するための活動です。
営業が「今の売上」を作るのに対し、事業開発は「未来の売上を創る仕組み」を作ります。
事業開発のキャリアパス
事業開発を経験した先には、ビジネスパーソンとして非常に希少価値の高いキャリアが開けています。
未経験からの挑戦
事業開発は、特定の職種経験以上に、課題解決力やマインドセットが重視されます。
未経験から挑戦する場合、まずは現在の職種(営業、企画、エンジニアなど)において「既存の枠組みを超えた改善」や「小規模なプロジェクトの立ち上げ」を自ら名乗り出て実績を作ることが近道です。
また、グロービス経営大学院のような場所で、経営の基礎体力となる体系的な知識と、実践的な思考プロセスを学ぶことも、未経験から事業開発へと舵を切る際の強力な武器になります。
経験者のステップアップ
事業開発を経験し、0から1、1から10への成長を主導した経験者は、市場価値が極めて高まります。
主なステップアップとしては、
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経営者・CEO: 事業を一つの会社としてスピンオフさせ、代表として牽引する。
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CBO(Chief Business Officer): 企業の事業成長の責任者として、複数の事業を統括する。
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連続起業家(シリアルアントレプレナー): 培ったノウハウを活かし、次々と新しい事業を立ち上げる。
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ベンチャーキャピタリスト(VC): 事業を創る経験を活かし、投資家として新規事業を見極め、支援する。 まさに「経営の予行演習」とも言える事業開発の経験は、トップマネジメントへの最短距離となります。
事業開発部の年収相場は
事業開発は企業の将来を左右する重要なポジションであるため、年収相場は他の職種と比較しても高い傾向にあります。
日系大手企業の課長・チームリーダークラスであれば700万〜1,200万円程度、外資系企業やスタートアップのBizDevリーダー層であれば1,000万〜2,000万円を超えるケースもあります。
また、スタートアップにおいてはストックオプション(株式購入権)が与えられることも多く、事業の成功が個人の莫大なリターンに直結する点も、このキャリアの大きな魅力の一つです。
事業開発スキルを身に付けるなら「グロービス経営大学院」がおすすめ
事業開発に必要な「論理的思考力」「戦略構築力」「リーダーシップ」を体系的に、かつ実践的に学ぶなら、日本最大のビジネススクールであるグロービス経営大学院が最適です。
実務家講師陣によるケースメソッドを通じて、数多くの失敗事例や成功事例を擬似体験し、明日から現場で使える武器を手に入れることができます。
また、共に切磋琢磨する志高い仲間とのネットワークは、将来の事業パートナーを得る機会にもなるでしょう。
まとめ
事業開発(BizDev)は、単なる職種名ではなく、企業の未来を創り出すための「執念」と「技術」が凝縮された営みです。
提供価値を磨き上げ、独自のビジネスモデルを構築し、ステークホルダーを巻き込んで形にする。
そのプロセスは困難の連続ですが、成し遂げた先にある景色は格別です。
本記事で紹介したスキルやフレームワークを、ぜひあなたの現場で実践し、新しい価値を創造する第一歩を踏み出してください。
著者情報
吉峰 史佳(グロービス コンテンツオウンドメディアチーム)
早稲田大学第一文学部、東京大学大学院情報学環教育部を修了。HR業界紙の編集者、AI開発スタートアップでの広報を経て、現職でグロービスのオウンドメディア編集に従事。自身もグロービス経営大学院 経営研究科 経営専攻を修了している。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。