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近年、マインドフルネスに注目が集まっています。
ストレスを感じやすい世の中になり、心身の健康を保ちにくいと悩むビジネスパーソンが増えているのでしょう。
マインドフルネスとは、どのようなものなのでしょうか。
本記事ではその概要やメリット、私たちができる実践方法についてお伝えします。
マインドフルネスとは
マインドフルネスとは、「今、この瞬間だけを意識している心の状態」です。
マインドフルネス瞑想などの手法で、この状態を維持できるようになるとされています。
仏教の瞑想に由来すると言われており、マサチューセッツ大学医学大学院のジョン・カバット・ジン教授が1979年頃より医療行為に取り入れ始めました。
もともと、マインドフルネスとは日常生活を送る人々には直接関係しないものだったのです。
ところが21世紀に入ると、マインドフルネスはビジネス界でも注目され始めます。
ビジネスでマインドフルネスが注目されている理由
近年はビジネスパーソンのストレスが増し、メンタルケアが重要になっています。
鬱などの気分障害に悩む人も珍しくなく、厚生労働省が発表している「精神疾患を有する総患者数」は年々増え続けているのです。
その理由は、世界の環境が激しく変わっているからだと考えられます。
21世紀は非連続の時代だと言われます。
世界でのテロ多発、リーマンショック、自然災害の増加、そして新型コロナウイルス感染症の流行と、予期せぬことが次々に起き続けています。
私たちは過去のできごとや起きるか分からない未来の問題ばかり考えてしまい、不安やストレスを感じやすい状況で生きているのです。
また、IT技術の発達によりビジネスのスピードが上がり、常に早い対応を求められることもストレス増加につながっています。
いつも何かに追われている気持ちになり、心が休まる時間が減ってしまいました。
ストレスを感じやすい時代を生きている私たちは、自分の心身のケアを意識的にする必要があると言えるでしょう。
ストレスを感じるのは心が弱いからではありません。
このような時代において、より良い仕事をするためにマインドフルネスを実践する人や企業が現れてきました。
アップル創設者のスティーブ・ジョブズ氏がマインドフルネスを実践していると知れ渡ったことは、注目度が高まるきっかけになりました。
マインドフルネスを導入している企業例
社員研修でマインドフルネスを取り入れる企業も出てきました。
アップルやGoogleなどアメリカの企業からその流れが起き、今ではメルカリやヤフーといった日本企業も実施しています。
Googleが開発した「サーチ・インサイド・ユアセルフ」というマインドフルネス実践研修は、世界的に有名になりました。
企業が業績を上げていくためには、社員の心身の健康面にも配慮すべきであるとの認識が近年高まっています。
マインドフルネスを行うメリット
マインドフルネスを日常に取り入れると、心理的にも身体的にもメリットがあるとされています。
具体的にどのような効果があるのでしょうか。
ストレスや不安、恐れの気持ちが軽減される
ストレスや不安は、主に過去や未来のできごとに対して抱くものです。
マインドフルネスを実践し「今、この瞬間」に意識を向けると、自分ではどうにもできない過去や未来ばかりを無駄に考えてしまうことが減っていきます。
また、自分が怒りや悲しみなどを感じていることに気づくようにもなります。
自分を客観的に見られるようになり、感情をコントロールしやすくなるメリットもあるのです。
集中力が高まる
「今、この瞬間」というひとつのことに意識を向けていると、集中力もおのずと高まります。
私たちがつい、過去や未来を考えてしまうのは集中力が分散されてしまっている状態なのです。
マインドフルネスを実践して集中力が高まると、仕事のパフォーマンスも上がることが期待されるでしょう。
よく眠れるようになる
仕事での不安やストレスで、なかなか寝付けなかった経験がある人は多いのではないのでしょうか。
マインドフルネスを実践し、精神的なストレスが減ると身体的にもリラックスできるようになります。
呼吸が深くなり、睡眠の質が上がる効果も期待できるのです。
科学的な観点からの有効性
マインドフルネスの効果は、科学的な観点からも実証されています。
ハーバード大学で心理学を専門とするサラ・ラザール准教授の研究によると、マインドフルネス瞑想を8週間続けると、脳の海馬や扁桃体に良い効果が見られたとのことです。
海馬は学習や記憶を司る脳の部位で、ストレスを受けると萎縮するとされています。
この研究では、8週間のマインドフルネス瞑想によって海馬が厚くなった、つまりストレスが緩和されたとの結果が得られました。
情動を司る扁桃体は、不安を感じると動きが活発になる特徴があります。
マインドフルネス瞑想によって扁桃体の活動が緩やかになることも確認されました。
マインドフルネスは人が主観的に感じるメリットだけでなく、脳への効果もあることが明らかになっているのです。
心理療法としても取り入れられている
先ほど紹介したジョン・カバット・ジン教授は、病による痛みを緩和する方法としてマインドフルネスストレス低減法を開発しました。
身体のストレスをマインドフルネスによって和らげる方法で、1970年代から医療現場で取り入れられています。
さらに1990年代には、鬱病や摂食障害などの治療に用いるマインドフルネス認知療法という心理療法も生まれました。
マインドフルネスストレス低減法、マインドフルネス認知療法ともにその有効性が明らかになっており、危険な副作用の可能性も低いため今でも心理療法として使われています。
マインドフルネス瞑想の実践方法
私たちが日常生活に取り入れられるのが、マインドフルネス瞑想です。
書籍『マインドフルネス瞑想入門』によると、マインドフルネス瞑想とは自分の内側で起こっていることに意識を集中させるための、脳や心のトレーニングであるとされています。
具体的な方法は、椅子か床に座り、姿勢を正して自分の呼吸に意識を集中させるというものです。
リラックスできる静かな場所を選ぶと良いでしょう。
瞑想をするのは、1日数分でも構いません。
起床後や寝る前など、生活が切り替わるタイミングで行う人が多いようです。
正しい姿勢で、自分の呼吸だけに意識を集中させるのは意外と難しいものです。
ひとりで実践することが難しければ、外部の講座やサービスを利用するのも手段のひとつです。
今ではオンライン講座やアプリもあるので、自宅でも取り組みやすくなっています。
マインドフルネス瞑想を行う上でのポイント
マインドフルネス瞑想を実践するにあたってのポイントを見ていきましょう。
何も判断をしない
瞑想をしていて集中が途切れてしまうことがあっても、「自分はダメだ」「できなかった」などと思う必要はありません。
マインドフルネス瞑想においては、良い、悪いという評価や判断はしないようにしましょう。
集中が途切れたら、「今日は集中できない日だな」と感じるだけで良いのです。
ありのままを感じて受け入れるのがマインドフルネス瞑想です。
継続的に行う
マインドフルネス瞑想は、毎日続けることで効果が高まるとされています。
習慣化することがカギです。
そのためには、1日の中で瞑想をする時間を決め、短時間でも実践し続けてください。
習慣化の第一歩は無理のない範囲から始めることです。
続けているうちに、「今日は不安を感じることがなかった」「仕事によく集中できた」といった小さな変化を感じられるでしょう。
まとめ
マインドフルネスは、激動の時代を生きる私たちが心身の健康を保つために役立つ考え方です。
私たちは過去や未来を生きることはできません。
今、この瞬間に意識を向けることは健やかに生きる術のひとつなのです。
仕事でのストレスをすぐに減らすことは現実的には難しいかもしれませんが、自分がまず実践できることとして、日々の生活にマインドフルネスをぜひ取り入れてみてください。
<参考>
・厚生労働省|精神疾患を有する総患者数の推移
・吉田昌生著(WAVE出版)|『1日10分で自分を浄化する方法 マインドフルネス瞑想入門』
・How Meditation Can Reshape Our Brains:Sara Lazar at TEDxCambridge 2011
著者情報
御代 貴子
慶應義塾大学文学部人間関係学科心理学専攻卒業。グロービス経営大学院(MBA)卒業。システムエンジニアを経て、株式会社グロービスに入社。グロービスでは法人向け人材育成・組織開発のコンサルティング、グロービス経営大学院オンラインMBAの新規学生募集、アセスメント事業の企画等に従事。人事組織系領域のコンテンツ開発、論理思考領域の講師も担当した。株式会社ゆとりの空間で新規事業企画やコンテンツ開発を担当した後、現在はフリーランスの編集者・ライターとして活動中。
『一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略――テクノロジーを武器にするために必要な変革』共訳(ダイヤモンド社)。
※本記事の肩書きはすべて取材時のものです。